カテゴリー:周辺諸国・外交

「 領土主権の意識なき民主党政権の危うさ 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年8月7日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 849




一国の指導者が一ミリも譲ってはならない事柄がある。その一つが領土問題である。だが、民主党政権は初代首相の鳩山由紀夫氏も二代目の菅直人氏も、領土問題に関してはわれ関せずの姿勢を取る。この一事だけでも、民主党の現執行部には国政を担う資格がないのである。

7月28日、各紙は、「北方領土三世」に菅首相が会わなかったと伝えた。元居住者の孫世代の中学生7人が、27日に首相官邸を訪問したとき、菅首相は官邸にいながら会わなかったというのだ。

元居住者の子どもたちが首相官邸を訪れるのは、過去40年間、毎年の行事であるが、首相が会わなかったのは今回が5回目だ。ただし、過去の4回は組閣直前や国政選挙の最中だったりというタイミングでやむを得ない事情だったが、今回は会う意思さえあれば会える状況だったというのである。会わなかったという事実を、ロシアは、日本国の首相はもはや北方領土に無関心だという意味でとらえるだろう。

菅首相はこのところ、保育園を訪れて子どもを抱き上げ写真に納まるなど、世論を意識した行動が目立つ。子育てや教育についての関心が高いことを示し、支持を高めたいのであろう。

しかし、子どもたちの未来が、国の基盤がしっかりしているか否かによって根本的な影響を受けるのは当然だ。領土問題で譲ることは、子どもたちの未来に影を落とすことにもなるのである。

北方領土は旧ソ連が日本との中立条約を破って突然、1945年8月9日に侵攻を開始し、不法占拠して今日に至る。この問題の解決なしには、日ソ(日ロ)間の戦争処理は終わらない。だからこそ日ロ間にはいまだに平和条約が結ばれていない。国際法上は日ロ間の戦争処理は未完なのだ。そのような状況下で、ロシア政府は日本が降伏文書に署名した9月2日を事実上の対日戦争記念日に定める法律をつくった。

領土の不法占拠を正当化し、現状固定を是とする考えを法律にしたものであり、日本政府は強く抗議しなければならない。武正公一外務副大臣は7月26日、「わが国の立場に一定の配慮を行った」と会見で述べて、抗議はしない考えを示した。

このことはベタ記事ながらも報道された。すると、翌日、外務省欧州局参事官が、駐日ロシア臨時代理大使に電話をかけて、「日ロ関係にふさわしいとは思えない」と抗議した。

役人に電話を一本かけさせてすませたのだ。領土、戦争という重大問題に関して、こんな軽い対応ですませてよいと思うのか。この領土主権の意識のなさ。民主党政権の、これが限界だと言わざるを得ない。

竹島問題についても、民主党は本当におかしい。岡田克也外相は、今年4月7日、衆院外務委員会で韓国が竹島を不法占拠し続けていることに関して、「不必要な摩擦を招かないようにしたい。その言葉(不法占拠)は使わないと心に決めて交渉している」と述べた。

日本の立場を主張して摩擦が生じたと仮定して、それが必要な摩擦なのか不必要な摩擦なのかを、岡田外相はいったい何を基準にして測るのだろうか。基準は国益にかなうか否かでなければならない。摩擦回避のために主張せず、韓国の実効支配の現実をおとなしく受け入れるとしたら、日本政府は竹島を韓国の領土と認めたと受け止められるのは当然で、国益を損なうことはなはだしい。

竹島に関しては、鳩山氏が首相だった昨年暮れ、高校の新学習指導要領解説書の領土問題の部分から竹島の記述が削除された事実がある。文部科学省側は直前まで、竹島と北方領土の両方を、日本の抱える領土問題として併記する予定だったという。それを、発表直前に鳩山氏が指示して、削除させた。民主党政権は文字どおり、日本を危うくする政権だといってよいだろう。


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「 アジア海域で止まらない中国 」 

『週刊新潮』 2010年8月5日号
日本ルネッサンス 第422回




7月25日から28日までの4日間、過去最大規模の米韓合同軍事演習、「不屈の意志」が日本海で行われた。

横須賀を母港とする原子力空母「ジョージ・ワシントン」を主軸に、艦艇約20隻、航空機約200機、人員約8,000人を投入した演習だった。日本の海上自衛隊の幹部4人もオブザーバーとしてジョージ・ワシントンに乗艦したが、米韓軍事訓練への自衛隊の参加は初めてである。

訓練は北朝鮮の潜水艦の探知、捜索、攻撃などを想定し、第5世代戦闘機F22も4機投入された。演習の規模や内容から判断すれば、米韓両国の意思は固く、投入し得る軍事力は強大に思える。だが、仔細に見れば、「不屈の意志」には中国が色濃い影を落としているのが見てとれる。

「北京コンセンサス」という言葉が浮かんでくる。かつて、国際社会では「ワシントンコンセンサス」が囁かれた。米国の了解や合意なしには国際社会のルールは成立しない、ルールは米国が作るという意味だ。いまそれが、アジア海域で北京コンセンサスにとって代わられつつあるのではないか。そう思わせたのが「不屈の意志」だった。

そもそも、同演習は3月26日、韓国の哨戒艦、「天安」が北朝鮮に撃沈されたことをきっかけに立案された。だが、北朝鮮は「北朝鮮犯行説」に烈しく反発、未だに事件への北朝鮮関与説を「創作劇」だと主張し、韓国に「北朝鮮非難を謝罪し、事実を認識せよ」と要求する。

中国は国連安保理における議論では徹頭徹尾、北朝鮮の側に立った。引き揚げられた天安の傷跡が立証した魚雷攻撃の証拠、或いは撃沈現場の黄海海底から回収された北朝鮮製魚雷の部品など、どのような物証を示しても、中国は納得しなかった。


圧倒的軍事力を有する中国


最終的に、国連安保理は7月9日、「天安撃沈につながった攻撃を非難する」としたが、北朝鮮の名指しは避けた。韓国軍民による合同調査で北朝鮮が天安沈没に責任ありとした結論を「考慮し、深い懸念を表明」した一方で、「無関係だと主張する北朝鮮の反応にも留意」するとの議長声明をまとめたのだ。中国の反対で、北朝鮮制裁はおろか非難決議も出来なかったわけだ。イランの核開発疑惑に関しては、シブシブながら追加制裁決議に同意したのとは対照的に、中国と国境を接し、それだけに中国の国益に直接関わってくる北朝鮮問題に関しては、米国の影響排除を徹底させたのが中国だった。

この国連議長声明から2週間後、ベトナムのハノイでASEAN地域フォーラム(ARF)が開かれた。焦点は2つ、天安事件に関して北朝鮮非難をどのようにまとめるか、南シナ海の西沙、南沙両諸島をめぐる中国対ASEANの対立にどのような解決の道筋をつけるかである。

