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2014.05.22 (木)

「 中国の対越蛮行でアジアは新局面へ 」

『週刊新潮』 2014年5月22日号
日本ルネッサンス 第607回

中国の正体見たり。

国際社会はそのように考え始めたはずだ。オバマ大統領が、中国と領土領海問題を抱える日本、韓国、マレーシア、フィリピンへの歴訪を終えた途端に、中国は南シナ海パラセル諸島海域でベトナムの権益を一方的に侵す蛮行に及んだ。

2年前に完成させた深海用の巨大掘削装置は中国石油開発の戦略的武器と呼ばれ、建造費は10億ドルともいわれる。100メートルを超えるこのプラットフォームは、3,000メートルの深海での運用を前提に、最大1万メートルまで掘削出来るという。こうした最新鋭装備で始めた石油掘削がベトナムの反発を招くことを、中国は、当然予想したはずだ。

一方的に石油掘削を開始した中国を阻止すべく、ベトナムは29隻の船を出したが、中国は80隻も展開し、中国船はベトナム船に衝突を繰り返した。

今回の中国の侵略行為は幾つものことを明らかにしている。その第一が、国際紛争で中国の立場を有利にするために彼らは常に嘘をつくということだ。

中国外務省の華春瑩副報道局長は5月9日の記者会見で堂々と語った。「8日夜までにベトナム側は中国の公船に180回余り衝突した」。

ベトナム政府の公開した映像を見れば、事実は中国船がベトナム船に衝突を繰り返しているのが明らかだ。事実と正反対の偽りを臆面もなく発表するのは、日本の尖閣諸島での事件でも見られた中国の手法である。あのとき、中国漁船が海上保安庁の巡視船に突っ込んできたのを、中国政府は、海保の巡視船が中国漁船に体当たりしたと発表した。

中国は尖閣諸島の領有権を日本が主張するのは、戦後の国際秩序を変えようとするものだとして、尖閣諸島と歴史問題を絡め、しかも歴史を捏造する。彼らの情報戦は欧米諸国にも浸透し、「ニューヨーク・タイムズ」紙のニコラス・クリストフ記者は、2010年9月10日の記事で、根拠のない中国の主張に基づいて、「私の抱く感じでは(尖閣は)中国領だ」と書いた。

アメリカの傍観

日本、ベトナム、フィリピンに対する領土強奪の動きが示すのは、中国は領土を奪うために、歴史や事実関係の捏造も軍事力の行使も、あらゆる手段を利用するということだ。その意味で今回の中国の蛮行は、逆に、中国の主張の正当性を自ら否定する結果を招いたといえる。

だが、中国の侵略行為の背景には国際社会の力関係を見据えた冷厳な計算がある。ロシアのプーチン大統領がクリミア半島を奪ったとき、「人民日報」の国際版「環球時報」は3月20日の社説で、「西側諸国はウクライナの側に立って、国際条約だの国際法だのを語るが、そうした『美しい言葉』には意味がない。なぜなら、どの国も、世界第二の核保有国であるロシアと戦うリスクを冒す気はないからだ」として、「クリミアの運命を決めたのはロシアの戦艦、戦闘機、ミサイルである」「それが国際政治の現実だ」と断じた。

同社説はまた、ロシアとウクライナの圧倒的な軍事力の差に関連して、一国が他国を軍事的に圧倒する場合、他国は強国の意図に逆らうことは出来ないとも指摘している。

中国が、軍事力も経済力も含めてベトナムに対して圧倒的な力を有しているのは明らかである。そのことに自信をもつと共に、中国は、アメリカは介入しないとの確信も得ているはずだ。ロシアによるクリミア併合にも、軍事的手段はとらないといち早く言明したアメリカは、もはや、他国の紛争に軍事介入しないという確信であろう。

それでも中国は、ベトナムとの衝突にアメリカがどのように対応するのか、注意深く読み取りながら事を進めている。ベトナムは、アメリカと軍事同盟を結んでいるわけではない。その点でアメリカのコミットする度合いは、フィリピンとも日本とも異なる。軍事同盟関係にはなかったウクライナの悲劇を、結果として受け入れたのと同様に、アメリカはベトナムに対する中国の略奪阻止には至らないと見ている可能性がある。ロシアのクリミア併合が既成事実化しつつあるのと同様に、このままでは、中国によるパラセル諸島海域の支配は、アメリカの事実上の傍観によって現実となっていきかねない。

アメリカの一連の対応は、国際社会にさらなる危惧を抱かせる。今年3月、オランダのハーグでオバマ大統領は習近平主席と会談し、中国の提唱する新型大国関係を「積極的に進める」と語った。

4月下旬のアジア諸国歴訪で、大統領は訪問先の国々で安全保障上のコミットを再確認したが、同時に行く先々で、「中国への反撃や、封じ込めを意図するものではない」「中国の平和的台頭は歓迎する」と繰り返し、中国への配慮を強調した。アメリカの軍事費大幅削減政策にも変化はない。

先へ行けば行くほど

チャック・ヘーゲル国防長官の発言も、アメリカのアジア諸国へのコミットの実態を疑わせる。同長官は4月8日、北京で常万全中国国防相と会談し、その後の記者会見で中国の設定した尖閣諸島上空の防空識別圏(ADIZ)に関して、「ADIZ設定の権利はどの国も有するが、それは一方的に事前調整も協議もなしに設定出来るという権利ではない。一方的な設定は緊張を高め、危険な紛争へとつながりかねない」と語った。対して常国防相は「中国は如何なる挑発も恐れていない」と強調した。

メディアはこれを激しい応酬があったと報じたが、ヘーゲル長官が中国国防大学で語った内容は随分と異なる印象を与える。同大学で長官は、米中両国は軍同士の新型大国関係を進めるべきだと語ったのだ。長い演説の中で、長官は執拗に中国という大国の重要性を強調している。全体の文脈から私は、中国への厳しさよりも迎合的姿勢のほうをより強く感じとったほどだ。

尖閣諸島に関してはどうか。同盟国と非同盟国の重みは全く異なるために、アメリカは日本の問題に関してはウクライナよりもベトナムよりも積極的に関与すると考えるべきだろう。それも、しかし、時間という要素を加えると、異なる様相が浮かんでくる。軍拡を続ける中国は軍縮を続けるアメリカとの力の差を縮め続けるだろう。

日本と中国の軍事力の差は、先へ行けば行くほど開いてくる。3年先、5年先、あるいは10年先、軍事力を行使してでも、日本の側にアメリカが立つとは限らない。

一日も早く、日本が集団的自衛権の行使容認に踏み切り、価値観を同じくする国々との国際連携を急ぎ、強化しなければならないゆえんである。

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