「海上自衛隊”武器制限 ソマリア派遣”に異議あり」
『週刊新潮』’09年2月5日号
日本ルネッサンス・拡大版 第348回
櫻井 ソマリア沖に横行する海賊退治に国際社会が力を結集しつつあります。中国は昨年暮れに軍艦2隻と補給艦を合わせた3隻の派遣を決め、すでに「大国」としての働きを開始しています。韓国も軍艦の派遣を決めました。他方、日本は3月末あたりを目処に海上自衛隊を送りたいと議論しています。
そこで、民主党副代表で、安全保障の専門家でもいらっしゃる前原さんにお伺いします。3年9カ月、駐日米国大使を務めたシーファー大使が1月14日に行った離任前の会見で、「海賊は犯罪者だ。日本が海賊から自国民を護る決断を下すのに、なぜこれほど長い時間が掛かるのか、理解できない」と、語りました。憲法9条をはじめ、日本の特殊事情について理解の深かった大使が、今回、率直に理解できないと批判した。それほど日本の対応は鈍く、まさに理解を超えるものではないでしょうか。
前原 ソマリアの海賊に関しては、すでに3本の国連決議が全会一致で行われています。日本も賛成したこれらの決議を前提として、特別措置法を作り、早急に海上自衛隊を送ることを考えるべきです。
しかし、今、政府が進めているように、自衛隊法82条の「海上警備行動」を根拠にして、海自を派遣することには、慎重にならざるを得ません。それは、海警行動は、警察官職務執行法の準用でしかないことが第一点。
また、自衛隊法82条は、日本周辺で海上保安庁が対応できないときに、海自にバトンタッチするというのが本来の趣旨でした。ソマリア、つまり海外まで出かけて、日本の商船を守るということが前提になっていないのです。違法ではないが、根拠があやふやなものになっている。
櫻井 海警行動では、海上自衛隊の手足を縛って派遣することであり、期待される任務は到底、果たせないでしょう。
前原 無理ですね。憲法解釈で日本がやってはいけないことに、海外での武力行使があります。これまでのPKOやテロ特措法のときも常に、この点がネックとなってきました。具体的に説明すると、海上自衛隊の護衛艦は警察官職務執行法を準用するため、ソマリア沖で、正当防衛か緊急避難か、もう一つ、まさに笑い話ですが、相手が禁錮3年以上の罪を犯している場合に限り、撃っても構わないとされています。
しかし、その場合でさえ、武器使用では「比例原則」を守らなければなりません。相手の武器と同程度の武器しか使用してはならないというものです。
櫻井 海賊のような犯罪者集団に対しても、圧倒的な火力は使用できず、しかも原則、人的被害は出してはならないとされていますね。
前原 ですから、海賊船の船体を攻撃しても、撃沈させてはならないわけです。人的被害が生じますから。そもそも、護衛艦と海賊の乗る船では、戦闘力や防御力に大差があります。彼らはロケットランチャーなどで武装しているのが常ですが、武器の比例原則でこちらも同程度の武器で反撃した場合、向こうの船が爆発したり、沈没することは十分に考えられます。これは本当に憲法の禁止する武力行使に当たらないのか、という懸念がまずあります。
また日本には軍法裁判所がありませんから、その自衛官が後に過失に、つまり刑事罰に問われることはないのか、という点も整理されていません。こんな曖昧な形で任務を遂行するのでは、攻撃や危険に対して咄嗟の判断はとても出来ません。却って、こちらに被害が出るかもしれません。
櫻井 これでは日本の船でも十分に守ることが難しいかもしれません。中国はすでに台湾の船も守っています。日本の船も中国の軍艦に守ってもらうような事態に陥らないとも限りません。まさに、日本が中国の被保護国になり、日中の関係が完全に中国優位になることです。太平洋分割統治をアメリカにもちかけた中国にとっては、好都合でしょうが、日本にとっては受け入れ難いことです。
護衛対象外は救助不能
櫻井 99年、能登半島沖に侵入した北朝鮮の工作船に対して、海警行動が発令されました。しかし、彼らは日本側が攻撃を仕掛けることは出来ないと知っていて、ひたすら逃げました。一隻がエンジンの故障で停まってしまったのに、日本側は手が出せなかった。自分たちが攻撃しなければ、日本側は本当に撃ってこれないと知られてしまえば、敵は必ず逃げ切ります。
また、ソマリア沖に派遣された場合、海自が護り得る対象は、日本船籍の船や日本の貨物を積んでいる船などに限られると言われています。外国の船が襲われている場面に遭遇しても、海上警備行動という国内法に縛られれば、ただ見ているしかない。これでは、恨まれ、侮られます。