前者についてクリントン国務長官は北朝鮮の責任を厳しく追及、「挑発的行為をやめ、隣国との関係を改善すべきだ」と要求した。同長官はARFに先立って、ゲーツ国防長官と共にソウルを訪れ、初めて米韓外相・国防相会談(2プラス2)を開いた。その後、わざわざ4者揃って38度線の板門店に出向き現地を視察してみせた。「米国は韓国と共にある」との強いメッセージを北朝鮮、そして中国向けに発信したのだ。

これほど意気込んで臨んだのに、米国はARFでも中国の外交攻勢に競り勝つことが出来なかった。日米韓の強い要請にも拘らず、ARFではまたもや北朝鮮の名指しは行われなかったのである。

後者の南シナ海問題では、南シナ海の西沙、南沙両諸島の領有を主張する中国に対し、ベトナム、台湾、マレーシア、ブルネイ、フィリピンなどが異議を唱えてきた。しかし、圧倒的軍事力を有する中国は、現在、これら諸島を実効支配する。

中国はこれらの国々との二国間交渉で、個別撃破を狙ってきたが、ASEAN側は多国間交渉を主張し、米国を引き入れ、味方につけたい考えである。クリントン長官は「南シナ海の航行の自由は米国の国家利益だ」と発言はしたが、同発言は、ARF閣僚会議終了後のことだった。ASEANは米国関与の可能性を引き出しはしたが、米国はあからさまな介入には依然、慎重である。

米韓合同演習はこうした複雑な事情の中で行われた。国連でもARFでも、米中の鬩(せめ)ぎ合いが顕著だったように、「不屈の意志」の立案、実行においても、米国は中国の強い姿勢の前で変更を迫られた。

軍事演習は、当初、撃沈事件が発生した黄海で演習すると5月24日に発表された。だが、国連安保理で中国の協力を得るための外交的配慮として延期された。その間に中国は、一貫して北朝鮮を擁護しつつ、「中国近海への外国艦艇の進入は中国の安全を侵す」と米国を牽制し始めた。中国メディアには「中国の安全保障への挑戦」「米中に海上衝突の危機」などの非難の声が載った。報道は中国政府の意向であり、7月17、18日の両日、中国海軍は黄海上で米国牽制が明らかな軍事演習を断行した。


毅然とした対中姿勢を保つ


対して米国は妥協した。演習海域を黄海から東の日本海に移したのだ。中国の言い分を米国が聞き入れたのである。眼前に出現した現実は、黄海や東シナ海、さらには南シナ海など中国の周辺海域のルールは中国が作るということである。今年5月3日、中国の艦船が東シナ海で日本の海上保安庁の測量船を、中国の海から退去せよといって追い回したことを、私たちは思い出すべきだろう。

ここで必要なのは日米韓のさらなる協力である。3国が協力して毅然とした対中姿勢を保つことだ。だが、米国は、軍事的には中国を警戒しながらも、米中が合体したかのような経済交流のなかで身動きが取りにくい状況になっている。したがって米国の対中姿勢は思わぬところで揺れる。南シナ海の航行の自由の担保のように、自国の権益に関わりのあることでは発言するが、たとえば、ベトナムに人権状況の改善を要求しながら、ベトナムよりはるかに人権弾圧の厳しい中国の人権問題には口を閉ざし続けるように、極力、米国にとって不必要な中国との対立や摩擦を避けるのが米国外交の現実だ。

韓国は米国と共同歩調をとりながらも、危うい要因を抱え込んでいる。表向きの対北強硬策とは裏腹に天安事件発生直後、李大統領は北朝鮮関与説を意図的に排除しようとした。事件発生から約3週間後の4月15日、韓国の世宗研究所は、なんと、第3回の南北首脳会談を成功させようというセミナーを開催した。李大統領はともすると北朝鮮の脅威から目を逸らし、親北朝鮮に流れがちなのだ。それは中国の思惑に沿った中国支配の朝鮮半島を作ることである。

この厳しい周辺状況の下、日本の国運をかける意気込みで防衛力の強化整備に集中しなければならない。

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「 北朝鮮関与を否定したい李大統領 」

『週刊新潮』 2010年4月22日号
日本ルネッサンス 第408回





突然真っ二つに割れて沈没した韓国海軍の哨戒艦「天安」、韓国沿岸作戦の主力艦の轟沈という一大事件への韓国政府の対応は奇妙である。

沈没から2週間が過ぎたいま、北朝鮮が関与した可能性が言及されつつある。かといって、北朝鮮との決定的な対立を好まない李明博大統領が、どこまで真相解明を進めるかについては、未だ不明瞭だ。

沈没までの経緯を振り返ってみよう。天安(1,200トン)は3月26日夜、韓国北西部沖の黄海で警戒任務中だった。海上の軍事境界線(NLL)近くの同海域は北朝鮮の西海岸を監視する、南北対立の最前線だ。天安が展開していたのは、NLL近くの白翎島(ぺニョンド)の、北朝鮮側から見れば島影に隠れる海域、つまり、北朝鮮のレーダーに映りにくく、その分攻撃されにくい海域だった。

だが、そこで午後9時22分、「爆発」が起きた。韓国地質資源研究院の観測所が地震波としてこれを観測したのが9時21分58秒だ。その1秒後には強力な爆発があったことを示す音波が1・1秒間隔で2回にわたって観測された。「ドーンドーンという爆発音を2回、聞いた」という生存者らの証言を裏づけるものだ。

真っ二つに割れた天安の艦尾が沈んでいく様子は、白翎島の韓国海兵隊のカメラに記録されていた。異変をとらえてカメラが作動し始めてからの撮影であるため、爆発の瞬間はないが、公開映像から艦尾がほぼ1分で、あっという間に沈んだのが見てとれる。爆発から沈没までは約2分、乗組員104人のうち46人が犠牲になった。艦首の自室で就寝中だった艦長は閉じ込められたが、扉を壊して脱出、船上に出た。

少し離れた海域にいたもう一隻の哨戒艦が現場海域に急行し、レーダーに映った「42ノットで走るもの」を見つけて攻撃した。42ノットは時速78キロだ。これは後に「鳥の群れ」だったと発表されたが、午後9時半、暗闇の海を、果たして鳥は群れをなして飛ぶのだろうか。


長官の手元に一枚のメモ


天安の艦首に残っていた乗組員58人の救助が終わったのは11時過ぎ、艦首が完全に沈んだのが日をまたいだ27日の午前1時だった。

この間、李大統領は直ちに緊急安保閣僚会議を招集、翌日まで断続的に4回会議を重ね、天安沈没の原因は「艦内で爆発が起きた」「岩礁にぶつかった」「老朽艦ゆえの金属疲労だった」など、事故の可能性を前面に打ち出し、北朝鮮の関与を、事実上、否定した。

