「 選挙後、高市首相を待つ大仕事 」
『週刊新潮』 2026年2月19日号
日本ルネッサンス 第1184回
天下分け目の衆議院議員選挙、私はその投票が始まったばかりの日曜日午前中に拙稿を書いている。従って結果は不明だが、引き続き政権を担当する(ことが確実な)高市早苗氏は次に何をすべきか。
日曜日の選挙は日本のみならず、世界の命運を決める。大きな分岐点に立つわが国も世界も、高市自民党が選挙で勝つこと、さらに力強く勝つことで自由陣営が強い追い風を受ける。まずこの点に留意したい。
今回の選挙は、紛れもなく価値観の戦いなのである。自由と民主主義を掲げる陣営が、利己的な独裁主義の拡大化を防ぐ戦いである。
自由は責任を伴い、民主主義は各人の自立に向けた自覚の上に成り立つ。公明党と一体化して新党、中道改革連合を創った立憲民主党は、重要政策について熟議するなどと言って正義の使者のような論調を展開する。紙の上の文言としては整っていても、眼前の厳しい現実問題への解決にはならない。およそ全ての問題を国と政権与党の責任に帰すだけの彼らは単なる反対勢力にすぎない。前進も未来展望もない。自由や民主主義はこの種の勢力の下では利己主義と責任転嫁に変質してしまいがちだ。
国際社会にも同様の傾向がある。米欧関係をひとつの断面で切って論ずるのは乱暴にすぎることを承知で書くのだが、後述する欧州諸国の「美しい」主張には冷徹かつ注意深い観察が必要だ。
その点で2月6日にトランプ米大統領が高市氏に送った激賞メッセージが重要だ。トランプ氏は訪日の折り、高市氏に深い感銘を受けたとして、この衆院選が日本の未来に重要な意味を持つものだと認識し、米大統領として高市氏を完全かつ完璧に支持する、と異例の言葉を贈った。
東京国際大学副学長のジョセフ・クラフト氏は、日米の結束が堅いことを示したのは「中国への強力なメッセージ」となる、6月の先進7か国首脳会議(G7)で高市氏は米国と欧州の仲介役を果たせる可能性が生まれた、高市氏は自分の信ずる外交を本格的に展開する時だ、と評価した。
二大オールドメディア
中国に対して今、言うべきことを言えるのは、各国指導者の中でトランプ氏と高市氏だけである。欧州の指導者達と高市氏はこの点で際立って異なる。カナダのカーニー首相はダボス会議(世界経済フォーラム)でトランプ氏への批判を展開した。国際法や国際秩序を無視する米国に、中堅国家は力を合わせて自立性を高めようと語って拍手を浴びた。そして中国に接近した。だが中国は先頃、カナダへの政治的圧力としてカナダ国民4人を麻薬取引の疑いで逮捕し、死刑に処した。裁判の過程は極めて曖昧で、中国に国際法遵守の精神など全くないことが証明された。
スターマー英国首相もカーニー氏と同じような期待を抱いて訪中した。しかし、習近平国家主席との会談では香港に対する中国共産党の弾圧に言及していない。中国共産党の圧政を厳しく批判してきた香港の新聞、「リンゴ日報」の創業者ジミー・ライ氏についても深くは追及しなかった。ライ氏は2020年の逮捕以来、不当な裁判が続き、9日には判決が下される。厳しいものになるだろう。だが、今78歳のライ氏は英国籍を有する立派な英国人なのだ。にもかかわらず、スターマー氏は習氏にライ裁判の不当性について何の懸念も表明しなかった。
一方、高市氏は習氏との会談で、香港のみならずウイグル人弾圧についても指摘した。存立危機事態発言では中国が強く撤回を求めたが撤回しなかった。中国共産党はレアアースなどでわが国に圧力をかけ続けたが、わが国は独自の開発や米欧諸国との連携で何とか耐え抜く道を探った。高市氏は欧州指導者達より、懸命に戦っている。その高市氏をトランプ氏が強く支持するという。わが国にとって、非常によいことだ。
なのに日経と朝日は7日、まるでしめし合わせたように社説でトランプ氏を非難した。両紙の論点は「国連憲章は加盟国の政治的独立を保証」しているのに、トランプ氏の激励はそれに反する、氏はハンガリー、アルゼンチン、ブラジルに介入した、「余計な口出し」は「選挙の公正性を損ねる」などといったものだ。
国連の機能不全は明らかだ。国際法が守られない世界にすでになってしまっているのは、南シナ海での中国の行動からも明白だ。情報戦、軍事力で台湾を孤立させているのも中国だ。
日経、朝日はこうした事実に目をつぶってあの社説を書いたのだろう。国際法違反、国際秩序の破壊者は中国という事実を見ないで、トランプ氏への反発から、価値観の共有という意味では全く期待できない中国詣でをするカーニー、スターマー両首脳と、わが国の二大オールドメディアのメンタリティは似通っている。
防衛力の中身が大事
高市氏はまず、このような現実逃避の無益な考え方ではなく、冷徹な視点でわが国の国益を守れる安全保障政策を具体的に打ち出すのがよい。
米国は1月23日に国防戦略(NDS)を発表、米国主導の国際秩序維持の時代は終わったことを鮮明にし、同盟諸国にGDP(国内総生産)比5%の軍事費支出を求めた。NATO(北大西洋条約機構)、韓国、台湾は相次いで受け入れを表明したが、わが国は数値ではなく防衛力の中身が大事だとする立場だ。これは正しい主張だと思う。
3月19日の日米首脳会談で高市氏がトランプ氏に提案する安全保障政策は単なる防衛予算の額の問題を超えて、日本国の安全保障力を真に高め、同時に米国の安全保障にも力強い助けとなるものでなくてはならない。
岩田清文元陸上幕僚長が強調した。
「米軍が日本に戦力を展開する2つのルート(⓵ハワイ・グアムからの太平洋中央ルート、⓶米本土からの北太平洋ルート)に沿って、第1列島線と第2列島線の間で、わが国が対米支援の態勢を築くことが大事です」
具体的には⓵の中央ルートで、第2列島線の東側に位置する南鳥島、第2列島線上の硫黄島、第1、第2列島線の間に位置する南大東島などを、自衛隊の長距離海上・空中ドローン基地として整備すること、加えて対空、対艦ミサイルの発射拠点として強化することが欠かせないという。
ちなみに南鳥島では、レアアース泥の採掘が始まっており、日米の協力態勢はレアアースの資源開発でも強化できるだろう。
⓶の北太平洋ルートも重要だ。アリューシャン列島から千島列島、宗谷海峡、津軽海峡で近年中国、ロシアの軍事活動が活発化している。そのため、この海域での自衛隊の支援態勢を強化できれば、米国にとって非常に有益だ。日本の危機の場合に米軍の素早い展開を担保することにもなる。高市氏は日米双方が得をするこうした具体策を準備して、トランプ氏に提示するのがよい。そのためにもわが国の安全保障関連3文書の改定を含め、選挙後、直ちに作業を進めるのが国益である。