前原 確かに海警行動で派遣された場合は、助けることはできません。おそらく、浜田靖一防衛相は、その辺をギリギリ議論しているのだと思います。外国船の近くにたまたま日本の船がいた場合は、それを護るという名目で、海賊船が他国の船にアプローチするのを妨害するとか……。そういう想定を色々、やっているはずです。しかし、そういう名目も立たない場合、自分たちの任務ではないということにならざるを得ないでしょう。
櫻井 もしそんな事態が起きたら、国際社会の日本に対する反発は想像もできません。第一次湾岸戦争のとき、お金しか出さなかった日本にクウェートは感謝をしませんでした。それでもあのとき、日本は現場にいなかった。今度は目の前にいるにも拘らず、手助けしないことになります。囂々たる非難が巻き起こるでしょう。
ところが、麻生総理は、ここまで手足を縛られている「海上警備行動」について尋ねられたとき、軍艦に向かってくるような海賊船はいないでしょう、と言っています。そのような認識で海自は出されるのか。
前原 その通りです。実際、00年の10月、アデン湾でアメリカのイージス艦に対して自爆テロのゴムボートが突っ込み、大爆発したという事件もありました。ですから、ソマリア沖で自爆テロが起きないとは、断言できないのです。
櫻井 海自の船もその対象になるかもしれません。護衛艦が存在するだけで、周辺の海域が安全に護られるのだという認識では甘いのです。形だけの軍事力ではなく、実際に防御できる実効性ある軍事力にしなければならないと強く思います。
前原 警察官職務執行法に基づく武器使用基準で、本当によいのかという点は、自衛隊で長く検討されていますが、未だにネックとして存在しているわけです。この問題を解決するために、憲法改正というのでは、あまりにも時間が掛かりすぎるため、安倍元総理は、在任中、4つの類型を憲法解釈によってクリアさせようと、有識者会議を作りました。
アメリカを攻撃する弾道ミサイルを日本が撃ち落とせるのか、とか、公海上で海自の艦船と併走する米軍の艦船が攻撃された場合、自衛隊が防護してよいか。イラク復興支援のようなケースで他国軍が攻撃された場合、自衛隊が駆けつけて警護できるか、という類型も含まれていました。せめて安倍さんがそれをやってから辞めてくれれば良かったのですが、有識者会議が集団的自衛権の行使を容認する報告書を提出したのは、安倍総理の辞任後、福田総理のときでした。
日本を自力で守れない
櫻井 福田総理はその報告を全く無視した。その報告書は有効性を失ったのでしょうか。
前原 いえ、まだ有効です。
櫻井 麻生総理が引き継ぐことはできるのですか。
前原 できますが、何分、求心力のない総理ですから、現実的には難しいのではないでしょうか。また、公明党との連立がネックになるかもしれません。しかし、もし、この4類型で憲法解釈を変えれば、ソマリア沖での海自の活動について、問題は相当にクリアされるはずです。そもそも、集団的自衛権は国連憲章に認められていることですからね。全ての加盟国は個別的自衛権と集団的自衛権の両方を持つと認められています。
私は将来、日本は安全保障基本法を持つべきだと思いますが、そこに集団的自衛権の範囲をしっかり書けばよいと思っています。有事一歩手前の段階でも、同盟国アメリカや友好国のために協力できるという形を整えることは、日本の安全保障からすると当然のことでしょう。
櫻井 同感です。けれど、ソマリアへの自衛隊派遣について、基本法を作ろうと自民党が提案しても、民主党は話し合いに応じないそうです。
前原 それは、おかしなことです……。
櫻井 ですから、安全保障に関しての民主党の政策は信頼されず、政権政党としての力を疑われるのです。中国の軍事費はこの20年間で19倍になりました。ロシアも凄まじい軍事力強化です。このような状況下で、日本が台湾のようになる危険性はゼロではありません。台湾の実態として、アメリカと中国の共同管理という色彩が濃くなりつつあります。
例えば、アメリカは中国の顔色を見ながら、台湾の独立志向を牽制したり、新しい武器を売るかどうかを決め、台湾は自らの意思で自国の運命を決めることが次第に難しくなりつつあります。日本が同じ立場に追い込まれないためには、自力で自国を守り得る軍事力を日本も持つ時期が来たと思います。
前原 年間5兆円の予算を使いながら、日本は自国を自力では守れない仕組みになっています。昔の仮想敵国はソ連でした。当時は、大規模着上陸侵攻という有事が想定され、それに合わせて自衛隊が整備されてきました。
しかし、今、想定されている脅威は3つあります。1つ目が北朝鮮からのミサイル、2つ目があらゆるタイプのテロ、3つ目が島嶼侵攻を含めた主権の侵害です。即ち中国です。
櫻井 想定される3つの脅威に、現状では日本だけでは対応できませんね。
前原 ええ、日本のミサイル防衛システムは、アメリカの高高度の静止衛星からの情報がなければ機能しません。またテロに対して、もっとも重要なインテリジェンス能力ですが、衛星情報や諜報活動の能力を含め、日本は決定的に欠いています。
