「 アジアに示せ、日本の覚悟 」
『週刊新潮』 '05年12月15日号
日本ルネッサンス 第194回
11月15日に来日したブッシュ大統領は外交演説で自由と民主主義という言葉を驚くほど多用した。この件は日本のメディアでも広く紹介されたが、その後釜山でのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議参加に合わせて訪れたモンゴル国での演説は殆ど報道されなかった。
京都からモンゴル国首都ウランバートルまで、一連の演説でブッシュ大統領が送った強烈なメッセージは、全て中国向けだった。ウランバートルで大統領は、15年前の革命から説きおこした。
「15年前、モンゴル議会のこの建物の周囲に、零下の気温に耐え、圧政に抗議し、自由を求めて立ち上がった幾千もの人々がいた。学生、労働者、僧侶、若者たちが抗議のハンストを決行、彼らの強い信念が遂に共産主義政権を倒し、やがて自由選挙が行われ、自由の国、モンゴルが生れた。夜を徹して議会の前に立ち、ハンストを貫いた青年たちの一人が、今日、偉大なるあなた方の国の首相としてここにいる人物です」
モンゴルは17世紀から中国清朝に支配され、20世紀には共産主義体制をとりモンゴル社会主義人民共和国となった。1990年、革命によって共産主義政権を倒し、民主主義と市場経済を基調とする国家へと変貌を遂げた。今日までの15年間の“自由への道”をブッシュ大統領は熱意をこめて賞賛したのだ。
人口250万弱ながら、同国は西サハラ、コンゴ、アフガニスタン、イラクに派兵、中国の明らかな反対にも怯まず、米国と共同歩調をとった。ブッシュ大統領は、イラクで自爆犯がトラックで突入する直前に2名のモンゴル兵が犯人を射殺したことに触れ、“数えきれない命を救った英雄”として両兵士を讃えた。憲法制定から今月の議会選挙まで、イラク民主化の過程でモンゴルが果たした貢献の重要さを強調したのだ。
中国のアジア戦略
この一連の話のあとに、ブッシュ大統領は共産主義とイスラム原理主義を同列に置いて厳しく批判した。
「イスラム原理主義は共産主義と同じく、国民を代弁すると勝手に決め込む考え方である。野蛮な目的のためには子供の殺害も是とする考え方だ。自由を信じる人々を軟弱と堕落の存在として排除する考え方でもある。しかし、いずれも自由を基調とする国際社会の価値観と相容れず滅びる運命にある」
“共産主義”が中国の姿に重ねられる形で使われているのだ。
大統領がモンゴル国との友好関係を重視する理由は同国の立地環境を見ればよくわかると指摘するのは杏林大学教授の田久保忠衛氏である。
「ユーラシア大陸のロシアと中国の間に位置する、かつての満州国より少し小さめの国が持つ地政学上の重要性は測りしれないでしょう。中露連合の中心部という拠点の重要性です。米国は明確に、長期戦略の軸に中国の脅威を据えているのです」
強大な軍事力と、どの国も無視出来ない大きな市場を持つ中国に、米国は、米国と価値観を共有するアジア諸国とより深い関係を築くことによって対処しようとする。
だが、全身にギラギラと勢力拡大の野望を漲らせる中国は、アジア諸国に着々と手を打ってきた。その手法を、米国前国務副長官のリチャード・アーミテージ氏は「伝統的な米外交の手口を盗ん」だと表現する(12月4日『読売』朝刊)。
周辺諸国に対する影響力を保つことの重要性に着目して、政治、経済、軍事など重層的に関わっていく米国の伝統の“関与政策”の技を今や、中国が奪いつつあると警告しているのだ。もう一点、氏の指摘で日本が注視すべきは、日米共に中韓をはじめとするアジア諸国に対して歴史問題を抱えているという視点である。
氏は、「アジアにおける米国の歴史は、第二次世界大戦という顕著な例外を除き、一貫して日本と歩調を共にしてきた」と書く。その日米共同歩調がアジア諸国に「いくばくかの不安を抱く」「ひとつの下地を提供する」というのだ。つまり、日本に対して歴史を反省する必要があるのではないかと述べているのだ。その上で氏は、日本の弱点として軍事力の小ささと憲法9条問題をも指摘する。
米国が歴史問題で微妙に中韓両国寄りに傾き、日本の国内問題では憲法改正と米軍再編の枠に沿った形での実質的な力の増強を求めている構図が見えてくる。
米国がこのような視点に立つ一方で、中国は影響力を確実に広げてきた。12月3日の台湾各県の首長(知事)選挙が一例だ。野党国民党への中国の巧みな攻勢が台湾人の陳水扁与党政権を惨敗させたと言ってよい。結果、中台協調路線と中国との「国共合作」が強く推進されるのは時間の問題と言える状況で、日米双方にとって大きな痛手である。
日本こそ自由の旗手だ
“米国の手法を盗んだ”中国外交は“主敵”を囲む多くの小国に強烈に働きかけ、ひとつひとつ切り崩して自国の影響下に入れつつある。小国を取り込む“関与政策”で中国がおさめたもうひとつの成果は、今月14日、クアラルンプールで開かれる東アジア首脳会議から、米国を外したことだ。米国外しに猛烈に動いたのは、東アジア共同体への第一歩と言われる同会議に米国を入れてしまえば、自らの影響力の下にアジアをまとめあげ、実質的に支配する野望は必ず阻止されるからだ。
現時点で中国有利のこの首脳会議こそ、日本の正念場だ。将来、対中国、対その他のアジア諸国、そして対米関係において非常に大きな意味を持つ。決して失敗が許されない同会議で、日本は何を訴えるべきか。
第一に、日本こそが自由、民主主義、人権、市場経済、法治主義などを基軸とする国家を築き上げてきたことを主張し、そうした価値観を欠落させて現在に至る中国との明白な相違を、強く印象づけることだ。
アジア諸国は本心では中国を恐れ、嫌っている。だが、中国に弱い日本にも頼りきれないと不安も抱えている。その種の不安を払拭するために、日本こそが自由と民主主義の旗手だと強く訴え、憲法改正も含めて、真っ当な国家の基盤作りを急ぐことが重要だ。
もう一点、大事なのは第二次世界大戦も含めて、日本の歴史を、日本の視点から真面目に語り、世界に伝えることだ。戦争には必ず相手国の立場と共にこちらの立場もある。敗戦した日本は日本の立場や考え方を伝えることなしに、ひたすら日本が悪いとの非難を甘受してきた。日本を戦争へと追い詰めていったあの米国さえも、そしてその米国の知日派のアーミテージ氏さえも、今や日本を歴史の加害者として見ようという流れが出来つつある。このことの空恐ろしさを考えるべきだ。日本の立場や歴史観を国際社会に伝え理解を得ることに長く失敗してきた外務省には、もはや頼らず、国家プロジェクトとして取り組むことだ。
タイム・リミット
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