「 小泉新首相が日本をごまかしのない透明な国にすることを望む 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年5月12日号
オピニオン縦横無尽 第395回
小泉純一郎氏が首相に就任した。いまだに氏を“変人”と呼ぶ人がいるが、氏の主張は至極まっ当であり変人などではない。郵政三事業の民営化論も、自衛隊を正式の軍隊と認めるための憲法改正論も、国のために戦い亡くなっていった人びとの霊を慰めるためにお参りに行くことも、どんな国でも行なわれている通常のことだ。むしろそうしたことをしない日本のような国のほうが珍しい。
小泉氏は、しかし、これからはもっと自論を成熟させていかなければならないと思う。民営化すべきは郵政三事業だけではないのである。郵政三事業は特に大きな問題ではあるが、目標をそこにとどめてはならない。たとえば同三事業などをささえている37もある特別会計をまず、すべて情報公開の対象とする、そのうえで特別会計を一般会計に合体化させること、そのプロセスのなかで、民営化すべきものはすべて民営化して特別会計そのものをなくすことを大目標として掲げるべきだ。一般会計83兆円に対し、特別会計は373兆円、相互の重複を差し引けば、一般会計の歳出はネットで34兆円であり、特別会計のそれは251兆円である。特別会計は一般の実は7倍強にも上るのだ。
日本の財政の主役は特別会計であるのに、私たちの目にはそれがまったく見えてこない。こんなおかしなことはあってはならないということを声を大にして主張し続けてほしい。
また、77の特殊法人は原則としてつぶすべきだ。日本道路公団、都市基盤整備公団など、事業内容をよくよく見直し、すべて廃止の方向での組直しをしていくことを言明すべきだ。
郵政三事業の民営化というのは、そうしたことを表現しているのだと明確に言うべきだろう。
次に大事なことは対外関係である。これまで日本は、対外的に、こんな国でありたい、とのメッセージを発信してこなかった国だ。何かあれば他国に押されてやる、何かあればおカネで解決する国であり続けてきた。このように受身で発するこの国の姿についてのメッセージはほとんどいつもマイナスのイメージがつきまとうものだった。
もはやそうではなく積極的に、日本のあるべき姿を説く時期だ。小泉氏らしく、熱情をこめて、日本は人類愛に満ちた民主主義によって立つ国だと言明せよ。いかなる国のいかなる人びとの声も尊重されなければならないと言明し、それを実行することだ。たとえば、台湾の李登輝前総統の来日は、人類愛の見地からいかなるときも歓迎するとし、また台湾の運命は、中国との合体か、現状維持か、独立か、それは台湾人の意思によって決まり、日本はその台湾人の意思こそを尊重することを明白にすべきだ。
日本は自由や人権、人道愛などの価値観を国境を超える人類共通の目的として守り育てていく決意を示すとともに、日本独自の立場もまた、しっかり守っていく国だと内外に表明すべきだ。
そして私たちはここでハタと迷うに違いない。日本独自の立場は何かと。それほど戦後の日本は自分自身の姿を見失ってきたと思う。
まず、日本をごく普通の民主主義国として機能させていくことが重要だ。その第1は、小泉氏もすでに語っているように、国の根幹である安全保障に関して、自衛隊をその実態に沿って軍隊と認め憲法9条の改正を行なうことだ。国家の形について、これまでは「自衛隊は国内では軍隊ではないが、国際社会では軍隊と認められる」というような二重構造のこの欺瞞をなくしていくことが重要である。
ごまかしをなくしていくこと、その姿勢を国民が高く評価していることを忘れないでほしい。