韓国の国会は原因究明のため、4月2日、金泰栄(キム・テヨン)国防長官を呼んで質したが、長官の答弁は青瓦台(大統領府)と軍当局の事件に対する見方の相違を全国民の目に晒す結果となった。詳細を韓国の有力紙『朝鮮日報』から拾ってみる。

与党ハンナラ党議員の問いに、長官はまず、艦内爆発説の可能性を否定した。「可能性は非常に低い」、「船体内での爆発であれば、砲弾などが爆発していたはずだが、その可能性はほとんどない。自分は砲兵将校出身で多くの砲弾を取り扱った」と述べたのだ。次に、座礁について、その場合は船底に穴が開くが2つに割れるケースはこれまで見当たらないとして退けた。消去法で原因と思われる要素をひとつずつ潰していくと、残るのは「機雷か魚雷」である。どちらがより可能性が高いかと問われて金長官は答えた。

「どちらも可能性があるが、魚雷の可能性の方がやや現実的と思う」
魚雷を韓国艦船に向けて発射する能力、意図、動機などを考えると、北朝鮮に行きつかざるを得ない。金長官は、事実上、北朝鮮の攻撃によって撃沈されたと考えるのが妥当だと、答弁したわけだ。
ところが、そのあと、長官の手元に一枚のメモが届いた。それをインターネットメディアの「ノーカットニュース」が報じた。メモは手書きで、内容が拡大されて画面に映った。そこには、「次の答弁では、魚雷以外にも複数の可能性があるとの趣旨で発言せよ」と書かれていた。結果、長官は質疑応答の後半部分で、先に述べた北朝鮮の関与以外に考えられない魚雷攻撃の可能性を否定し、すべての可能性を検討しなければならないと、自身の発言を変えたのだ。

大統領府は直ちに弁明した。これは大統領の指示ではなく、国防長官秘書官が国会中継を見て国防部に伝えたのだが、国防部が「行き過ぎた」解釈で大統領の意向だと誤解し、国防長官にメモを渡したというのだ。

早稲田大学客員研究員の洪熒(ホン・ヒョン)氏が指摘した。


北朝鮮を疑う情報は否定


「大統領は、軍に如何なる予断も慎重にせよと指示しています。26日夜から27日朝にかけての安保閣僚会議の出席者は大統領、首相、大統領室長、大統領の外交・安保首席秘書官、国家情報院院長、国防長官です。国防長官は北朝鮮の関与を、当然、疑っていました。それは2日の国会答弁からも明らかです。しかし、国防長官を除く5人は、北朝鮮関与の証拠は何かと、問うたのです。この5人は軍を指揮したことのない人々です。それが、事件発生直後の夜中の会議で、専門家である国防長官の意見を聞かず、北朝鮮犯行説の可能性を語るなら証拠を出せと迫った。その時点で証拠を出せると考える方が不合理です。結局、素人たちが多数決で、予断し、北朝鮮による攻撃の可能性を打ち消した。実に愚かです」

事件発生から半月、李大統領は一度も同事件に関して直接国民に語りかけていない。46名もの兵の命が奪われた一大事件で国のトップが一言も発言しないのは異常である。加えて青瓦台から発信される情報は北朝鮮犯人説を打ち消すものばかりだ。金国防長官へのメモに象徴されるように、北朝鮮を疑う情報は積極的に否定する姿勢が目立つ。その理由を、洪氏は大統領が南北関係を進展させたいと考えているからだと語る。

「大統領の側近を見れば、大統領が北朝鮮関与の可能性を否定する理由が自ずと解ります。金大中、盧武鉉と二代続いた左翼政権の主要人物がそのまま政権中枢に残留していて、影響されているのです」

一例が統一秘書官の鄭文憲氏だと洪氏は語る。

「(2000年の)6・15(金大中・金正日首脳会談)を、当時、反金大中だった野党ハンナラ党の議員だったのに支持したのが鄭氏です。北朝鮮の主張どおりの内容となった6・15宣言の履行が持論で、その立場から李大統領に影響を与えています」

金大中、盧武鉉路線の鄭氏ら、現在李大統領を取り巻く人々は北朝鮮の脅威を最小化して考える。有事の際の中国介入の可能性も極めて低く見る。彼らに影響される李大統領の危機管理能力は極めて低い。このことを前提に、日本は朝鮮半島政策を考えなければならないだろう。

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「 日本人を使ったダミー取引で森や水資源を奪う中国などの外資 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年4月17日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 834




4月5日にタイ中部のホアヒンでメコン川委員会(MRC)の初の首脳会議が開かれた。タイ、ベトナム、ラオス、カンボジアの4首脳を軸に、中国をオブザーバーとしての会議である。

メコン川に依存して生計を立てる流域人口は6,000万人、農業、漁業、物流すべてが豊富な水量あってのことだ。ところが1990年代後半以降、水位は下がり続け、異常渇水が発生、今年の水位は過去20年間で最低になった。

4月2日に発表されたMRCの2010年版レポートは、大きく変化した水関連資源の状況は、「今後も拡大、深刻化する」と予測した。中国が上流に築いた水力発電用ダムの本格稼働以降、川の環境が変化したことを示唆しているのだ。

MRC首脳会議はホアヒン宣言を採択して閉幕したが、結局、中国にもの言えずして終わった。会議の開催目的と見られていたのが中国のダム開発に歯止めをかけることだった。宣言には、しかし、開発への歯止めは盛り込まれず、中国のダム開発が原因であることさえ、言及されなかった。

メコン川は雲南省を通って、下流諸国に流れ込む。中国は過去15年間に、その上流に4つのダムを完成させた。メコン川の水量が減り、環境の変化が起きて、流域諸国がMRCを設けたのが95年である。中国のダムとメコン川の変化の時期はちょうど重なる。両者間には明らかな因果関係がある。

だが、会議に出席した中国の宋濤副外相は、水位の低下は気候変動が要因で、中国の責任ではないとして、「中国犯人説」を強く打ち消した。さらに中国は、8つの新たなダムを建設予定だと伝えられるが、こうした点を含めて、宋副外相は中国の方針については明らかにしなかった。

中国内を流れる川の資源は、すべて中国のものという考えなのだ。下流に住む人々、その人々を養う諸国にとってはまさに悪夢である。メコン流域諸国の直面するこの問題は、じつは日本にとって他人事ではない。

『奪われる日本の森 外資が水資源を狙っている』(平野秀樹、安田喜憲著、新潮社)には、空恐ろしい実態が報告されている。日本の森林資源が大量に取引されており、その面積は過去10年間でほぼ倍増、特にここ3年の取引の拡大は著しいという。都道府県別で最も取引面積が多いのが、北海道、宮崎、福島、熊本だそうだ。

