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2025.11.27 (木)

「 冷静さと勇気で中国を圧倒する時だ 」

『週刊新潮』 2025年11月27日号
日本ルネッサンス 第1173回

対中外交でわが国は歴史的な局面にある。拙著『親中派80年の嘘』(産経新聞出版)で明らかにしたように、わが国は中国に屈服し続けてきた。それを変えたのが安倍晋三総理だった。高市早苗首相は今、中国と真に対等な外交に入れるか否かの岐路にあり、冷静な判断と位負けしない勇気が必要だ。

11月7日、衆議院予算委員会で、高市氏は台湾有事に関して、仮に戦艦が派遣され武力行使を伴うものであれば、「どう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と発言した。

翌日夜、中国の薛剣(せつけん)駐大阪総領事が「その汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」とXに投稿、その後も関連の投稿を重ねた。

薛剣発言は、わが国首相を処刑するしかないという内容であり、断じて許されない。自民党をはじめ日本維新の会からも「ペルソナ・ノン・グラータ(PNG)」(好ましからざる外交官)として追放せよとの声が挙がったのは当然である。

他方、中国側は外交部、国防部、中国共産党の対外宣伝紙の環球時報などを筆頭に、薛剣発言擁護が相次いだ。高市発言に関しては「再び軍事侵略するつもりか。慰安婦、南京大虐殺への反省はないのか」などと中国式歴史糾弾へと話は広がり、中国政府は国民に日本への渡航は危険が伴うとして暫く避けるよう指示を出した。

彼らは高市発言の取り消しも求めてきた。後述するように、同発言は日中国交正常化以来の両国間の合意をよく読めば、何ら間違っていないのであるから、取り消す必要はない。

政府中枢筋がコメントした。

「彼らは恐らくこう考えているのではないか。2週間前に日中首脳会談をしたばかりだ。習近平国家主席はその場で日中関係を形成するいわゆる4つの基本文書に言及した。にもかかわらず、こんな発言をしたという恨みがあるのではないか。中国側の反応は率直に言って逆上です」

逆上した中国が、以降もさまざまな手を打ってくることは想定しておかなければならない。その中でわが国が譲れないことは⓵薛剣氏の国外退去、⓶首相発言は取り消さない、に絞られる。

下劣な対日発言

薛剣発言に中国側もやましさを感じているのは「首を斬る」との書き込みをすぐに消したことからも窺える。下劣な対日発言はPNGに相応しい(ふさわ)しい。わが国が直接PNGで薛剣氏を追放してもよし、中国側が急な人事異動で本人を呼び戻してもよい。いずれかの方法で薛剣氏を日本から断固、退去させなければならない。

⓶については中国側が高市氏の発言の意味を理解できていないことと、台湾問題についての日中共同声明の意味を正確に認識していないことの二つの問題がある。

まず高市氏の言及した「存立危機事態になり得る」の意味である。中国側は恰(あたか)もわが国が台湾海峡への武力介入を考えているかのように解釈しているのではないか。わが国でも立憲民主党の辻元清美参院議員はXで「台湾から日本が援助要請を受けて集団的自衛権を行使するパターン」との認識を示している。

両方とも間違いだ。存立危機事態とは、日本が直接攻撃されていない場合でも、日本と密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存立が脅かされ、国民に明白な生命の危険がある場合を言う。

存立危機事態が発生した場合、国民を守る為に他に適当な手段がなく、事態に対処するのに武力行使が必要と認められる時には、国会承認を経て、限定的に行使する。その為に自衛隊が出動する、ということだ。

ここで想定されているのは「米軍が攻撃されて日本の存立が脅かされる」という場面だ。自衛隊は出動するが、その目的は後方支援に限定されており、自衛隊が台湾を巡って武力で戦うということではない。

わが国の行政、立法、司法の全てにわたって、中国側は常に情報を収集し監視している。にもかかわらず、わが国の平和安全法制に定められた存立危機事態の意味を理解していないとすれば、現場の薛剣総領事や呉江浩駐日大使は何をしているのか。この点を彼らに明確に説明するのは日本外務省の役割だろう。

もう一点、そもそも台湾について、わが国の立場をこの際正しく認識しておくことが欠かせない。以下、元駐米大使、栗山尚一氏の論文を『霞関会会報』2007年10月号より引きながら解説する。

1972年にわが国が中華人民共和国と国交を樹立したとき、日中共同声明第三項で、わが国は「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」との中国側の「立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」とした。ポツダム宣言第八項とは、カイロ宣言を守るという内容で、それは中国への台湾返還を認める立場につながる。

台湾の最終的地位

日中国交樹立の外交交渉に携わった立場から栗山氏は、ポツダム宣言第八項云々の条項は外交的に見て台湾の最終的地位は未解決であることを意味する、と注意喚起する。

中華人民共和国の建国は1949年であり、彼らは一度も台湾に実効的支配を及ぼしたことはないという事実を確認しておくことが重要だ。

わが国はサンフランシスコ平和条約で台湾に関して、領有権を含めて「すべての権利、権原」を放棄したが、米国も他の連合国も台湾が中華人民共和国と、国民党の中華民国のどちらに帰属するのかを定めなかった。

つまり、中華人民共和国は一度も台湾を領有したことはなく、戦後の国際秩序の下でも国際法上、台湾が中国の一部であると主張するのは無理なのだ。だからこそ、米国も日本も、台湾は中国の一部だと、中国が主張していることは認識していますよという立場であり、台湾は中国の一部だとは認めていないのである。

では前述の、わが国が中国にポツダム宣言に関する条項を正式表明したことはどうなるのか。この点について、栗山氏は1973年衆院予算委員会での大平正芳外相の答弁が大事だと指摘する。大平氏は「台湾問題は、当事者間の話し合いによって平和的に解決されるのがわが国の希望であること、平和的交渉が続いている限り台湾問題に第三者は介入すべきではないこと、但し、中国が武力を用いる場合は事情が根本的に異なるため、わが国の立場は留保せざるを得ない」との主旨を述べていた。

戦後の時間の経過の中で、台湾の大多数の人々が自分達は中国人だという考えを捨て、明確な台湾人意識を持つに至った。民主主義の下で事実上の国家として立派な足跡を重ねてきた。他方中国は軍事的脅威を日々強めてきた。中国政府は「台湾は中国の内政問題だ」と主張するが、台湾を巡る新しい状況は右の中国の主張が必ずしも正しいばかりではないことを示している。

高市政権は冷静な判断を重ねて道理を貫き、中国と真逆の道を進むことで、中国に対して優位に立つことができるのである。

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