「 米大統領選挙に向け最初に名乗り出た女性 ウォーレン氏の出馬表明が映す米国の分裂 」
『週刊ダイヤモンド』 2019年1月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1263
1月3日、昨年11月の中間選挙で改選された米連邦議員らが初めて議会に招集された。4日付の米各紙は下院に集った民主党議員団の写真を大きく掲載したが、女性議員が多いために文句なしのカラフルさだった。若い議員も多く、子連れ姿も少なくなかった。椅子の数に較べて議場に詰めかけた人数の方が多く見えたのは、1年生議員たちが嬉しさの余り伴侶を連れて登院したということだろうか。
改めて振り返ると、民主党が下院435議席中、235議席を占めて多数を取った。女性議員は102人で内、89人が民主党である。選良たちの宗教も多様化し、宣誓で用いるためにキリスト教、ヒンズー教、仏教などの教典が用意された。国家、国民のために全力を尽くすと、神や仏に誓うのは大統領だけではないのである。一人一人の議員も誓ってようやく正式に議員になれる。大事なことだと思う。
アフリカ系議員は上下両院で55人、LGBTの人たちも上下両院で10人。米国社会はさらなる多様性の新しい時代に入ったという印象だ。
8年間の野党暮らしを経て、議長に返り咲いたナンシー・ペロシ氏(78)は真っ赤なワンピースに身を包んでいた。民主党内からは世代交替を求めペロシ氏に反対する声もあったが、彼女は執念を燃やし、党内への説得工作を続けた。8年間のブランクを経て議長に返り咲いたケースは、彼女が初めてだ。
民主党応援団の新聞として知られる「ワシントン・ポスト」(WP)紙は喜びを隠しきれないような報道振りだった。たとえば、最年少の下院議員となったニューヨーク州選出、アレクサンドリア・オカシオ・コルテス氏に関連して次のように報じた。
「オカシオ・コルテスがペロシに一票を投じ、共和党陣営の方を向いてにこやかな表情で『お気の毒ね(sorry)』と口パクで言ったときは、共和党議員のうめき声が聞こえるようだった」
若くて、女性で、魅力的なオカシオ氏への入れ込み振りは、彼女を含めた女性議員らへの、WPの熱い期待そのものだ。
そうした中、上院議員のエリザベス・ウォーレン氏(69)が2020年の大統領選挙への出馬につながる準備委員会を設立した。大統領選挙に向けて名乗り出た最初の人材も女性だった。まさに米国は女性の時代である。
彼女は反ウォール街のリベラル派だ。弱者の味方としての立場を強調するためか、自分には先住民の祖先がいると主張し、昨年秋、DNAの鑑定結果を公表して話題を集めた。
鑑定結果は、6~10代前に先住民の祖先がいることを示したが、彼女の地元の新聞は彼女の血の「64~1024分の1」が先住民の血だと冷ややかに報じた。この血の薄さを以て、「先住民の血を受けついでいると言えるのか」という意味合いであろうか。
彼女が約2年先に行われる大統領選挙で民主党候補に選ばれるのかなど、現時点では全くわからない。しかし興味深いのは、彼女がいち早く名乗りを上げたとき、「彼女はどれだけ当選の可能性があるか」という議論が起き、それがヒラリー・クリントン氏との比較においてなされたことだ。
ヒラリーはあと一歩で史上初めての女性大統領になるところだった。選挙資金の集金力も抜群で、得票数もトランプ氏を上回った。しかし、落選した。そしていま、ウォーレン氏が出馬に向けて走り出した。グラスルーツの庶民の味方という姿勢で億万長者を排斥するが、ヒラリー同様、資金集めには極めて秀でると分析されている。ヒラリーに関して米国社会は熱烈な支持者と強い拒否層とに二分された。先はまだ長いが、ウォーレン氏の出馬表明が米国社会の深い分裂を反映しているように思えてならない。