問題は、買い手が誰なのかがわからないことだ。「個人情報」を楯に、いっさい公表されないのである。

公益よりも私益が絶対的に優先される日本の土地制度に加えて、行き過ぎた個人情報の重視は、素性を知られたくない人々にとってはまことに好都合である。だが、正確には掴めないながらも、中国を含む外国資本が日本の森を買い進めているのは事実である。彼らは取引上の名義にダミーの会社や個人を当て、日本人を使って購入させる。その後、外資に再譲渡されても情報公開されることはない。かくして、08年には3万2,000ヘクタールの森林が取引された。これでは対馬と同じことが日本全国の森で起きるだろう。

『奪われる……』で安田氏らは、対馬での韓国人の土地購入は80年代後半から始まっていたと指摘する。日本人が気づいたのは約20年後の08年、韓国資本が海上自衛隊対馬防備隊本部に隣接する港湾周辺の土地、3,000坪まで買ったときだ。その時点まで日本人が気づかなかった理由は、取引のじつに90%が日本人を使ったダミー名義で行われていたからだ。

同じ手法で中国資本を筆頭にした外資が日本の森林に手を伸ばしている。森はその下の水脈もろとも外資に奪われる。だが、日本政府はここに至っても、実態把握さえできていない。無防備な日本、あまつさえ、首相はあの鳩山由紀夫氏だ。日本の未来が心配だ。

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「 朝鮮高校の授業料無償化は不当だ 」

『週刊新潮』 2010年4月15日号
日本ルネッサンス 第407回




高校授業料無償化法が3月末の参院本会議で、与党、公明、共産などの賛成多数で成立した。朝鮮学校はじめ各種学校への支給については結論を出さず先送りした。いずれ文部科学大臣の下に専門家委員会を設けて結論を出させるそうだが、政治主導といいながら、この内閣は大事なことほど自ら決められないのである。

小沢一郎民主党幹事長も、鳩山由紀夫首相も、一日も早い予算執行を促してきた。明らかに参院議員選挙を意識した対策だ。子ども手当も高校授業料無償化も家庭に当面の「実益」をもたらす。たとえそれがより大きな借金となって、将来、子供世代が返済しなければならない性質のものだとしても、実際に幾許かの現金が転がり込めば、有権者は「政権交代を実感」し、民主党支持が固まると考えているのだ。なんと、有権者をコケにした考えであろうか。

朝鮮学校の問題点を見てみよう。井戸敏三兵庫県知事は法案成立以前から朝鮮学校を無償化の対象に加えると明言してきた。一方、橋下徹大阪府知事は朝鮮総連との関係を絶つことなどを補助支給の条件とした。井戸知事は橋下知事に関して、「(補助支給は)拉致問題と引き換えにするようなことではない」と批判したが、井戸知事こそ間違っていないか。

日本において、在日朝鮮人の子供たちが民族差別を受けたり、教育を受ける権利を侵害されたりすることはあってはならないが、高校授業料無償化問題で問うべきは、朝鮮学校がこれまでどんな教育をし、どんな役割を果たしてきたかである。その点で、朝鮮学校と朝鮮総連の関係は精査されなければならない。先述したように、橋下知事は、朝鮮学校が朝鮮総連との関係を絶つことなどを支給条件としたが、両者の相互関係の断絶は土台無理な話である。


総連が教員人事まで

3月12日の『産経新聞』は、金正日総書記の「民族教育強化」の方針の下で、朝鮮総連から全国の朝鮮学校幹部に、高校授業料無償化獲得のために運動を展開せよとの指示が出されていたことを報じた。これは朝鮮総連の内部文書から判明したもので、当の内部文書を、北朝鮮の民主化に取り組むNPO「RENK」代表の李英和関西大教授が3月11日に記者会見を開いて公開した。

李教授が改めて取材に応じた。朝鮮学校が朝鮮総連との関係を断ち切ることは可能かと問うと、氏は「相当難しい」と、次のように述べた。

「私が記者会見した週の週末、全国の朝鮮総連幹部が一堂に会して緊急会議を開いたのです。意見は二分され、改革派は、たとえば橋下府知事のような外部意見を受け入れて無償化を勝ち取るのが得策だと述べたそうです。対して、主流を成す守旧派は、そもそも朝鮮学校は首領様の学校だ、教科内容も標語も変えることは出来ないと、強硬だったそうです」

橋下知事が要求した金正日総書記の肖像画を外したり、総書記大礼賛の授業内容を変更するようなことは起こり得るのか、改革派は勝てるのか。李教授は笑って否定した。

「あり得ませんね。勝負は明らかです。現状維持のまま、彼らは授業料無償化の予算を日本政府と地方自治体からせしめるつもりです」

特定失踪者問題調査会代表の荒木和博氏も、朝鮮学校は朝鮮総連と関係を絶つことは出来ないと見る。氏は、総連が教員人事まで含めて、朝鮮学校の管理運営に当たっている事実を認識せよと語る。

「『在日朝鮮人子弟の民族教育を考える懇談会』(以下懇談会)がまとめた資料に『総連関連担保物件と借入金状況』というものがあります。これによると、朝鮮学校の敷地を担保にして朝鮮総連関係者が巨額の借り入れを行っている案件が目立ちます」

資料は98年7月時点のものだが、さまざまな不動産を担保にして朝鮮総連関係者が億単位の資金を調達した案件が並び、幼稚園から大学まで各種朝鮮学校が半数以上を占めているのが目を引く。融資が不良債権化したとき、担保の土地は、学びの場との理由で回収対象から外された。

さて具体例である。例えば生野朝鮮幼稚園を担保に18億9,000万円が借り入れられている。他にも生野朝鮮初級学校(小学校)を担保に2億円、京都朝鮮初中級学校(小・中学校)で40億円、神戸朝鮮高級学校(高等学校)で10億3,000万円、東京朝鮮第八初級学校で42億円、総連中央学院で100億円、朝鮮大学校横の土地で109億円といった具合だ。

先述のように、これは98年7月の数字であるから、現在の状況は変化しているだろう。ただ、ここから見えてくるのは、各地域の各種朝鮮学校を担保として巨額の借り入れがあったという事実と、その資金を朝鮮総連がどのように使ったのかという疑惑が、現在も未解明であることだ。これまでの経緯から、朝鮮総連が資金を北朝鮮に送り、金正日を支えてきたことは十二分に考えられる。荒木氏も語った。


日本国民の税金

「かつて、こんなことがありました。修学旅行で北朝鮮を訪ねる朝鮮学校の生徒らに、万景峰号への乗船前に、朝鮮総連新潟県本部が現金入りのバッグを、中身を知らせずに持ち込ませ、乗船後に、船内で回収したそうです。こうした状況が罷り通ることは、つまり、朝鮮学校を犯罪者養成機関、或いは直接的な犯罪機関として総連側が扱っているからと言ってもよいのではないでしょうか」

