「 自国を自力で守る姿勢を鮮明にし アジア諸国と連携を強化する首相 」
『週刊ダイヤモンド』 2013年1月26日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 970
「中国人民解放軍を平時において積極的に活用する」「軍事闘争への備えを優先する」
これが習近平・中国共産党総書記が繰り返し強調する考え方であり、後述する中国の尖閣諸島問題に関連する対日強硬政策の主因でもある。
習氏は前任者の胡錦濤、江沢民両氏と異なり、まもなく党中央軍事委員会主席のポストも手にし、政権発足当初から党と軍の実権を掌握する。前任者の2人が自らの政権を樹立した後も2年ほど、党中央軍事委員会主席のポストを手に入れることが出来なかったのとは対照的だ。
胡、江両氏と同じく習氏も軍歴がない。にも拘わらず、なぜ習氏は政権発足と同時に軍の最高指導者のポストを手にすることが出来るのか。胡、江両氏と異なり、習氏は太子党を通じて多くの軍のエリートとの人脈を有していることが背景にあるとみられている。
太子党は中国共産党や人民解放軍の有力者の子弟が構成する組織である。習氏はそのトップとして、同じく太子党に所属する軍の現役大将約70人と「友人」関係にある。習氏は彼らを通して軍掌握に強い力を発揮出来る。だがそのことは逆に、習氏は彼らの影響を強く受けざるを得ないということをも意味する。
その習近平体制下で、軍人の対日強硬発言が続いている。尖閣諸島上空の日本の領空を中国国家海洋局所属のプロペラ機が侵犯したのは昨年12月13日だった。安倍晋三政権発足後のいま、尖閣諸島上空を侵犯するのは中国軍の戦闘機である。
彼らは防空識別圏に入り込み領空スレスレに飛ぶ。安倍首相は、そのような場合、国際基準に従った対処をするよう防衛省などに指示した。つまり、警告のための曳光弾発射を明記したルール、交戦規定(ROE)を作成し、実施することを内外に明らかにしたのだ。
対して中国人民解放軍の彭光謙少将が「日本が曳光弾を一発でも撃てば、それは(日中)開戦の一発を意味する。中国はただちに反撃し2発目を撃たせない」と反発した。かと思えば、年来の強硬発言で知られる軍事科学学会副秘書長の羅援少将は「私たちは戦争を全く恐れていない。一衣帯水といわれる中日関係を一衣帯血にしないように日本政府に警告する」と気を吐いた(「産経新聞」1月17日)。
自国の領空や防空識別圏に他国の戦闘機が侵入すれば、曳光弾による警告を発するのは国際社会の常識である。そのような手を打たず放置すること自体が他国の軍事侵略を受け入れ、領土領海を相手方に引き渡しても仕方ないと諦めていることを意味する。何もしないことは事実上、相手の侵略を手招きすることだ。日本が対抗策を講ずるのは当然であり、国際法上許されないのは中国の行動であり発言だ。安倍首相のROEの作成および実施の指示は正しいのである。
加えて安倍首相はすでに防衛費を増額し、海上自衛隊と海上保安庁の艦船を出来るだけ早く増やすことを表明している。自国を自力で守る姿勢を明らかにすることが国防の第一歩であり、これも理にかなった道である。
しかし、それだけでは不十分である。その不足分を補うのが1月16日からのベトナム、タイ、インドネシア3カ国への訪問である。アジア諸国との連携強化は中国の暴走を抑制する効果を発揮するはずだ。
地球儀を頭に浮かべながら世界を視野に入れた外交、経済、安全保障政策を促進するという考えで行われた東南アジア訪問では、まず、ベトナムで、日越両首脳がすべての問題は国際法に基づいて平和的に解決すべきだと合意した。国際法順守、問題の平和的解決、民主主義擁護の旗を掲げ、アジア、米国などとの連携を強める外交を全力で推進するのがよい。