「 中国の歴史戦は本気だ、心して戦え 」
『週刊新潮』 2026年6月4日号
日本ルネッサンス 第1197回
5月14、15日の米中首脳会談、直後の20日には中露首脳会談。両会談の基調は、習近平国家主席の高市早苗首相と頼清徳台湾総統への敵愾心だった。
トランプ米大統領との会談で習氏は高市、頼両氏が地域の平和を脅かすとして、両氏を支援しないよう迫ったと、「読売新聞」が5月24日の1面トップで報じた。これは北京からワシントンに戻る大統領専用機からトランプ氏が高市氏に電話して伝えたという。トランプ氏は、高市氏は批判されるような指導者ではないと擁護したそうだ。
中露首脳会談でも中国の対日非難が盛り上がったのが見てとれる。共同声明は日本の「再軍事化」の加速が国際社会と地域諸国の強い警戒を呼んでいると強調し、日本は非人道的な侵略の歴史を踏まえ反省し、「新型軍国主義」と「再軍事化」を止めるよう強く促すと警告した。
中露両政府はまたわが国の右翼勢力が「独自の核保有まで企図する容認し難い野心と極端な挑発行為」に及んでいるとして、警戒感を表明した。彼らの警告は日本国の実態を全く反映していない。しかし、習氏らが正式にわが国の軍国主義化を警告したことは、中露の対日政策は以降、この路線に基づくことを意味する。日中関係は益々厳しくなる。長期間、改善は期待できない。そう考えて備えるのが正しい。
わが国への「非人道的な侵略の歴史」「第二次世界大戦の全ての結果を受け入れよ」などの警告は対日歴史戦争を強める狼煙(のろし)である。中国が持ち出す歴史戦の筆頭が「南京大虐殺」や「七三一部隊」であるのは、彼らが去年世界に配信した二つの映画からも明らかだ。どちらも史実を反映しておらず噴飯物だった。しかし、捏造であってもデタラメ映像は人々の記憶に強いインパクトを残す。史実に反する、完全な間違いだという冷静な指摘だけでは歴史戦に敗れる。
永住を目指す中国人
そんな危機感の中、西岡力氏が会長を務める「歴史認識問題研究会」(歴認研)主催のシンポジウム「中国との歴史戦をどう戦うか」が、5月23日、都内で開催された。冒頭、日本維新の会の参議院議員、石平氏が「南京大虐殺は存在しなかった」として、次のように語った。
〈私は1962年生まれです。高校生まで南京大虐殺のことは教わったことがない。80年代、北京大学に入学した頃、『南京大虐殺』や歴史問題が論じられていた。大学は全寮制で8人部屋、私は下段のベッド、上段に南京出身の同級生が割り当てられた。彼の家族は清朝時代から南京に住む生粋の南京っ子、日本風にいえば江戸っ子だ。
私は彼に、大虐殺の話を聞いたことがあるか、と尋ねた。ない、と言う。お父さんも、お爺さんお婆さんも語ったことがない。祖父は8人兄弟、皆南京で色々な商売をしていた。私はその内何人が日本軍に殺されたかと尋ねた。ゼロだと言う。
30万人の殺害が真実なら友人の大家族の1人くらいは殺され、友人は事ある毎に大虐殺の話を聞いて育っているはずだ。それが全くゼロだ。友人は同室の学友として語ったのであり政治的思惑からは遠い。南京の友人も私も全く知らない。南京大虐殺はなかったと、私は断言する〉
こう述べて、石氏は私たちに警告するのだ。南京大虐殺は単なる歴史認識の問題ではなくなっていると。
〈大半の中国人は日本の大虐殺を信じている。中国人と会食すると必ずと言ってよい程、人民裁判になる。酒を飲んで口角泡を飛ばして中国人が言うのは、南京大虐殺の仇を討つべし、東京大虐殺が必要だということだ。
こうなると歯止めが利かない。核兵器は滅多に使うものではないが、日本にだけは使うのが当たり前だという。国防政策を考えるとき、日本は中国共産党が対日先制核攻撃をする可能性があるとの前提で準備しなければならない〉
1993年から10年間、国家主席を務めた江沢民氏は94年に愛国主義教育という名の反日教育を制度化した。それから30年余、40歳以下の中国人が反日教育で育った。
いま日本での永住を目指す中国人が急増中だ。日本が好きで日本に敬意を抱く人々も多く、そのような人々を大切にすべきなのは当然だ。同時に石氏の警告も重い。反日教育を主導する中国共産党は実に1億超の党員を抱える。こうした党員や、反日教育で洗脳状態にある数多の中国人が、心から日本と日本人を憎んでいる現実は直視しなければならない。
そして深刻な問題は、中国共産党の主張が恰(あたか)も史実通りであるかのように国際社会に拡散されていることだ。王毅外相は国連においても、欧州、アフリカ、アジア各国においても、わが国を「ファシズム」「軍国主義への回帰」「南京大虐殺」「七三一部隊」などの語を使って非難する。
説得力がない
石氏は、日本は全力で反論し、中国の主張が誣告(ぶこく)であることを証明し、完膚無きまでに中国を打ちのめさなければならないと強く警告する。日本人は中国共産党の本当の怖ろしさを知らないと言うのである。
シンポジウムでは南京事件を中心に討論されたが、西岡氏が強調したのはわが国外務省の対応の不十分さである。南京事件について外務省ホームページには「日本軍の南京入城(1937年)後、非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」とし、「しかしながら、被害者の具体的な人数については諸説あり、政府としてどれが正しい数かを認定することは困難」だと記されている。
説得力がない。そこで西岡氏は(註)として「軍紀風紀逸脱行為が頻発したことは否定できないが、計画的組織的な『虐殺』とは言いがたい」と追記し、防衛庁防衛研修所戦史編纂室『支那事変陸軍作戦〈1〉昭和十三年一月まで』436~438ページの資料全文をHPに上げよと主張する。そこでは、中国政府の言う30万人虐殺説を政治的思惑から、或いは中国の中央宣伝部と協調して捏造した英国のマンチェスター・ガーディアン紙のティンパーリ氏や中国共産党を強烈に支援した米国人ジャーナリスト、エドガー・スノウ氏に触れながら、日本側の足らざるところも網羅している。その上で「南京付近の死体は戦闘行動の結果によるものが大部であり、これをもって計画的組織的な『虐殺』とは言いがたい。しかしたとえ少数であっても無辜の住民が殺傷され、捕虜の処遇に適切を欠いたことは遺憾である」と結論づけている。
中国が日本に突きつける歴史問題には七三一部隊もある。同件についてのわが国での研究は、資料が米国に持ち去られたこともあり、進んでいない。中国の企みの根の深さ、政治的決意の堅さを十分に考え、同件について、官民の取り組みを急ぐことだ。