荒木氏はもう一点、重要なことを指摘した。朝鮮総連や朝鮮学校が拉致事件と無関係ではないという点だ。

「大阪から1980年に拉致された原敕晁(ただあき)さんの事件に関連して、大阪朝鮮初級学校の元校長、金吉旭が国際手配されています。朝鮮学校関係者は拉致事件に関係しているだけでなく、その他の犯罪にも手を染めています。たとえば78年7月4日、広島朝鮮学校出身の青年らが大量のヘロイン密輸事件で逮捕されました。この犯罪は広島朝鮮高校教員で朝鮮青年同盟県委員長の金徳元が計画して、自分の教え子たちを巻き込んで実行したものでした。金徳元は指名手配されましたが姿を消したままです。拉致問題も未だに解決されていません。そんな状況にあるのに、国民の税金を朝鮮学校に注入するのは、まさに、日本人の人権及び日本国の主権の侵害です」

授業料無償化で注入されるのは日本国民の税金である。であれば、対象となる教育機関は、日本国の法律を守り、拉致をはじめとする日本人への犯罪を如何なる形ででも支えていてはならないのは当然だ。拉致を命じた金正日総書記の写真を掲げ、未だに首領様として讃えるのでは、朝鮮学校側がいくら教育の権利を主張しても、論外である。拉致問題の解決と朝鮮の人々の幸福を望みつつも、日本国民の税金が、直接・間接的に金正日を支える結果になることは断固拒否しなければならない。


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「 『竹島の韓国領土』化が鳩山政権で加速している 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年3月27日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 831




「Dokdo Island belongs to Korea」〈独島(竹島)は韓国の領土である〉
遠くからも鮮明に読み取れる大看板が、米国西海岸のロサンゼルスに出現した。以下は長年ロスに住む友人、櫻井雄一郎さんの憂いのメールである。

「我が家に近いフリーウェイ60に、こんな大看板が立ちました。ダウンタウンに向かうこの幹線道路は毎朝通勤の車で大渋滞します。夥しい数の車が、バンパーとバンパーがくっつくように、止まったりノロノロ運転したりするわけで、フリーウェイの脇にそびえる大看板は必ず目に入ります。嘘も百回言えば本当になる。非常に心配です」

看板には近郊の韓国人が経営するDiamond Family Spaというサウナ店が立てたと書いてあるそうだ。祖国を思う在米韓国人の単独行動かもしれず、一方で、資金提供者や大看板設置の許可を得るための法的助言者らが別にいるかもしれないが、詳細はわからないと、櫻井さんは語る。

氏は心配のあまり日本総領事館に通報した。3月8日のことだ。「領事館からは『気にかけていたところです』『館内でも改めて相談してみるつもりです』というメールが返ってきました」と櫻井さん。

それから10日が過ぎた。領事館からはなしの飛礫(つぶて)だ。反応がないために、櫻井さんは再び問い合わせた。すると、担当者は留守でほかに事情のわかる人物はいないということだった。

想定内の無責任な対応である。竹島の韓国による実効支配は周知のとおりだ。竹島は韓国領という教育を国全体で展開してきた結果、韓国の国民は歴史を冷静に見ることもなく、そう信じてしまっている。だが、ここまで竹島問題が悪化するに至ったのは、一にも二にも日本国政府の責任である。

「産経新聞」の黒田勝弘氏が、雑誌「SAPIO」の連載「ソウルの風」で憤っていた。氏は先年、韓国政府が2004年の記念切手として「独島切手」の発行を予定しているという情報を入手して日本大使館に教えたそうだ。すると大使館、つまり外務省はどうしたか。「外交的抗議をしたが、その事実を公表せず、後で筆者(黒田氏)が問い合わせたところ『抗議しておきました』と言」ったそうだ。

外にはいっさい公表せず、ひっそりと抗議して一件落着としたのだ。この姑息なやり方こそ、外務省の常套手段だ。「抗議した」事実をアリバイとして残し、責任を回避する。しかし、韓国側との摩擦を恐れるあまり、いっさいの情報は「館内」つまり省内にとどめる。韓国側の不法不当な行状はできるだけ日本国民には知らせない。知らせると、日本国民の感情にも波が立ち、外交的摩擦が生じ、外交も影響される。そこで、外務省は立ちすくんでしまうのだ。

だが、竹島をはじめとする領土問題で外務省だけを非難するのは妥当ではない。外交は政治の責任だからだ。その点で、従来の政治以上に民主党政治が日本の国益を損なうのは間違いない。

鳩山由紀夫首相は「日本列島は日本人だけのものではない」と主張して憚らない。首相の地元の北海道では、教職員組合が「竹島は韓国の領土」だと教えている。首相は北教組教育に疑問を呈すどころか、昨年12月、首相自身、日本の教科書解説書に竹島問題を載せないように指示していた。

12月25日に判明したのは、高校の新学習指導要領解説書の領土問題の記述部分から竹島の二文字が削除されていた事実だ。文部科学省側は直前まで竹島を北方領土とともに明記する予定だったのだが、発表直前に鳩山首相の指示で竹島が削除されたのだ。

日本列島は日本人だけのものではないと考える首相の下で、外務省が、韓国との摩擦覚悟で日本の竹島領有権を主張するとは思えない。鳩山政権はまさに日本の土台を削り取り、崩していく政権となる。

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「 普天間飛行場問題で考えるべき 中国の軍事脅威の異常な高まり 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年2月6日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 824




1月24日の沖縄県名護市の市長選挙の結果は、鳩山政権の終焉への第一歩となる可能性が大きい。どの国の、どの時代の歴史を見ても、国防の基本を蔑ろにした国は滅びている。鳩山由紀夫首相の友愛外交は、その背後に強固な軍事的備えがあって初めて生きてくるのだが、首相の外交は単なる空疎な言葉だけであり、これでは日本は持たない。

普天間飛行場の移設がより困難になり、日米安全保障体制が機能しなくなったとき、日本の国防の危うさは文字どおり日本の浮沈につながる。北澤俊美防衛相や平野博文官房長官は危機を実感しているのであろう。選挙結果は受け止めるが、「手続きも含めて法律でやらなければならない部分もある」(平野官房長官)の発言に見られるように、移設が全面的に選挙結果によって左右されるわけではないとの姿勢を示している。

なぜ、今、普天間飛行場移設問題を含めて日米安保の万全の体制が必要か。中国の軍事的脅威の高まりが尋常ではないからだ。米国は、2002年から毎年、国防総省の報告書「中国の軍事力」を発表。一方、共和・民主超党派の米中経済安保調査委員会も報告書を発表、QDRと通称される「4年ごとの国防計画見直し」などで中国の軍事力を分析してきた。

