「 本末転倒『犯人探し』は菅・仙谷内閣の責任隠蔽だ 」
『週刊新潮』 2010年11月18日号
日本ルネッサンス 第436回
11月4日夜にネットに流出した44分間の尖閣沖の領海侵犯事件の映像は凄まじかった。加速して海上保安庁の「よなくに」に船体をぶつけ、「みずき」に体当たりする中国漁船の「閩晋漁(みんしんりょう)」。黒煙とサイレンの中で大きく上下するビデオ映像が、巡視船の激しい揺れを示していた。
殆どの国民が意識することもない中で、海保の職員がどんなに困難な職務に従事しているのか、巡視活動がどれほどの危険と背中合わせなのかを、ビデオは衝撃的に見せてくれた。日本の海や離島は海保や海上自衛隊の努力で守られていることも認識出来た。中国漁船の意図的かつ暴力的な挑発行動が明確になり、「日本の海保がぶつけてきた」という中国の主張の偽りも証明された。
ところが、ビデオ流出を受けて仙谷由人官房長官は「犯人探し」を指示し、8日には秘密保全法制の強化に言及した。政府は衆院予算委員会の委員などを対象にマスコミを締め出して6分間に短縮したビデオ映像を見せた。「44分間の真実」の前では密室での6分間の公開は茶番である。
情報管理の不徹底は十分に調査すべきだが、その前になぜ、映像をひた隠しにしたのかを、政府は国民に説明しなければならない。
国民にビデオを見せない理由は、それが中国人船長の容疑の「証拠」だからだと説明された。刑事訴訟法第47条は証拠書類は「公判の開廷前には、これを公にしてはならない」と定めているが、「公益上の必要その他の事由」があれば、この限りでないとも定めている。
国民の圧倒的多数が公開を要望する中で、あくまでも公開を拒否するのなら、公開が国益や公益に貢献しないことを菅直人・仙谷両氏は証明しなければならなかった。が、無論、そのような説明はない。ビデオを公開すれば、領海侵犯も犯罪行為も明らかな船長をなぜ釈放したのか、と、世論が反発するのは目に見えている。公開を渋るのは自らの政治責任回避のためではないのか。
学びの姿勢が見られない
刑事捜査が開始された8日以降も、海保に多数の激励が殺到している理由は、間違っているのは罰すべき中国人船長を無罪放免した政府であり、止むに止まれぬ気持でビデオを流出させ、事実を知らせた人物を刑事訴追しようというのは本末転倒だと、国民が考えているからだ。
船長の無罪放免は受け入れ難いとの思いを共有するからこそ、民主党議員でさえも憤った。船長釈放直後に長島昭久前防衛政務官ら43名が「建白書」を、松原仁氏ら73名が「緊急声明」を発表したのはそのためだ。
だが、仙谷氏は8日、自らの責任を認めるよりも秘密保全法制を強化する考えを示した。機密情報が守れない日本にこの種の法律改正は必要だと私も考える。しかし、情報管理体制の整備とビデオ流出は別次元の事だ。一言でいえば後者は菅政権の責任であり、そのことは領海侵犯事件の経緯を見れば明らかだ。
9月7日午前に事件は発生し、ビデオも撮影された。中国側は直ちに北京駐在日本大使を呼びつけるなど、矢継早の措置で抗議を強めたが、菅政権は一貫して無策だった。特に事件発生当初は問題意識もなかったと言わざるを得ない。首相は単に民主党代表選挙で小沢一郎氏に勝つことに集中していたのである。
他方、海保の職員であればビデオは誰でも見られる状況だった。彼らにとって、有事の際の対処として、ビデオは生きた教材である。多くの職員が見るのは自然ではないのか。党内選挙に夢中で、尖閣問題を軽く見たとしか思えない首相と官房長官は、中国に対して主張すべき日本の立場も主張しなかった。国の内外に正しい状況説明もしなかった。両氏はそれが「理性的」で「大人の対応」だと繰り返したが、空虚である。国家主権としての領土問題に関して最高指導者の責任を果たさない両氏に、ビデオの管理について現場を責める資格などないであろう。
首相は8日までに米CNNテレビの取材に応じ、「5年、10年後に振り返ったときに、自分の内閣が冷静に対応したことはきちんと評価されると確信している」と述べたが、正につける薬がない人物である。
