「 外務官僚よ、国益を蝕むのか 」
『週刊新潮』 '06年12月28日号
日本ルネッサンス 第245回
日本外交はなぜ、墓穴を掘って、国益を損なうのか。
今回の日本外交の信じ難い迷走は、12月13日の麻生太郎外相の発言に始まった。衆院外務委員会で北方領土問題について「択捉島の25%を残りの3島(国後、歯舞、色丹)にくっつけると、50、50の比率になる」と述べたのだ。
外相はまた、「2島だ、4島だというと勝ち負けみたいな話になり、なかなか合意が得られない」「現実問題を踏まえた上で双方どうするかを腹に含んで交渉にあたらねばならない」とも述べた。
一連の発言は北方領土を日露間で面積で二分する考えを示したと解釈され、4島全てを回復するとしてきた日本国の年来の外交政策を大幅に後退させた印象を内外に与えた。
外相発言の翌日、ロシアのクナーゼ元外務次官は「問題の本質を知らない人物の発言」と述べ、ロシア上院のマルゲロフ外交委員長も「(北方領土をロシア領とする)現在の世界地図は第二次大戦の結果を基礎としており、これを見直すことはできない」との声明を発表した。
ロシア側の発言は冷笑に等しく、日本外交は完全な敗北の形に落ち込んでいる。一体なぜ、この種の発言が飛び出したのか。麻生氏自らの考えか、外務官僚の具申か。私には後者であると思えてならないが、そう考える理由のひとつが、「2島返還は日本が負けで、4島返還ではロシアが負けということではなく、双方が納得することが大事だ」という今年9月の麻生発言である。
かつてこれと似た発言で日本が惨めな敗北を喫したことがある。97年7月、時の首相橋本龍太郎氏が経済同友会で演説したときだ。丹波實外務審議官(当時)は、首相演説の前日、パノフ駐日ロシア大使に、以下のように告げていた。
「我々は重要なメッセージを送るつもりがあると、橋本さんの演説で。従って演説の次の日に、間違いなく、エリツィン大統領用の、クレムリンの机の上に、この演説のロシア語版が載っているようにしてほしいということで、事前にこの演説の内容を教え、且つ今のポイントも含めて重要なポイントを皆教えて、『宜しく頼むよ』と言った。彼はその通りにしてくれた。で、次の日に、クレムリンにすでにこの演説はあった」(NHK衛星第一「日本ロシア領土交渉の道」05年11月17日)。
橋本首相はユーラシア外交を打ち出し、「北方領土問題の解決は、どちらか一方が勝者となり、どちらか一方が敗者となるという形で解決するものではない」と語ったのだ。
「勝者も敗者もない外交」はソ連の領土簒奪に目をつぶり、足して二で割る主張なき外交だ。これを丹波氏はじめ、東郷和彦、佐藤優両氏、外務省のキャリア、ノンキャリア組の官僚たちが一致して推し進めた。それは皮肉にもクナーゼ元外務次官が指摘したように、真の意味で「問題の本質を知らない」外交だった。
ロシアが認めた領土問題
現在とは対照的に、少なくとも93年までの外務省は極めて真っ当な北方領土外交を展開した。基本は一貫した4島返還要求である。
問題の本質を突いた外交は正しい歴史の知識から始まる。旧ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄し、ポツダム宣言を無視して60万人以上の日本兵をシベリアに強制抑留した。彼らの北方4島上陸は45年8月28日、占領し終えたのは9月5日だ。日本はすでに東京湾のミズーリ号上で終戦文書への署名を終えていた。
徹頭徹尾、国際法に違反して4島を奪ったソ連だったが、国際情勢の変化に直面して日本に接近した。深まる冷戦下の56年、ソ連は日本取り込みのために国交樹立を持ちかけ、鳩山一郎首相が訪ソ、平和条約締結後の2島返還が明記された。
次の接近は73年である。71年にニクソン米大統領の対中秘密外交が明らかにされ、翌年、ニクソン訪中が実現した。米中接近を見てソ連は日本に接近、田中角栄首相が訪ソし、北方領土問題は2島ではなく4島であることをソ連側は認めた。
次の接近はソ連が崩壊した90年代だ。93年10月、日本を訪れたエリツィン大統領は、北方4島問題は択捉、国後、色丹、歯舞だと固有名詞で特定、4島の帰属問題を解決後、平和条約を結ぶことを確認した。
外務省のロシアスクールは、このあたりまではまことに筋の通った外交を展開したのだ。これを根本から揺るがしたのが先述の橋本外交だ。経済同友会での首相演説にロシア側は素早く反応し、97年11月、クラスノヤルスクで、翌年4月、静岡県川奈で首脳会談が行われた。
50年を経ても返らず