そうした情報を読めば、首相の唱える安保・外交政策がいかに的はずれで問題外であるかがわかる。米国の分析をざっと紹介する。たとえば、日本が将来直面するであろう中国の脅威を、すでに現在体験中の台湾のケースである。米国は、02年の段階で、すでに、台湾は台湾海峡の制空権を中国に奪われたと分析する。その年、台湾海峡に臨む中国大陸の沿岸には、台湾を狙う短距離ミサイルが350基配備ずみだった。09年には、その数は1,150基に増えている。毎年100基以上増え続けているのである。

むろん、右のミサイルへの核弾頭の装備は可能であり、方角を変えれば、ただちに日本攻撃にも使えることは言うまでもない。

中国は、軍事力で台湾を制圧出来る水準をすでに確立済みだが、それでは不十分だ。台湾問題に米国が介入出来ない状態をつくらなければならない。そこから、すさまじいとしか言いようのない「介入阻止作戦」が展開されてきた。その方法は二つ、サイバー攻撃で米国を機能不全に追い込み、潜水艦を駆使して空母を足止め、あるいは破壊することである。

第一の作戦は、米軍の強みでもあり弱点でもあるハイテクへの高度の依存性を突くものだ。そのために、中国人民解放軍には二つの特別部隊がつくられた。国防総省、国務省をはじめ、考え得るすべての研究機関や大学のコンピュータに侵入して情報を盗む部隊、もう一方は必要なときにコンピュータ網を攪乱し、破壊する部隊だ。ちなみに、中国軍では、これらサイバー攻撃部隊を「暗殺者の棍棒」と呼んでいる。

「暗殺者の棍棒」が、たとえば国防総省に仕掛けたサイバー攻撃は、07年に4万3,880件、08年は5万4,640件、09年は前半だけで4万3,785件だった。年間9万件に迫るすさまじさである。

この数は、国防総省一省に対する攻撃であり、有事の際には米国全土に一斉攻撃が始まると考えてよい。

第二は空母に対する潜水艦の攻撃能力の強化である。06年10月、中国の攻撃型潜水艦が沖縄沖で訓練中の米空母「キティホーク」にまったく気づかれることなく、8キロメートル地点まで接近して浮上したように、中国は米空母を攻撃する能力を十分に備えてしまった。

こうした状態があるからこそ、米国は日米安保条約をも踏まえて備えを固めたいと考えている。米国との協力は日本の安全を守ることにつながる。それが鳩山首相にはわからないのだ。

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「 金正日の経済失策、脱北詩人の眼 」

『週刊新潮』 2010年1月28日号
日本ルネッサンス 第396回



「北韓(北朝鮮)では、民心はドルの価値と正比例します。ドルの支配力が日増しに金正日総書記の神格化を圧し潰すはずです」

こう語るのは脱北詩人の張真晟(チャンジンソン)氏だ。氏は、かつて当欄で紹介した詩集『わたしの娘を一〇〇ウォンで売ります』(晩聲社)の著者である。

氏は長く金正日総書記に仕え、その人物像や業績を讃える幾多の詩を書いた。1997年に脱北して金正日に大打撃を与えた黄長燁(ファンジャンヨプ)氏さえ、総書記の三男、正雲氏について知らなかったほど秘密の多い人物が金正日である。だが張氏は金正日の側近くで年月を過ごした。それだけに、氏の語る北朝鮮情報は、黄長燁氏のもたらす情報に較べてさえも、驚嘆と傾聴に値する。

09年11月末に明らかになった北朝鮮のデノミネーション(通貨改革)について張氏が分析した。

「デノミと一緒に断行されたもうひとつの措置に注目すべきです。平壌の国家保衛部が全国の闇ドル両替屋に一斉検挙の網をかけた。これは全土にまたがる闇取引市場を潰す市場クーデターでした」

北朝鮮における公の外貨取引は89年に始まったという。88年のソウル五輪に対抗して、翌年平壌で「世界青年学生祝典」が開催された。訪れる外国人が北朝鮮で外貨を使用出来るように、金正日は特別のウォン「外貨交換札」(以下交換札)を作った。ドルとの交換レートは1対2だった。

交換札は、印刷から預金及び貸し出しまでの全てを、金正日の実妹の金敬姫(キムキョンヒ)が運営する統一発展銀行が管理した。こうして平壌で外貨商店が急増し、同行は外国銀行との信用取引を認められた北朝鮮初で、唯一の国際銀行となった。同行と日本の関わりについて、張氏が述べた。

「統一発展銀行を支えたのが朝銀信用組合の日本からの送金でした。最初の6億円が初期の投資資金となりました。後に朝銀が破綻したのは、金総書記が自分の王朝の神格化のために交換札をまるで空から降ってくる無料の外貨のように、束でバラ撒いたからです。朝銀の破綻で朝鮮総連は麻痺し、金正日は自分で自分の首を絞める結果となりました」


偽ドル・ロンダリング


世界青年学生祝典は北朝鮮に大きな赤字を残した。金正日の交換札の浪費も続いた。ドルと交換札のレートが1対2から1対10に落ち込むのにさほど時間はかからなかった。

統一発展銀行から引き出される交換札には北朝鮮政府の信用の裏打ちがあるはずだが、北朝鮮政府の信用そのものが空疎なため、為替レートは坂を転げ落ちる雪だるまのように膨れ上がり、97年には遂に1対7,000になった。

「つまり紙屑になって消えたのです。そのときから、今度はドルと北韓ウォンの直接交換が始まりました」と張氏。

その前年から金正日は北朝鮮国民に「苦難の行軍」を強いていたが、その中で300万人が餓死した。配給がとまった代わりに市場の設置が許され、市場は急拡大した。そこで通用するのは価値の裏打ちを欠くウォンではあり得ない。ドルである。

「北韓政府はまず、ドルとウォンの為替レートを1対150に設定しました。ところがレートはまたもや急落、09年の年初には1対4,000になりました。平均的労働者の月給が2,000ウォンにすぎないのに、です。北韓政府にとって米国は理念の敵、同時に資本の敵でもあります」

金正日は遂に市場の力に押しまくられた揚げ句のインフレを認め、00年7月1日、市場価格を反映した賃金政策を断行、賃金は大幅に増額された。これは金正日がまたもや判断を誤った瞬間だと、張氏は言う。

「賃金に市場価格を反映させ、同時に市場そのものを押さえればウォンの価値を守ることが出来ると、彼は考えたのです。しかし、市場は増刷されたウォン紙幣によって活性化し、商品価格は天井知らずとなりました。生産のない市場における輸入対消費という不均衡な経済構造が価格高騰をもたらすのは当然です」

ウォンの実勢価格が再び続落し、外貨の闇取引も急増した。01年、金正日は全ての市場に公式の外貨両替所を設置させたが、効果はなかった。そこで彼は偽造ドル紙幣を北朝鮮の貿易会社に割り当て始めた。