日本の国益を惜しむ人物なら誰しも、政府の無策に憤る。それがビデオ流出につながったと、私は思う。菅・仙谷両氏が、まず、己の非を愧(はじ)るところから、この問題への対処を始めなければならないゆえんである。その上で、はじめて秘密保全法制の強化について論ずることだ。
指導者たる者は状況を見て物事の推移を把握し、次の手を決しなければならない。菅・仙谷両氏には、その学びの姿勢が見られない。他方、中国は今回、早くも教訓を学びつつあるようだ。シンクタンク国家基本問題研究所副理事長の田久保忠衛氏が指摘した。
「中国外交の転換の兆し」
「中国共産党機関紙の人民日報傘下の環球時報が、『中国は領土問題で強硬であればあるほどよいというわけでは決してない』という社説を掲げたのを『産経』がベタ記事で報じました。強硬方針から柔軟路線への中国外交の転換の兆しかもしれません。注意深い分析が必要です」
同社説は、中国の強硬姿勢によっって「中国脅威論」に拍車が掛かり、米国と各国の関係が強化され米国の利益になっている、尖閣諸島を「短期的に」中国の支配下に置くことは難しい、その現実を中国人は受け入れるべきだという内容だ。
96年の台湾の総統選挙当時の状況と同じではないか。独立派の李登輝氏の当選を阻むために、中国は台湾海峡にミサイルを撃ち込んだ。国際世論も台湾世論もこぞって中国の軍事的圧力に反発し、中国が潰そうとした李登輝氏が当選した。中国は、強硬策は逆効果だったと学び、経済、文化交流を深めて搦めとる柔軟外交に転じた。台湾はいま、その柔軟、微笑外交に侵蝕されつつある。
今回の中国の対日強硬策は、米国に尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用範囲と明言させ、尖閣問題解決のための日米中3ヵ国会議の開催さえ提案させた。アジア諸国、そして、竹島問題を抱える韓国でさえも、今回は中国に批判的だ。
中国批判はノーベル平和賞事件によっても強まった。こうした状況を見て、中国政府中枢部に台湾海峡へのミサイル撃ち込み事件当時と同様の反省が生まれているのではないか。それが環球時報の社説の意味ではないかと、田久保氏は観る。
その可能性もある。ならばこそ、忘れまい。柔軟路線への転換は手法と手段の転換であり、尖閣や東シナ海を入手するという目標の転換ではないことを。中国の表面的な柔軟さや微笑に騙されてはならない。中国の柔軟路線には日本も柔軟に対処しよう。同時に、日本を守る気力と軍事力を着実に養うことが重要だ。
尖閣クーデターは止まず 「法を犯した」民主さん有罪 − 尖閣事変4…
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尖閣クーデターは止まず 「法を犯した」民主さん有罪 − 尖閣事変4
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尖閣事変 政府対応時系列記 2010
09.07 尖閣事変勃発 スパイ船衝突
09.08 中国漁船船長逮捕
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トラックバック by 欺瞞的善人の悲哀 — 2010年11月18日 21:23
【仙谷ビデオ隠蔽事件】 そもそも論として想像できない…
海上保安官逮捕見送り 仙谷官房長官、「私の立場として申し上げることは何もない」
尖閣ビデオ流出問題で、海上保安官の逮捕が見送られたことについて、仙谷官房長官は、16日朝の記者会見で、「私の立場として申し上げることは、何もございません」と述べた。
仙谷官房長官は「捜査の方法・やり方については、私の立場として申し上げることは、何もございません。答弁を差し控えさせていただきます」と述べた。
そのうえで、仙谷官房長官は、海上保安官の処分について、「まずは事実解明がされないと、どうのということにはならない」と…
トラックバック by ニュース、チョット言いたいことある? — 2010年11月20日 23:04