「 情報保護法の整備はむしろ遅きに失した 」
『週刊ダイヤモンド』 2013年12月14日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1014
この記事が出るころには特定秘密保護法案は参議院でも可決されているだろう。しかし、「朝日新聞」や「NHK」の反対のキャンペーンは凄まじい。例えば12月5日の朝日は1面と2面のほとんどすべてを非難と反対論で埋め、4面、16面の社説、38面の社会面も反対一色の主張を展開した。
確かに現在の法案が完璧かといえば欠陥もある。だが、安倍晋三首相は国会で、法案成立後速やかに監視のための第三者委員会を設置することなどを確約した。そうした留保が必要ではあるが、私は情報漏洩を防ぐ法は必要不可欠だと考えている。
2007年3月に明らかになったイージス艦に関する最高レベルの機密情報持ち出し事件を思い出してみよう。
神奈川県横須賀市の海上自衛隊第1護衛隊群の2等海佐がイージス艦情報を含む「特別防衛秘密」を持ち出し、自宅のフロッピーディスクと大容量のハードディスクに保存していた事件だ。
同情報が中国など第3国に漏洩すれば最新型のミサイル追尾および弾道ミサイル迎撃の技術が盗まれることになる。日米安全保障体制にも悪影響を与え、何よりも、日本は情報を守れない国だとされて信頼を失う。
このようなことが危惧された理由の1つに、2等海佐の妻が不法滞在の中国人だった事情もあった。そもそも情報持ち出しは、妻が不法滞在者であると名乗り出たことで発覚したのだった。
結論からいえば、妻は偽造旅券で入国していたことを「悪質」とされ、懲役1年の実刑に処せられた。
一方、情報漏洩事件に関して、2等海佐の持ち出した情報は広島県江田島市の海自第1術科学校で教材として使われ、広くコピーされていたことが判明した。他国に渡れば深刻な結果を引き起こすことが明らかな機密情報が、江田島の海自の学生たち複数人に教材として共有されていたのだった。
これも結論からいえば、第3国など外部への漏洩はなかったとされたが、最高機密に属し、ごく一部の保全責任者のみが扱うべき情報を、そうでない複数の人々の間に流布させたとして、イージス艦情報を教材用のCDにまとめた教官が逮捕された。裁判は約3年半続き、最高裁判所で執行猶予付きの有罪判決が確定した。
同事件を1つの具体例として考えればどういうことになるか。情報は第3国などに漏れなかったのだから、よいではないか、新たな法整備は必要ないといって済む問題だろうか。問題ないという立場を支持するのが朝日やNHKであろう。
しかし、機密情報を機密情報であると認識できない国には危機管理はできない。危機を乗り越えることもできない。「情報」の重要さを認識せず、情報を守る体制もつくり得ていない日本は、すでにスパイ天国とされている。そこでもう1つの具体例だ。
沖合の親船からゴムボートを降ろし、闇夜に紛れて不法侵入する北朝鮮の工作員が、時折、逮捕される。わが国にはスパイ防止法がないため、工作員は出入国管理法違反で逮捕するしかなく、往々にして罪は半年や1年の軽さとなる。彼らは日本の刑務所は清潔で食事もよいとして、全く苦にしない。むしろ、刑務所で体調を整える。そして、出獄、出国のときには、「私物を返せ」と要求する。私物とはゴムボート、乱数表、ラジオ等だ。密入国および工作活動のために準備したすべての物を返せというのだ。
法律上、日本は返さざるを得ない。スパイや工作員にこうした「私物」をすべて返して、送り出してやる国は世界にただ1つ、日本しかないだろう。
情報を守る法体制が整っていないわが国のこうした実態を見るにつけ、情報保護法整備はむしろ遅きに失したと私は考える。他国が持つ法律を、日本も整備するのに何の問題があろうか。