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2025.05.29 (木)

「 朝日と見紛う読売皇室提言 」

『週刊新潮』 2025年5月29日号
日本ルネッサンス 第1147回

宮崎・高千穂神社宮司の後藤俊彦氏から5月15日、緊迫の電話をいただいた。

「今朝の『読売新聞』の記事は何なのでしょう。非常に驚きました」と、宮司。

神職最高位の「長老」にある後藤宮司は全国8万社の神社を代表する。宮司は読売の1面の見出し、「皇統の安定現実策を」を見て、保守のメディアとして筋の通ったことを書いてくれたと喜ぶ気持ちで紙面を広げた。するとその主張は朝日新聞かと見紛う内容だったと衝撃を受けているのだ。

元航空自衛隊空将、麗澤大学特別教授、公益財団法人「国家基本問題研究所」の評議員・企画委員で畏友の織田邦男氏も憤慨する。

「読売は反天皇であり反皇室と分かりました。これは有害なジャーナリズムで私は読売の購読を直ちにやめました」

織田氏はその一生を国防に捧げた航空自衛隊のパイロットで、麗澤大学での学生の支持には前例のない程熱いものがある。その織田氏が約40年間愛読してきた読売の購読をやめたのだ。読売はこれからも相当部数を減らすのではないか。

両氏が憤る問題の記事は5月15日に1面トップ、3面全面と社説、14、15の全面を割いて報じられた。皇統の安定を確実にするためとして「女系天皇」制導入を含む以下の4項目の制度改革を提案した。⓵皇統の存続を最優先、⓶象徴天皇制維持、⓷女性宮家創設と女系天皇の可能性、⓸夫・子も皇族に、である。

⓷と⓸は安倍晋三元首相の退陣以降、皇統継承安定化のための法整備の要であり続けた。そして今、政権基盤の脆い石破茂首相の下で国会会期末は6月に迫る。衆参両院議長が主導して4年前にまとめられた有識者会議の答申をもとに、今国会中に皇位継承安定化措置について結論を得ることになっている。つまり同件は大詰めの段階にきているのだ。

共産党、そして立憲民主党代表の野田佳彦氏らの小勢力を除く殆どの主な政党が、有識者会議の結論について大体の合意に達している。要点は二つだ。⓵内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持する、⓶養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とする。

皇室の真の存在意義

静謐な環境下での話し合いに努め、ようやく各党の考え方が収斂してきた今、この大事な場面で読売は何のために卓袱台返しを試みるのか。

読売の主張は朝日新聞にそっくりで、立憲の野田代表のそれともぴったり重なる。朝日・野田・読売連合の考え方には皇室の存在の意味について、最も大事な点が欠けている。

読売は皇族の方々の数が減り続けている結果、「悠仁さまに男児が生まれなければ、皇統は途絶え」る、「女系天皇の可能性も排除することなく、現実的な方策を検討すべき」だと主張し、園遊会、一般参賀、宮中晩餐会、外国訪問など、種々の活動を担う皇族が不足することを理由として挙げる。いずれも大事なお役割だが、皇室の存在意義はもっと深遠なところにある。

まず皇室の真の存在意義は祭祀を行うことにある。黒田清子さん(紀宮さま)が平成16年、35歳のお誕生日に宮内庁記者会あてに文書で、天皇陛下のお仕事について、一般の公務のほかに、宮中での諸行事や、旬祭など、三〇を超えること、古式装束での宮中三殿へのお参りなど、皇室の伝統はすべてそのまま受け継いでおられることを指摘された。天皇家の存在の全ての根本がこの祈りにあると仰っているのだ。祭祀の主宰者として天皇は神道に基づいてひたすら人々の幸福と繁栄を祈願なさる。天照大神のお血筋を引く万世一系の天皇としての、それが最重要のお務めと心得て日々をすごしていらっしゃる。日本人は天皇と皇室への尊崇の念の源をそのような皇室の在り方に求めてきた。古くから続くお血筋が示す正統の天皇の権威には織田や徳川のような大権力者も手を出せなかった。

日本国民が一致して支持する天皇を天皇たらしめるものは万世一系のお血筋であり、祭祀の主宰者たる事実である。そのような資質を備えている皇統は、しかし、女系天皇になった瞬間、別物になる。読売には皇統のこの本質が分かっていない。

わが国の長い歴史の中では女系天皇はお一人もいらっしゃらない。それを21世紀の今、読売や立憲の主張に基づいて創り出した瞬間、皇統は別物になるということだ。

読売の皇室のとらえ方は余りにも浅薄にすぎる。その議論は粗雑にして、主張には基本的な間違いがある。読売の論点のおよそ全てが旧聞に属するもので何の新事実もない。

竹原興社会部長が1面で「責任を持って結論を」と題して論を示した。

「女性皇族の離脱を食い止めなければ、国民の幸せを祈る祭祀や海外訪問を通じた国際親善などを担う方もいなくなってしまう」

日本最大部数の読売が社を挙げて展開した一大キャンペーンで、社会部長がこんな間違った事実を世に晒してよいのか。

意図的な事実の歪曲

宮中祭祀は前述したように天皇陛下がなさるもので、基本的に天皇陛下お一人で完結する。産経新聞の山本雅人氏が2009年に『天皇陛下の全仕事』(講談社現代新書)を上梓した。外部から見えにくい天皇陛下のお仕事について私は多くを教わった。宮中祭祀については、上皇陛下が75歳になられた頃からお体への負担軽減のために内容の調整がはかられ、また昭和天皇の場合にも、ご高齢になられた頃からいくつかの祭祀は掌典長の代拝に切り替えられたことがあるという。しかし祭祀は天皇陛下お一人のお務めで、決して女性皇族のお務めの範疇には入らないのだ。

この間違いにとどまらず読売の記事には事実の歪曲が散見される。具体的には社説と14面の特別面の2か所で繰り返されている「与野党協議では、女性宮家の創設について各党の意見が概ね一致している」(社説)、「合意が成立しそうな見通しだ」(特別面)という指摘だ。

各党の合意が得られそうなのは、女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持し、皇室の公務を分担して下さるというところまでだ。わが国の歴史に一度も存在しなかった女性宮家を立てる点についての合意が近いという事実は金輪際存在しない。

女系天皇推進の読売の論調からして、右の記述2点は、単なる誤認ではなく、意図的な事実の歪曲だと私は考えているが、恐らく間違いないだろう。

穏やかな保守としてバランスのよい幾多の記事を掲載してきた読売が小手先の誤導と歪曲で、わが国の国柄を大きく歪めようとするのはなぜか。聞けば読売社内でも今回の一大キャンペーンについて寝耳に水だった役員は少なくないという。一部の人たちが主筆、渡邉恒雄氏の遺志を継ぐ思いで決行したとの見方もある。だがその場合、あの頭脳明晰なナベツネ氏がこんな杜撰な議論を許すはずはないと思うがどうか。

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