「 国民の力で全離島を守り日本国の領有を示そう 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年5月26日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 937
民主党体制は機能を停止したかに見えるが、野田佳彦首相は闘い続け、頑張っている。5 月12日、日中韓首脳会談のために首相が北京入りすると、温家宝中国首相側から、少人数による日中2国間会談をまず行いたいとの意向が伝えられたと、政府関係者が語る。
翌13日の野田・温会談では、温首相が迫った。論点は、(1)日本で開催される世界ウイグル会議、(2)尖閣諸島問題、(3)北朝鮮問題だった。
(1)に関して温首相は、年来中国当局がしてきたように、ウイグル人指導者らを「国際テロリスト」などと根拠を示さず断罪し、入国を許可した日本政府を非難し、この問題は中国の核心的利益だと明言した。
次に、温首相は尖閣問題に関して「中国の主権と領土に関する重大な関心事項」だと語り、領有権を主張した。野田首相は尖閣諸島は歴史的にも法的にも日本固有の領土だと明言し、近年、中国による尖閣周辺海域での海洋活動が日本国民の感情を逆なでしている、このことは改善されなければならないと反論した。
野田首相の反論は正しい。ウイグル問題でも、首相は日本は自由の国だとして、特定個人の入国拒絶を求める中国に逆に自由、人権、法治などの普遍的価値観を尊重することの重要性を説いた。ここでも野田首相の対応は極めてまっとうである。
ウイグル問題に比べて、尖閣問題に関して温首相は深追いしなかった。理由は、5月13日時点の彼らの最大の関心事が翌14日に東京・永田町の憲政記念館で開催予定だった「世界ウイグル会議」をつぶすことにあったからではないか。また、尖閣諸島に関しては中国が自信を持ち始めているからではないかと、私は考える。
1970年代から着々と海軍力を築き上げてきた彼らは、尖閣問題は議論の段階を過ぎて、力によって島々を制する時期に入ったと考えている節がある。尖閣周辺には今年に入って中国の国家海洋局の大型艦船が順次入り込み、領海侵犯を始めたことを忘れてはならない。絶対に手に入れるとの決意が見て取れるのだ。
中国の大目的は南シナ海を中国の内海とし、そこに米国本土を攻撃できる長距離核ミサイルを積んだ原子力潜水艦を沈めておくことだ。こうして初めて、中国が米国と対等に戦える態勢が整うのだ。
米国を制するには南シナ海を制さなければならず、そのためには台湾を、さらにそのためには尖閣諸島と東シナ海を制さなければならない。この中国の大戦略が明らかになるにつけ、尖閣諸島と東シナ海の重要性が浮き彫りになる。尖閣諸島を守り通すことが日本の安全保障にとって欠かせないのだ。守る唯一の道は、いまや日本が実効支配することしかないだろう。
石原慎太郎東京都知事が発表した尖閣購入計画は、その意味でギリギリのタイミングで打ち出された案だ。都が尖閣購入のための寄付口座を開設して3週間弱、約7億円が集まったという。このままいけば10億~15億円とみられる購入資金は寄付で賄えるだろう。国民の熱意は、外務省や政府への不信と一体だ。そこで提案である。
この際、国民の力で国境の島々、多くの離島を守ろうではないか。お年寄りから子どもまで、国民一人500円の寄付をすれば600億円規模の資金が集まる。それで尖閣諸島を購入し、全離島に日本国の領有を示すために手を加えるのだ。灯台が必要なら灯台を建て、港が造れる島には港を造る。漁業や観光を振興し、海洋国家として日本人の活動をもっと海へと広げていく。
国民の総意としてこのようなことを行えば、中国への抑止力となる。国民の総意の後ろに、日本が国家として、海上自衛隊をはじめとする軍事力を配備することまで覚悟しておかなければならないのはもちろんである。