「 置き去りにされた本質の議論 摩訶不思議な「加計学園」問題 」
『週刊ダイヤモンド』 2017年7月15日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1190
学校法人「加計学園」問題は摩訶不思議な問題である。とりわけ不思議なのが前文部科学事務次官の前川喜平氏だ。氏が現役の文科次官だった時、新宿歌舞伎町のいかがわしい店に頻繁に出入りしていたことはすでに報じられている。その店を取材した新聞社や雑誌社の記者に尋ねると一様に、「買春が目的と思われても仕方のない店」だと語る。
たとえばこのような店に現職の校長や教師などが一度でも足を運び、料金を払って女の子を店の外に連れ出していたなどとわかったら、恐らくPTAも教育委員会も黙ってはいないだろう。校長・教師側は散々非難され、場合によっては辞職を迫られかねない。
だが、そのような行為を数十回も繰り返していた前川氏は、「貧困女子の実態調査だ」と弁明した。メディアはこの弁明を受け入れ、氏は「親切な小父さん」になった。民進党等は、前川氏に「証言」させ、安倍政権批判としてきた。
そこで、加計学園問題に深くかかわってきた前愛媛県知事の加戸守行氏に聞いてみた。氏は平成11(1999)年から3期12年間、愛媛県知事を務め、獣医学部の新設に力を尽くした。
氏が語った。
「知事に就任してすぐに、私は、10年以上停滞していた今治市再開発事業に手をつけました。市の構想のひとつが学園都市を作ることでした。けれど私たちが欲しかったのは獣医学部だった。四国四県が獣医不足に悩んでいるのは、今も変わりありません。獣医師の定年を延長したり、応募があれば、本来試験をして採用に至るものがフリーパスで採用される状況です」
「約50年間も獣医学部は新設されていません。しかも獣医学部の入学定員は神奈川県以東が8割、岐阜県以西が二2。不公平が罷り通っているのです。私の時には鳥インフルエンザが、平成22年には宮崎県で口蹄疫が発生しました。その度に農家も役所もどれほど獣医不足が恨めしいと思ったことか」
獣医師会が力を持って学部新設に反対したことを振りかえり、加戸氏は「岩盤規制を打ち破るのに10年以上かかった」と語る。
「ところが、平成21年に民主党政権になって少し前進した。衆議院の玉木雄一郎氏らが頑張った。自民党政権になったらまた停滞しかかったのを、国家戦略特区諮問会議がこの問題に取り組み、竹中平蔵氏ら有識者の尽力でようやく事態が動いたのです」
安倍晋三首相の個人的事情については、こう語る。
「首相のお友達云々は関係ありませんよ。それより酷いのは文部科学省です。どれだけ獣医師が不足しているか、そのデータを諮問会議が求めても、出さない。四国4県の関係者は、早期の獣医学部新設を望んで、4知事連名で要望しましたが、そうした地元の声を無視したのが文科省です」
加戸氏は問題の本質が取り違えられていると強調する。深刻な獣医師不足解消のための獣医学部新設であり、急ぐべきだという大事な点を、メディアは報じないと批判する。この問題を安倍首相批判の材料としてのみ見ているのが報道ではないかと言うのだ。
「私の所に取材にきて、正確に報道したのは産経と読売でした。朝日と毎日は無視するか、または不正確な報道でした。テレビ報道は文字に残っていないのでひとつひとつ正確に批判できないのが残念ですが、前川発言を報じたTBSには唖然としました」
前川氏はTBSの番組で、加戸氏が安倍首相から頼まれて加計学園問題で安倍首相に有利な発言をしている、見返りに加戸氏は教育再生実行会議のメンバーにしてもらっているとの主旨を語ったという。
「前川氏は少しおかしくなったと私は思いましたね」と加戸氏。前川氏もメディアも、常軌を逸していないか。