「 薬害エイズから学ばない日本 」
『週刊新潮』 '06年4月6日号
日本ルネッサンス 第209回
血友病患者1,500名余が被害をうけた薬害エイズ事件。和解から、この3月末で丸10年が経過した。
週末、10周年を記念して「これまでの10年 これからの10年」という集会が都内で開かれた。多くの人々が集まり、大阪HIV訴訟原告団代表の花井十伍氏が「10年と一言では言えない大変な日々の連続だった」と語ったが、真実、そうだと思う。
これまでに亡くなった薬害エイズ患者は586名、凄まじい数である。そして、その数に倍する以上の家族がいまも悲しみから脱しきれずにいる。忠地道雄、佐代子御夫妻も同様である。夫妻には二人のかわいい男の子がいた。広太君と健君。すばらしい絵を描く少年たちだった。抽象と具象、二人の絵のスタイルは明確に分かれるが色使いも構図も生き生きと喜びにあふれている。御夫妻がどれほどの深い愛情を二人に注ぎ、大切にかわいがって育てていたかが窺われる作品群だ。二人は、しかし、相ついで12歳で亡くなっていった。
私が御夫妻と次男の健君に会ったのは、広太君が亡くなって間もない93年12月だった。お二人は健君までも薬害エイズに奪われてなるものかという想いで、健君を守るために出来ること全てをしようと必死だった。
当時、病いをなおす霊力を持つといわれていた或る思想家に会うために、病気の健君とインドまで旅をしたのも、必死の想いゆえだった。
入退院を繰り返し、少しずつ体力をおとしながらも、健君は一所懸命だった。亡くなる前年、インドで見たこの思想家の肖像画を八号のキャンバスに描き始めた。しかし、完成することはなく、健君は96年2月、兄の広太君と同じ12歳で息をひきとった。夫妻の手元に残る未完のキャンバスには健君が見詰め、病気をなおしてくれると期待したに違いない力強い思想家の姿が描かれている。未完とはいえ、その人物の目はしっかりと力強く描かれ、体全体からエネルギーを発している。
患者と家族の苦悩の連鎖
亡くなる前に健君はお母さんの佐代子さんに尋ねた「お母さん、僕を愛してくれていますか」と。父親の道雄さんにも言った「僕は天国に行きます」と。
夫妻の心にはこうした言葉、二人の子供の顔や仕草、笑いや闘病の様子が幾万回も蘇ってくる。今は福祉関係の仕事をしている佐代子さんにとって、そして道雄さんにとって、ひとときも子供のことを忘れることは出来ないのが見てとれる。
586人の犠牲者。彼らの死は決してそこで終わるのでなく、湧き出す泉のように、残された者の心に今も悲しみをよびさまし続ける。
亡くなった人々を悼むのは遺族ばかりではない。同じ病気で苦しむ患者たちも同様だ。生存患者は病いを通して“亡くなった仲間”と共鳴する。被害患者の実態調査をみると、71%が「自分の病状が今後どうなっていくかわからない」と不安に感じ、57%が「抗HIV薬の長期服用の副作用が心配」だと答えている。
医療は日進月歩で、秀れた抗HIV薬が開発されているのは確かだが、患者の体に入りこんだウイルスを全滅させられるわけではない。健康に不安を抱くのは当然なのだ。
極めて多くの患者はHIVのみならずC型肝炎ウイルス(HCV)にも感染させられている。実態調査では、HCV感染患者の55%がいま慢性肝炎に苦しみ、9.8%が肝硬変まで病状が進み、肺ガン発病の患者も出るなど、70%強がHIVとの重複感染に苦しんでいる。
8割以上の患者が「HCVへの対応と充実」「血友病への対応」を切実に求めているのは、こうした厳しい実態ゆえである。
薬害エイズの被害の真実は、体の健康問題にとどまらず、深く心の問題を見詰めることなしに知ることは出来ない。
被害患者の多くは、子供がほしいと思いながら諦めているが、その理由を88%が「パートナーへのHIV感染のリスク」と答え、72%が「子供へのHIV感染のリスク」をあげている。
元気に生き続けなければならないと、自分を励ましながらも、「死んでしまいたい」「死んでもいい」と強く感ずる患者は10%、「少し感ずる」と合わせると37%にのぼる。
まさに花井氏の語るように、10年がすぎたなどと、とても一言では言えないのだ。にもかかわらず、和解という大きな山場がすぎれば、問題は解決したかのように思われる。患者救済の具体策を論ずる地味な協議や、患者や家族の心のいやしを目指した日々の医療が、社会全体の関心をつなぎとめるのは難しい。健康な人、恵まれた人ほど、患者や家族の悩みから距離があり、その分わかってもらえなくなる。
だからこそ、豊かな国日本は豊かさが生み出す力を、こうした人々に意識して振り向けることが大事なのだ。社会にあまねく埋もれるこうした人々への責任を丁寧に果たしていくことの重要性を、決して忘れてはならないのだ。
“匿名の壁”の犯罪
薬害に苦しむ人々への責任の第一は、二度と同じ誤りを繰り返さないことである。その点について、日本はどれだけの実績を残してきたか。ゼロといってもよい程の貧しい実績である。薬害エイズのあとも、ソリブジン、イレッサなど、薬害が続いて発生した。薬害エイズの構造的原因に天下り問題があるが、それはいまも、旧道路公団系組織や防衛施設庁をはじめとするおよそ全てのお役所関連組織で変わりなく続いている。
もうひとつの薬害エイズを発生させたメカニズムは、匿名の壁の存在だ。行政上の過ちに関して、官僚はだれも責任をとらない。どんなにひどい政策を立案しても官僚の名前が明かされるわけでもない。全てが匿名のなかで官僚たちは守られてきた。1年前に施行された個人情報保護法によってその壁は一層厚くなった。
同法の影響は深刻で、その間違った形の個人情報保護が、不祥事や犯罪隠しに利用されているのだ。3月17日の『読売新聞』によると、自衛隊は今年2月末までの半年間に行った隊員の懲戒処分などの9割を匿名でしか発表していない。他の省庁も同様の情報隠しをしているのは恐らく間違いない。
不祥事をおこしたのが官僚(公務員)であれば、氏名や年齢などの個人情報を発表するのは当然であろう。彼らは“公”のために働く公僕であり、税金を使う工事の発注や、その他の政策の立案、決定に携わる立場にいるのであるから。個人情報を発表しないとなれば、全てを隠してしまえる事態を招くことになる。それでは不祥事も不正も止まるはずがない。匿名社会とは、誰も責任をとらない社会の出現を意味するのだ。
薬害エイズ和解から10年、事態改善とは正反対の、新たな問題が生じている。
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