「米国政府がスーパーKをはじめ、北韓によるドル偽造に厳しい監視体制を敷いたこともあり、北韓には大量の偽ドルが蓄積されたのです。金総書記の秘密資金を管理する39号室傘下の金融機関、大成銀行は北韓の全貿易会社に偽造ドルを割り当て、2対1で本物にして返還せよと命じました」

偽造ドル10万ドルを受け取り、本物5万ドルを上納せよということだ。北朝鮮の全機関、全貿易会社が死に物狂いでマネーロンダリングに走ったのだ。米国の摘発でさらに追い詰められると、偽造ドルは国内市場で取引きされるようになり、ただでさえ脆弱な北朝鮮の金融流通システムはさらに危機的状況に陥った。




崩れ落ちようとする巨大ダム

米国は05年9月、偽ドル、麻薬取引き、テロ支援などの理由を掲げて北朝鮮に対する金融制裁に踏み切った。北朝鮮と取引きをする金融機関に、米国の金融機関との一切の取引きを禁止するというもので、それはその金融機関の市場からの撤退、つまり閉鎖を意味していた。対象となったのがマカオの銀行、バンコ・デルタ・アジアだった。

金正日は米国の金融制裁を非常に恐れ、制裁解除に向けて必死の交渉を行った。その理由は、金正日が世界の銀行に保有している50億ドル(約4,500億円)を超える資金を引き出せなくなり、軍や組織を支配出来なくなるからだと考えられた。ところが、もっと別の理由があったと張氏は語るのだ。

「米国の制裁で北韓内でドルがさらに暴騰し、市場不安も高まり、政権の命が脅かされます。為替レートの防御能力が皆無の北韓ほど『外貨による侵略』に脆弱な国はありません。ドルの支配力こそが政権を潰しかねないのです」

だからこそ、金正日は次なる抵抗に進んだ、それが去年暮れの通貨改革だというのだ。ウォンを政府のコントロールの下に引き戻し、貨幣価値を自力で調整しようとしたわけだ。外貨闇取引所への一斉検挙も平仄が合う。だが、と張氏は反問する。

「北韓は崩れ始めた巨大ダムのようなものです。砂袋を積んで持ちこたえられるものでしょうか」

政治空白で漂流する鳩山政権は、近い将来予見されるこの朝鮮半島情勢の流動化と有事に対処出来るのか。崩れ落ちようとする巨大ダムを、それでも支え続けて、北朝鮮への影響力確保を至上命題とする中国に、対処出来るか。そのような危機に備えての米韓両国との戦略を構築出来るのか。展望は果てしなく暗い。

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「 小沢一郎氏ら民主党が提案する外国人参政権付与案に私は反対 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年1月23 日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 822



今月11日の政府・民主党首脳会議で、永住外国人に地方参政権を付与する法案を18日召集の通常国会に提出することが確認されたと報じられた。


同法案に関して、民主党内にはもともと深い亀裂があった。推進派の小沢一郎、鳩山由紀夫、岡田克也各氏らの勢力に反対する渡辺周、長島昭久、松原仁各氏らが存在し、法案を推進すれば民主党は分裂しかねないと見られていた。だからこそ、マニフェストにもこの項目は盛り込まれなかった。

ところが今、小沢氏らは、一挙に同法案の成立を図ろうとする。この性急さは何故か。
地方参政権問題が再浮上したのは昨年10月、鳩山首相が訪韓したときだ。李明博大統領との共同記者会見で質問され、首相は「国民の感情、思いは必ずしも統一されていない」が、「前向きに検討したい」と表明した。

小沢氏も動いた。民主党政権樹立直後に訪日した李大統領の実兄であるハンナラ党の李相得(イ・サンドク)議員に、「通常国会で目鼻をつけたい」と語っている。

その後、小沢氏は12月に訪韓した。600人の大代表団を引き連れて中国を訪問した帰り、皆と別れてほぼ単身での訪韓である。11日夜に韓国入りし、翌日、ソウル国民大学で講演し、「日本政府の姿勢を示す意味でも政府提案として出す」と語った。

同日、小沢氏は李大統領と非公式の会談を行い、大統領主催の晩餐会にも出席した。だが、氏がどのような会話を交わしたのか、日本側はほとんどつかんでいない。通訳も含めてすべて韓国側が準備を整えたからだ。

政界の実力者、小沢氏が韓国大統領と会うのに日本側の通訳も同行させず、日本政府がその発言を把握出来ないというのは異常である。この秘密めいた実力者同士のサシの会談で、小沢氏が参政権問題についてもなんらかの約束をしたことは考えられる。結果として、通常国会に法案を提出するという現在の民主党の方針がある。

小沢氏は自身のウェブサイトに外国人参政権推進の理由を書いている。要約すれば、(1)永住外国人の大半を占める朝鮮半島出身者は強制的に日本に連行された、(2)参政権取得には帰化が最善だが、国籍取得のための法律的な要件が厳しく、帰化が難しい、の二点に尽きる。

(1)は明らかに間違いである。確かに戦前戦中に強制連行などで日本に来た人々は約200万人に上る。しかし、今日本在住の朝鮮半島出身者の大半は、日本の敗戦で多くが朝鮮半島に戻ったなか、自らの意思で日本に残った人々だ。あるいはさまざまな理由で、戦後日本に来た人々だ。

ちなみに朝鮮半島出身のこれらの人々は永住外国人として分類される。一般永住外国人とは異なり、参政権を除けばほぼ日本人と同等の種々の権利を与えられている。

(2)については、私も疑問に思い、シンクタンク国家基本問題研究所で、帰化の法的要件には改善の余地があると指摘し、具体的に提言を行ってきた。その意味では小沢氏の指摘に同意するのだが、しかし、だからといって、一足飛びに、外国籍のままで参政権を与えるということにはならない。

深刻な問題だと思われるのは、小沢氏らの提案する外国人参政権法案が永住外国人を超えて一般永住外国人に参政権を与えるという内容である点だ。つまり、急増する中国人永住者に参政権を与えるという意味だ。

現在、日本在住外国人の最大勢力は中国人で65万5,000人強、うち永住資格を取得ずみの人々は14万2,000人余だ。この数は年々際立って増えている。これでは中国共産党員の資格を持つ人々が、日本で投票権を行使して日本の政治を動かす事態を招きかねない。まさに悪夢ではないか。

以上の理由で私は民主党の外国人参政権付与案には断固として反対である。

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「 領土外交に汚点、小沢・鳩山の無策 」

『週刊新潮』 2010年1月14日号
日本ルネッサンス 第394回


2つの国が領有権を争う領土について、それぞれ主張を展開するのは当然のことだ。しかし、日本政府はまず相手国の立場を度し、日本の立場を十分に主張してこなかった。そのツケは北方四島にも竹島にも明らかで、主張なき無策は必ず、尖閣にも影を落とすだろう。

