「 米軍再編成の波を賢くとらえどれだけ自立した防衛力を持ちうるかが早急な課題 」
『週刊ダイヤモンド』 2004年11月13日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 567
米国の次期大統領にブッシュ氏が再選された。二期目のブッシュ政権は、いよいよ米軍の再編成に力を入れるだろう。それをどのように受け止めるかによって、日本の未来が決定されるといっても過言ではない。それは、日本が自立したまともな民主主義国になるか、それとも、自立できずに米国や中国など“大国”のせめぎ合いのなかで、自国の意思を貫くこともできずに漂い続けるかの違いにつながっていくだろう。
9・11テロ以降、米国の世界戦略はテロリズムに対する戦いを主軸にし、そのなかで同盟諸国との関係も変化してきた。米国はアフリカからコーカサス、中央アジア、中東、南アジア、北朝鮮につながる一帯を“不安定の弧”と呼び、テロリズムとテロリストを育む温床と見る。
不安定の弧に対する態勢づくりのなかで、米国の同盟国として最重要国として位置づけられたのが日英両国で、米陸軍第一司令部の座間基地への移転問題はその枠のなかでのことだ。
日本が米軍再編成に関してとりわけ注目すべきは、それが極東においては、明らかに北朝鮮に対するものであるとともに、中国をも念頭に置いたものだという点だ。
日米中の関係は歴史的にゼロサムゲームに近い。日中両国共に、強い米国を味方につけた側が有利に立つ。だからこそ米軍再編成下での日本の位置づけを重視しなければならないのだ。
そうしたなか、政府は11月末までに新たな防衛計画の大綱を策定する予定だ。新大綱は、米軍再編成のなかでの日本の役割とともに、日本の安全保障のあるべきかたちを踏まえたものでなければならない。そのキーワードは、どれだけ自立した防衛力を持ちうるかということだ。
日米安全保障条約のなかで、米国の後ろ楯があるとはいえ、未来永劫米国に保護される立場に甘んじてよいはずがない。米英関係のように、対等の立場での協力を基盤とする関係を築くことが急務である。自立した防衛力を、なぜ日本が早急に整えなければならないかは、日本を取り巻く周辺諸国の動きからも明らかだ。
中国海軍の艦船による日本の排他的経済水域への侵犯は日常のこととなり、東シナ海の日中中間線のすぐ脇に天然ガス採掘の井戸を掘り、完全に日本側に入った水域に幾十もの鉱区を設定して開発の動きに踏み出した中国の実態を見れば、そうした事態への対処能力が現在の日本には欠けていること、軍事力を含めて対処能力を充実させなければ、日本が押しまくられ、国益も守れない現状が続くであろうことは明らかだ。
にもかかわらず、財務省は防衛予算の削減に乗り出した。財務省は削減幅を1%以上と設定し、具体策として陸上自衛隊員を現在の16万人体制から4万人削減する、あるいは、航空自衛隊の戦闘機を300機から260機に削減する、あるいは、海上自衛隊の護衛艦を53隻から42隻に削減する、などを打ち出したのだ。
財政赤字の削減は非常に重要ではあるが、安全保障政策とその中身の充実もまた重要である。日本の排他的経済水域をも侵す中国の意図が明らかなとき、中国との外交交渉を支える柱として、抑止力として機能するだけの軍事力を持つことは当然なのだ。それは将来の長きにわたって、日本が国益を守り切れるか、または大きく損なうかの違いを生じさせるほど重要な要素だ。加えて、米軍再編成の波を賢くとらえて、それを日本の憲法改正、集団的自衛権の行使、自衛隊の軍隊としての位置づけなどに象徴される自立へとつなげていく必要がある。その際は、日本が十分に機能する軍事力を有していることが、格別に重要である。防衛予算の削減が、合理性を無視したかたちで行なわれるようなことがあってはならないだろう。