驚くべきことに、川奈会談で日本側は、北方4島の北端の択捉島とウルップ島の間に国境線を引いてくれれば、領土引き渡しは先でよいと提案した。施政権の返還を伴わない領土権の主張といういじけた考えを、橋本首相に具申したのは丹波、東郷両氏ら、外務官僚であろう。北方領土問題を生み出したソ連の不法と蛮行に目をつぶり、日本国の立場と主張をこれほどまでに蔑ろにした誇りなき日本の外務官僚は、この際、ロシアの外務官僚らの決意に学ぶことだ。
当時エリツィン大統領は施政権を求めないという根源的譲歩をした日本案に驚きながらも、素気なく「興味ある提案」と述べたきりだった。この抑制された反応こそ、ロシアの官僚たちの働きだった。日本担当のチフビンスキー、カピッツァ両氏らの外交記録には、「日本との妥協に傾く政治家たちに、外交官が旧来の立場を守れと主張したことが誇らしげにでてくる」(下斗米伸夫『朝日新聞』01年2月17日朝刊)。日本外務省は心して、対ロ外交の失敗を振りかえり、反省すべきだ。
元ソ連課長で在ソ公使を務めた新井弘一氏は、外交において不要な摩擦は作ってはならぬが、正当な権利はあくまで主張することの重要性を指摘する。外交は首尾一貫していなければならず、無責任な妥協策により積年の努力が水泡に帰すと警告する。
日本国の国益を担う外交官には、失敗は許されない。日本外交が橋本外交で失敗したのは、日本の正当なる権利を主張せず、足して二で割る方式を採ったからだ。この歴史を振りかえれば、今回の麻生発言を支える小手先の戦術ではいかなる意味でも解決を得られないのは明らかだ。筋の通らない外交では、50年待っても、4島は返ってこないのだ。
麻生発言の余波のなかで、唯一、希望が持てたのは高市早苗北方対策担当大臣の発言だった。氏は16日、「『4島の帰属を確認したうえでの平和条約締結』という外交方針に変わりはない。これを崩すと、今まで根拠にしてきた国際法が根拠にならなくなる」「政府内でもぶれた発言が出ないようにする必要がある」と釘を刺した。外務省は高市氏の姿勢をこそ心に刻むことだ。
対米依存で専守非核の日本4
●防衛政策を規定した「国防の基本方針」
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トラックバック by ほそかわ・かずひこの BLOG — 2006年12月30日 11:05
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麻生外相の勇み足
「択捉島の25%を残りの3島(国後島・歯舞諸島・色丹島)にくっつけると50、50の比率になる」
(麻生外相)
ロシアは「力治国家」で譲歩は弱みと見る国家…
トラックバック by クルトの葉隠な日々~iza営業所~ — 2006年12月30日 15:57
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巷では人気があるみたいだけど、私はもう見切った。昔はちょっといいかなと思ってたけど。ヘタレじゃん。
櫻井よしこさんが指摘しているのでこちらを。
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トラックバック by ド素人が行く!! — 2006年12月30日 21:38
危ぶまれる「子どもの権利」条例
この度、首都圏地方議員発行の「地域から誇りある国づくりを−地方議員の闘い」が出版されました。
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トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2006年12月31日 09:58
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謹賀新年
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
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トラックバック by ほそかわ・かずひこの BLOG — 2007年01月01日 09:23
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プロフィールの原稿
昭和43年5月6日生まれ 38歳
千葉東高校、学習院大学法学部政治学科卒業
自治会費横…
トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2007年01月03日 10:08
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