この点もアメリカ頼りで、例えば、北朝鮮の工作船を2度察知しましたけれど、全てアメリカの情報によるものでした。最後の島嶼侵攻については、制空権、制海権の問題に行きつきます。このまま中国の軍備増強が続けば、尖閣諸島を含めた東シナ海は、たとえアメリカと協力したとしても、日本の実効支配は危うくなるでしょう。
櫻井 たとえ、アメリカの協力があったとしても、日本の制海権、制空権の維持が難しいとの指摘は非常に重要です。昨年12月8日、中国の海洋調査船が尖閣諸島から3.2キロ沖合いの日本の領海に侵入し、9時間半も居座りました。
日本側の抗議に、中国側は「釣魚島は中国固有の領土」と開き直りました。さらに、海監総隊副隊長は、「領有権の争いがある海域では、実効支配が重要な意味を持つ。今後、この海域の管轄を強化する」と、述べました。軍か民間か、如何なる形か、中国が尖閣に上陸する日は遠くないと感じています。
2050年の世界地図
前原 外務省幹部によると新華社系の新聞には、「また行う」と報じられていたそうです。阻止するために海上保安庁による警戒態勢は強化されていますが、海自や米軍との連携を含めた中長期的な計画を考えていかなければならないと思います。
留意すべき点は、中国が空母の建造と宇宙の利用を急速に進めていることです。近い将来、30~40基の衛星を持ち、空母と連携させるでしょう。東シナ海のみならず、太平洋まで中国海軍の実効支配が強まってくると思います。
櫻井 今すぐできるのは、海保の船を尖閣の周辺に集中させることです。予算措置も立法措置も不要で、緊急手当てができます。日米安保条約や海自の存在も強く示さなければならず、そのために5兆円を下回った防衛予算を増額する必要があります。今でも、日本と中国の軍事力は1対3だと言われています。
このままでは10年後、中国の軍事力は約10倍になり、日本との差は30倍に開きます。そうなれば、日本は中国の顔色を窺わなくてはならず、もはや、彼らに物を言えなくなるでしょう。
前原 防衛基盤をアメリカにおんぶに抱っこでは、中国の力がより強くなったとき、アメリカから武器の輸出をしてもらえなくなるかもしれません。日本は戦闘機や情報衛星、護衛艦をできる限り、自らの力で作らなければなりません。自国で全てやろうとしたら大変ですから、他国との共同開発ができるように、武器輸出3原則を見直すことです。それは必ず日本の防衛基盤の強化に資するはずです。
櫻井 防衛基盤の強化に異論はありません。ただ、世界6番目の海洋大国である日本が海上自衛隊の力を削り続けるのは将来の国民への背信行為になりかねない。外交と軍事が一体であることを忘れ去ったかのような日本は、中国は無論、同盟国のアメリカからさえも受け入れてはもらえないでしょう。ソマリア沖で中国に守ってもらう日本でよいのかと、問いたいですね。
前原 一昨年、ゴールドマン・サックスが2050年の経済大国の予想を発表しました。1位中国、2位アメリカ、3位インドで、日本はロシア、メキシコ、ブラジルといった国と肩を並べています。そう考えると、中国が影響力を持つことは不可避でしょう。
台頭する国に対して周辺国が警戒感を持つのは当然ですが、現実を考えると、中国が傲慢にならないよう、身の丈にあった国際貢献もしてもらえるように、中国を導いていくことが大事だと思います。
そしてどうしたら、中国ときちんと付き合えるか。対中外交で最も大事なのは、原理原則を曲げないことです。その上で協力できるところは協力し合う。両面を合わせて上手くやっていかねばならないのです。
櫻井 そのためにも日本が真の自立を手に入れること、決定的に欠けている軍事的自立を達成することです。
人は何の為に戦うのか? 命の現場を扱う使命感を持つ者は手駒ではない
観察 この疑問を考えると眠れなくなった。 どんな組織でも個人でも、 人は何かを守るための命をかけるのだと思う。 考察 何の為だろうか。 もしかしたら帰って来れな事だって…
トラックバック by phrase monsters — 2009年02月05日 22:58
死のソマリア沖派遣
ソマリア沖の海上警備行動に、海上自衛隊が駆り出される事が決定した様だ。
トラックバック by 徒然なるままに@甲斐田新町 — 2009年02月06日 02:23
海自、ソマリア沖に今日出発しました
いよいよ海上自衛隊、ソマリア海域に派遣です。TVで出発の様子、ちょろっと見せていただきました。(我が家のTVに関しては、完全にダンナの支配下ですから) 詳しいニュースは…
トラックバック by 負けない!試験対策(FP、公務員中心) — 2009年03月14日 19:30