「 南シナ海問題で国際法無視の中国 対抗策は国連総会における総会決議 」
『週刊ダイヤモンド』 2016年8月6日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1144
いま、中国にどう向き合うべきか。その要点は、中国はいまの国際社会には受け入れられない「異形の大国」であることを彼らに認識させることだ。
7月12日のオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所の裁定が中国の主張を全面的に否定した後、一貫して中国は強硬姿勢を強めている。7月25日の東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議の共同声明では南シナ海裁定については全く触れられなかった。日本や米国が出席しないASEAN諸国の会議に、中国が強い影響力を行使した結果である。カンボジアを抱き込んで、分断工作に成功したのである。
だが翌日の東アジアサミット(EAS)外相会議にはASEAN諸国に加えて日米中露なども参加した。当然、会議の様子は前日とは異なっていた。EAS前日には日米豪が中国に対してハーグ裁定順守を求める共同声明を発表した。EASに出席した国もほとんどが南シナ海問題に言及した。中国の国際法無視の軍事的動きに深刻な懸念を明確に示したのである。
反論したのは中国だけだった。EASの後も、王毅外相は「時間の推移に伴い、仲裁裁判所の違法性が明らかになる。背後に隠れている政治操作も必ず天下に明らかになる」などと日本を念頭に反論した。だがその主張には説得力がない。
南シナ海のほぼ全域の領有権を主張し居座り続ける中国の無法ぶりに、具体的にできることは何か。
軍事的措置は、米国が動かない限り難しいが、各国のコーストガードを中心に南シナ海の警備・監視活動を強化することが重要だ。米国の空母や、すでに名乗りを上げているフランス海軍や日本の海上自衛隊などが、南シナ海で「通常の航行」を行い、監視態勢を側面援助することも欠かせない。
同じく重要なのが国連の場で中国の非を明らかにすることだ。国連安全保障理事会に同問題を提起すれば、五大常任理事国の1つである中国が必ず拒否権を行使してつぶしてしまう。だが、私たちには国連総会決議という方法が残されている。
総会では全ての構成国が平等に1票を有する。どの国にも拒否権はない。決議は、出席しかつ投票する国の過半数で成立する。重要問題については投票国の3分の2の多数が必要である。
決議には法的拘束力はない。しかし、国際社会の多数国が支持する決議であれば、それを守ることこそ大事であり、その意味で総会決議には「ソフトロー」(緩やかな国際法の縛り)という側面があると解釈されている。総会決議は国際社会の道徳的倫理的権威を有しているということだ。
過去に安保理決議で拒否されたために総会で決議した事例がある。米国とニカラグアの争いである。政権転覆で誕生したニカラグアの新政権が隣国の反政府ゲリラに武器援助を行っているとして、レーガン政権がニカラグアの反政府武装集団(コントラ)を支援したことをめぐる争いだった。
1984年、ニカラグアがレーガン政権を国際司法裁判所に訴え、米国の違法性が認定された。同件は安保理に持ち込まれたが、米国が2度にわたって拒否権を発動した。そこで今度は総会に持ち込まれた。総会は4度にわたって決議し、米国を非とした。
絶大な支持を誇ったレーガン政権でさえ、安保理決議は拒否できても総会決議は阻止できなかったのだ。結局、91年に、ニカラグアが取り下げて同件は終了したが、事件は米国内外で注目され続けた。
同じように南シナ海問題を国連総会の場で論議し、総会決議で中国を非難することは大いに可能だ。それによって中国は国際秩序を破る国、国際法を破壊する国とされる。そのような不名誉は中国共産党の求心力を弱め、高いコストを支払うことになる。