「 「偉大なる指導者」の地位目指す習近平 厄介な中国との対峙に向けて憲法改正を 」
『週刊ダイヤモンド』 2017年11月4日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1205
中国共産党第19回全国代表大会での習近平国家主席の演説を日本語訳で読んだ。「中華民族は世界の民族の中にそびえ立つ」などの表現をはじめ、国民の愛国・民族感情に訴えつつ、世界にそびえ立つ超大国を目指していることがどの文節からも伝わってくる。習氏が謳い上げた中国の本質は、中国は呑み込む国だということだ。周辺諸国は中国と関わることで呑み込まれてしまう。
習氏は演説冒頭で「小康社会」を実現し、「中華民族の偉大な復興という夢を実現する」と国民に呼びかけた。
小康社会とは「経済、民主、科学、教育、文化がいっそう発展、充実し、社会が調和的になり、人民の生活がいっそう豊かになった」社会だという。その目標を2020年までに達成し、その後、30年間奮闘して新中国建国から100周年(49年)までに「社会主義現代化国家」を築き上げるという。
社会主義現代化国家とは、中国が経済、科学技術において優れた大国の地位を占め、国民が平等に発展し、法治国家の基本を守り、中華文化が世界に広く影響力を行使する国だそうだ。このような方向に現在の中国が向かっているとは思えず、習演説に溢れているのは自画自賛の美辞麗句だと言ってよいだろう。
習氏は今年から来年が「2つの100周年の奮闘目標の歴史的合流期だ」とも語った。中国共産党創立100周年(2021年)までに前述の小康社会を実現し、中華人民共和国建国から100年目に社会主義現代化国家を完成させると言う。
偉大なる中華民族の夢を実現する柱の一つが「中国の特色ある軍隊の強化」である。20年までに「国防・軍隊建設」を質的に高め効率化し、情報化を進めて戦略能力を大幅に向上させ、35年までに人民解放軍をあらゆる面で世界一流の軍隊に構築すると表明している。
国家が富み強くなることと、軍隊が強くなることは全く同じことだと、習氏は強調し、軍人は除隊後も家族共々、権利、利益を守られる国にするそうだ。精神的にも軍人が社会全体から尊敬される職業にしていくとしている。
国家を担うのは、結局、人材だという認識に立ち、共産党の党幹部たるための基準を定めている。たとえば「才徳兼備・徳の優先」「津々浦々・賢者優先」「事業至上・公明正大」だ。
習氏を取り巻く幹部らを含めて、中国共産党の党員全員が不正蓄財していると見るべき現在の中国社会で、徳の優先がどこまで通用するのか。果たしてそのような価値観がこれから根づいていくのか。汚職などの嫌疑をかけられて自殺した官吏は、文化大革命の嵐が吹きすさんだときより習氏の五年間の統治のいまの方が多い。それだけ徹底している腐敗体質の中国共産党が変わり得るのか、見詰めていきたい点だ。
幹部養成教育と並行して行われるのが一般国民の教育である。教育の柱として「愛国主義、社会主義の旗印」が明記されている。中国の愛国主義は反日主義と同義語だ。当然、日本人としては不安を覚えざるを得ない。
中国に内包されてしまった民族を含めて、周辺民族や近隣国家にとって非常に気になるのは「人類運命共同体」や「各民族がザクロの実のように寄り集って共に発展する」というスローガンだ。多民族の上にそびえ立つ中華民族の下で、ザクロの実の一つのように包摂されたり、運命共同体にされたりするのは真っ平だからだ。
習氏は毛沢東や鄧小平(とう・しょうへい)に並ぶ「偉大なる指導者」の地位を目指している。わが国はその習氏の中国と協力或いは対峙していかなければならない。この厄介な国を避けることはできないのだ。であれば、自民党が大勝したいま、国としての基盤を整えること、そのためにも憲法改正が必要なのは明らかだ。