「 日本に教科書修正を要求する韓国自身にも“歴史の歪曲”あり 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年8月25日号
オピニオン縦横無尽 第409回
8月16日の「朝日新聞」は朝刊の1面で扶桑社の出版した歴史および公民の教科書は、全国の市区町村立および国立の中学校では使われないというニュースを伝えていた。
教科書の採択は542地区に分かれて行われたが、その中のひとつとして「つくる会」の編集した教科書を採択しないという徹底ぶりである。雪崩(なだれ)を打つかのような一方向への動きを見るにつけ、私は扶桑社以外の出版社の教科書の内容や、中国や韓国の教科書の内容について考え込まざるをえない。
過日当欄で韓国の子どもたちの歴史教育について、ごく簡単に触れた。日本に対して歴史を歪曲すべきではないと強い抗議を続けている韓国の教科書では、しかし、知れば知るほど驚くような歴史の“歪曲”がなされている。
たとえば2001年度版の中学用の教科書『韓国の歴史』には、「我国最初の国家である古朝鮮は、満州と韓半島を支配しており、統治組織を持つ国家であった」「古朝鮮は檀君(だんくん)王倹によって建国されたという」と記されている。
檀君・王倹は、桓因(わにん、神)の子、桓雄(わぬん)が女性となった熊と結婚して生まれたとされる神話のなかの存在だ。檀君も古朝鮮も以前は神話や伝説として語り継がれていたが、近年になって実在の歴史としての検証作業が行われるようになってきている。
歴史の検証は大いに結構ではあるが、その古朝鮮が支配していた勢力範囲が年ごとに、教科書のなかで拡大されてきているのである。詳しくは「現代コリア」八月号の拓殖大学国際開発部教授、下條正男氏の「何が相互理解を阻害してきたのか――日韓歴史教科書問題」を参照していただきたいが、下條教授は、この2年ほどのあいだに、「歴史的に実在しない古朝鮮の勢力範囲が約3倍に膨らんだ」「その勢力範囲は朝鮮半島に形成された(現実の)統一国家とは重ならない」と指摘する。
「つくる会」の教科書に対し、韓国政府はこの古朝鮮の存在を認めさせようと再修正の要求を出したわけだが、それこそは、韓国側が糾弾する史実の歪曲に当たるのではないか。
この点について考えるべきことは、このような神話や伝説時代の“史実”が、現在の日韓間の外交問題にまで絡んでくるということである。古朝鮮の時代から、彼らが支配していた地域は鴨緑江流域から豆満江流域にまで及んだと、拡大されて子どもたちに教えられているが、下條教授はこうした教育のなかに、重大な問題がひそんでいると指摘する。
なぜなら豆満江流域には現在の延辺朝鮮族自治州が含まれており、この地域は1909年に、日本政府が清国に譲渡したと教えられているからだ。ちなみに韓国の歴史教科書は「獨島と間島」について章を設け、「日本は我国を侵略しながら獨島を強奪した反面、間島地方を勝手に清国に与えてしまった」と記述しているのだ。獨島は竹島のことであり、間島地方というのが延辺朝鮮族自治州のあるところである。
つまり、現在中国が領有している右の地域は、もともと古朝鮮時代から韓国が領有し支配してきたものを、日本のおかげで奪われてしまったとして、日本の過去を責めている。もともと古朝鮮が支配していたというのは事実無根の主張であるだけでなく、間違いなく韓国国民の対日感情を悪化させる歴史教育である。この件が、将来、歴史問題に対する賠償金問題につながっていく可能性も否定しきれない。一方の竹島の領有権については、拙著『論戦2』の34ページをご覧いただければわかるように、明白に日本の領土である。
教科書問題で声を大にして叫んだ人びとは、この例に見られるような韓国の教科書、あるいは中国の教科書をどう考えるのだろうか。一連の批判を理解するためにも知りたいものである。