「 これだけ法律無視を重ね日本の教育を食い物にする文部科学省の責任の重大さ 」
『週刊ダイヤモンド』 2003年7月19日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 502回
この国の大臣は法律も知らない。違法行為を行なって恥じることもない。
これは、国立大学法人化法案に関して、遠山敦子文部科学大臣が行なった国会答弁を聞いての感想だ。同法案は、7月8日の参議院文教科学委員会で、与野党の意見が分かれるなか、賛成多数で可決されてしまった。本来目指すべき大学法人化の方向とは正反対の、大学の自治を弱め自立を妨げ、文科省の支配を比類なく強めていく悪法の成立が、この国の将来に暗い影を落とすのは避けられない。悪法が生まれる背後には、小欄でも指摘してきたように、遠山大臣と文科官僚による多くの嘘があった。加えて、遠山大臣の無知、不勉強もあることを示したのが、冒頭で触れた国会答弁だ。
6月26日の参議院文教科学委員会で、民主党の櫻井充議員が遠山大臣に詰め寄った。法人化法案が成立もしていない段階で、文科省の大臣官房会計課、大臣官房人事課、文教施設部計画課、高等教育局大学課、研究振興局学術機関課、あるいはその他、大臣官房会計課の予算班などが、膨大な量の書類の作成と提出を各国立大学に求めていたことについて、法案成立前にこのようなことをさせる法的根拠は何か、と質(ただ)したのだ。遠山大臣が答えた。
「これは行政の持つ、私は行政事務の一つとしてお願いできるものだと考えております」
「お願い」と大臣は言うが、文科省の「事務連絡」はそんな生やさしいものではない。厚さ1センチ、90ページ弱の書類を送り付け、組織、人事、予算、施設、人件費、管理費などすべてに、固有名詞で、1000円単位の金額まで文科省の示す書式で書けと指示している。各ページ右上方には大学名を明記し、該当がない場合も「該当なし」と書け、それを仮綴(かりとじ)で提出せよとまで書いている。お願いどころか、命令である。
櫻井議員が重ねて尋ねた。
「その行政権限を定めているものは、じゃ、どこにあるんですか」
「各省の、設置法の根拠があると思います」
「各行政機関がそれぞれの責任と権限を行使するということはできるわけでございまして(中略)事実行為を行なうに当たって、特段法律上の規定によらずできるということは先行する独立行政法人においても同様であるわけでございます」
と、大臣。櫻井議員はあくまでも根拠になる条文を示すべきだと迫り、条文がないなら特例で認めさせてくれと言えばよいことだと、逃げ道さえ教えた。しかし、頭の柔軟性に欠けるのか、遠山大臣は頬を紅潮させて言い募(つの)った。根拠は「文部科学省設置法の第二章第二節と第四条第一五号」だと。
「全然違いますよ。行政のトップとしてふさわしくない」と櫻井議員が断じたのも当然だ。設置法が改正されたのを遠山大臣は知らないのだ。知っていれば、根拠法を質されて「設置法だ」などと答えるはずがない。
シンクタンク「構想日本」代表の加藤秀樹氏によれば、旧文部省設置法は、第四条にその省の所掌事務が、第五条に権限が書かれていたが、現在はまったく異なるという。
「旧設置法の下では、国民や企業の営みすべてがどこかの官庁に所管され、権限を持たれ、口を出される仕組みでした。しかし、2001年の改正で、第五条の権限規定が全省庁にまたがってすべて削除されました。したがって、所掌事務は規定されていても、口を出す権限は、個別に法律をつくらない限り、ないのです。遠山答弁に従えば、たとえば警察は、個々の事件の逮捕令状も取らずに家宅捜査も逮捕もできることになります。まさに超法規的な国家の出現で、これほどの無法はありません」
法律無視の文科省のやり方、日本の教育を食い物にする国立大学法人化法について、私たちは遠山大臣以下、文科省の責任を忘れてはならない。