「 創生「日本」よ、石破に取ってかわれ 」
『週刊新潮』 2025年7月17日号
日本ルネッサンス 第1155回
わが国を真っ当な独立国として立て直したいと願ってきた人々は参議院議員選挙を控えた現在、自民党を支えるのがよいのか、突き放すのがよいのか、迷っているに違いない。ここで判断の基準となる大事な要素は、現在の自民党はこれまでの自民党とは全く違う政党になっているという点だ。
石破茂氏を党総裁に選んで以降、氏を選んだ当の自民党幹部を含めて多くの人々は、予想を超えるスピードで自民党が質的大変化を遂げ、安倍晋三元総理の築いた手堅い党の基盤が見る間に崩壊したことに戸惑っているのではないか。質的変化とは言ってみたものの、石破氏がもたらした変化は、保守だの、リベラルだの以前に、物事を決められるか決められないかという低次元のことが多い。私たちに問われているのは、このように指導力を欠き、機能しない石破党に変身した自民党を支えるか否かということなのだ。
ここで急いで指摘したい。自民党に希望を持てないからといって、野党に国政を任せてよいわけではないということだ。自民党に替わる候補として、まず日本共産党は論外だ。福祉や経済政策でどれほど笑顔を振りまこうとも、共産主義体制を選ぶことはあり得ない。
立憲民主党もあり得ない。理由は党代表の野田佳彦氏の政策に象徴される。氏は女性宮家創設と女系天皇実現への尋常ならざる執念を見せ続ける。2700年近く続く皇室、天皇の伝統を根本から変えるのが目的であり、野田氏率いる立民はわが国の国柄を破壊する勢力である。
勢いのある参政党、国民民主党などは未知の部分もあるが、基本的に前向きにとらえられる。それでもいずれもこれからの政党だ。個性あるその他の政党も同様だ。
結局、自民党に戻ってくるのだが、前述のように現在の自民党は石破党にすぎない。それがどれほど国益を損ねているか。石破氏は自らも認める軍事オタクである。私たちの眼前では日々、戦争の災禍が繰り返され、今日のウクライナは明日の台湾、沖縄だと言われる。わが国はどの国よりもウクライナ戦争から真剣に学び、備えなければならない。そのことについては軍事オタクの石破氏こそ分かっているはずだ。
「裏切りの人」
ウクライナを侵略したのはロシアだが、台湾・日本を侵略する中国はロシアよりはるかに手強い。ウクライナが米国を含むNATOにどれほど助けられているかを思えば、NATO加盟国の考え方、ロシアへの対応策、米国との関係維持の仕方、彼らの全ての経験、戦術、戦略は日本が隅から隅まで知っていなければならないはずのものだ。
台湾有事は日本有事で日米同盟の有事だ。米国は無論、私たちは欧州にも協力を要請しなければならないだろう。米欧諸国との意思の疎通、戦略の基本的な考え方の共有、互いの状況の相互認識の重要性は計り知れない。だから6月24日、石破氏がNATO首脳会議に招かれながら欠席したのは信じ難いことだった。
NATOの北大西洋理事会に安倍総理が出席したのは2007年のことだった。中国の脅威に対処するには米欧との協調が不可欠だと認識していたのだ。その後22年から毎年、わが国はインド太平洋地域のパートナー国として首相が参加してきた。
ところが石破氏は欠席した。理由は明らかにされなかった。私は直感的に「石破氏は米欧諸国の首脳と何を話してよいのか分からない。だから行かなかったのではないか」と思った。それほど、氏の国際社会における立ち居振る舞い、会話の交わし方は奇妙で孤立した印象を与えている。
日本の不参加で、NATO首脳宣言は中国問題に全く触れることなくまとめられた。わが国、そして台湾周辺で顕著になり始めた中国人民解放軍及び中露合同軍事演習のこれまでにない危険な兆候を、NATO諸国に報告し、注意喚起する好機を石破氏はみすみす放棄したのだ。
日本国の首相なら、日本国に迫る危機を回避するあらゆる努力をすべきだ。そのための国際社会との連携の重要性を自覚できず、重要な首脳会議に招かれながら欠席したことは、どれほど論難しても足りない。
そのことを、自民党重鎮らは助言しなかったのか。総裁選で石破氏を支持した岸田文雄氏や菅義偉氏らは何を考えているのだ。首相経験者である彼らはNATO首脳会議欠席の負の影響を他の政治家より少しは理解できようものを。両氏の沈黙の意味が分からない。
石破氏は政治家人生の大部分を他人を批判することに費やしてきた人だ。自民党内にあってはおよそいつも反中枢勢力だった。総裁が誰であろうと、いつも「背中から撃つ、裏切りの人」だった。古くは宮澤喜一氏、麻生太郎氏、そして安倍氏。これら三総裁がその折り折り、選挙で敗北すると、石破氏は彼らに、責任をとって辞任せよと強く迫った。
政治家の人物評価
他者に厳しく自分に甘い石破氏は昨年10月の衆議院議員選挙での歴史的な惨敗、今年6月の東京都議会議員選挙での大敗の責任については知らん顔だ。責任をとる気配は微塵もない。文字どおりの厚かましい人なのである。
そして今、参院選に向けて自民・公明両党で50議席を獲得し、非改選を含む過半数の議席獲得を勝敗ラインとした。私は自公は50議席もとれず敗北すると思っている。
たとえ50議席を獲得したとしても石破内閣が力強く日本を主導していけるとは思わない。地殻変動の起きている今日の世界で間違いなく日本を導けるとも思わない。だから、選挙直後に自民党内の志ある人々が立ち上がることを期待している。
党内には石破氏に替わる人材は多く存在する。安倍総理の悲劇から3年、自民党の強さ、良さはすっかり崩れ去ってしまったが、安倍総理の志を継ぐ少なからぬ人材が身を潜めている。派閥横断で多くの保守系議員を集めた政策集団「創生『日本』」のメンバーだ。いま、彼らこそ、立ち上がる時なのだ。新しい政治勢力としてまとまり、政権の中枢を担うべき時が近づいている。
6月29日、「安倍晋三元総理の志を継承する集い」で昭恵夫人が語った。
「主人は7月8日に亡くなりました。私は今、それを七転び八起きと考えています」
夫人のこの純粋で前向きなとらえ方こそ、創生「日本」の人々の背中を力強く押してくれるだろう。
石破氏に替わって日本国を主導すべく創生「日本」が立ち上がれば、自民党は蘇ると私は思う。自民党は再び国民の期待に応えられる政党となるだろう。逆に言えば、彼らの立ち上がりなしには、自民党は滅びていくしかないだろう。
従って有権者としては、もはや政党にとらわれず、個々の政治家の人物評価を厳しくしたうえで、それぞれの人物に注目して一票を投ずるのがよいと、私は考えている。