昨年12月25日に発表された高校の学習指導要領解説書では、領土問題としての竹島の記載が見送られていた。学習指導要領はほぼ10年に一度改訂され、解説書も更新される。したがって、高校教育では向う10年間、韓国と領有権を争う竹島についての教育が不徹底になる可能性がある。

川端達夫文部科学大臣は、解説書を公表した日の記者会見で「竹島はわが国固有の領土であり、正しく認識させることに何ら変更があるわけではない」と述べた。

氏は保守派の政治家であり竹島を解説書に記載することは、氏にとっても文科省にとっても既定方針だった。にもかかわらず、蓋を開けてみれば解説書は一変した。日本が竹島の領有権を諦めたととられ、歴史的な汚点となりかねない解説書は如何にして生まれたのか。

日本政府の領土問題に関する発言や外交姿勢の及び腰は自民党時代からのものだ。学習指導要領とその解説書に、領土問題として明記されてきたのは北方領土に限定され、竹島はまったく触れられてこなかった。

他方、韓国の竹島不法占拠は年毎に昻じ、いまや警備部隊が常駐し、電話線が引かれ、郵便番号も住所も定められている。竹島を所管する島根県は思い余って05年、「竹島の日」を設けた。韓国の反発は凄まじかったが、島根県の動きは、改めて、日本人に領土や国土についての教育の重要性を気付かせた。こうした中、新学習指導要領の中学社会科の解説書に竹島を「我が国固有の領土」と明記するかどうかの問題がまず、持ち上がった。05年のことだ。



火に油を注ぐ生半可な配慮


文科省の立場は明確だった。05年3月に中山成文科相(当時)が新指導要領に明記すると答弁。しかし、3年後の08年2月、新指導要領案が公表されたとき、竹島の文字は消えていた。理由は、反日政策を掲げた盧武鉉大統領の後に、李明博氏が登場し、竹島問題の主張を控えることがより良い日韓関係の構築につながると日本政府が期待したからだ。

学習指導要領の改訂は解説書の更新を意味する。韓国は日本への働きかけを重層的に展開した。08年5月19日、韓国外相は駐韓日本大使を呼びつけ警告した。7月、洞爺湖サミットへの参加直前に、李大統領が共同通信と会見して「日本の指導者たちが無理に(竹島を)載せることはしないと信じている」と牽制した。来日した大統領は、9日、福田康夫首相と立ち話形式で短時間会談し、慎重な対応を求めた。韓国大統領府は、大統領が「深刻な憂慮」を伝え、福田氏は「十分に分かっている」と答えたと発表した。

国内では文科省が「我が国固有の領土」と明記すべきと主張し、外務省は反対に見送りを求めた。そして結論は中途半端なものになった。

08年7月14日に発表された解説書には、「我が国固有の領土」という表現はなかったが、竹島について、「韓国との間に主張に相違があることなどにも触れ、北方領土と同様に我が国の領土・領域について理解を深めさせることも必要」と書き込まれていた。婉曲な表現ながら、初めて、竹島を領土問題として盛り込んだわけだ。日本の視点に立てば「竹島はわが国固有の領土」と書いて当然だが、そうは書かずに婉曲な表現をとったことについて町村信孝官房長官は、「日韓関係をぎくしゃくさせてはいけない」と説明した。

だが、このあと、日韓関係は「ぎくしゃく」どころか、大荒れとなった。李大統領は「断固たる措置をとる」よう指示し、柳明桓外相は駐韓日本大使を呼びつけて抗議し、駐日韓国大使を召還した。29日には韓昇洙首相が、首相として初めて竹島に上陸。30日には韓国軍が最新鋭戦闘機、F-15Kを含む大部隊を動員し「独島(竹島)防衛演習」を行った。

福田首相は解説書発表の直前まで、自ら文言をチェックし、韓国への配慮に努めたが、李大統領は8月15日に、「韓国が強い国になれば、日本が私たちの領土を不当に欲しがることもなくなる」と演説した。

日本が「竹島は紛れもなく韓国固有の領土です」とでも言わない限り、韓国側は納得しないのである。生半可な配慮は、むしろ火に油を注ぐ。

そして今回の高校用の学習指導要領解説書である。文科省は、大臣、副大臣、政務官の三役以下、中学用の解説書同様、竹島の記述は当然と考えていた。が、三役会議で提示されたのは、竹島を除外した案だった。


竹島の二文字が落ちたのは…


川端大臣が三役会議で、文科省としては不満だが、内閣の一員として上の決定に従うとの意思表示をしたのは、小沢一郎幹事長の訪韓時期と重なる12月中旬だと思われる。小沢氏は中国訪問後、12月11日夜にほぼ単独で韓国入りした。李大統領と2人だけの非公式会談の内容は非公開である。韓国側が通訳を務めたために、日本政府は小沢氏が何を語り、何を聞いたかも把握出来ていない。だが、その席で、李大統領がかねてより関心を示していた外国人参政権、天皇陛下御訪韓などとともに、高校指導要領解説書問題に触れた可能性は大きいと見るべきだろう。

したがって、小沢氏が李大統領の要請を受けて影響力を行使し、解説書の内容を大幅に変更させた可能性は少なくない。一方で、元凶は鳩山由紀夫首相その人だとも考えられる。首相は11月15日、シンガポールでのAPEC首脳会議で、李大統領と歩きながら短時間、2人だけの会話を交わしている。そのとき、李大統領が、「教科書の件、重要ですので宜しくお願いしたい」と述べ、鳩山首相が「分かっています」と答えていたことは取材で確認出来た。

小沢、鳩山両氏との会談が、解説書問題で12月の発表を前にした重大な時期であることを李大統領は意識していただろう。大阪生まれで日本人の感情の機微にも通じている大統領だけに、その説得が功を奏したと考えて、ほぼ間違いないだろう。つまり、最終的に竹島の二文字が落ちたのは、小沢、鳩山両氏かまたはいずれか、民主党トップの「政治決断」ゆえだったと考えてよいだろう。

自民党はそれでも竹島の二文字をどうにか書き込んだ。民主党はそれを水泡に帰しかねない決定をした。一方韓国では、12年からの中学社会の解説書で竹島について「日本が継続的に国際紛争に訴えようとする意図を分析し、領土を守る方法も考える」とし、生徒たちに具体策を考えさせるよう踏み込んでいる。

国益を害する点において、民主党外交の罪は重いのである。

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プロフィール

櫻井よしこ Yoshiko Sakurai

職歴

1971~74
クリスチャンサイエンスモニター紙
東京支局勤務
1975~77
アジア新聞財団
DEPTHNEWS  記者
1978~82
アジア新聞財団
DEPTHNEWS  東京支局長
1980~96
TVニュースキャスター
1980~現在
ジャーナリスト

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