「 いまだ町長権限を擁護する議員の暴言こそ許しがたい 」
『週刊ダイヤモンド』 2003年2月8日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 480回
豊郷(とよさと)小学校の改修か建直しかをめぐって、人口約7000人の豊郷町は、3月9日に町長リコール(解職請求)の住民投票を行なう。
人びとが何世代にもわたって互いを知っているこの小さな町がリコール騒動に至るまでには、いくつかの山があった。豊郷小学校を解体し、新校舎を建てようとする大野和三郎町長らの動きに、住民が同小の講堂の解体費用5500万円の予算差止めを求める仮処分を大津地裁に申請したのが2001年12月だ。同地裁は2002年1月に住民の訴えを全面的に認め、講堂解体差止めの仮処分を下した。
すると町長は、講堂を除く校舎の解体計画を作成、予算21億円を9月議会で成立させた。住民は再び地裁に訴え、地裁は住民の訴えを全面的に認めた。地裁は校舎の保存改修の可否、耐震性の調査は不十分、不十分な調査に基づく改築決定は町の財産管理方法に適切さを欠き、地方財政法違反に当たると断じた。
それでも町長は諦めず、解体を建設業者に指示。業者が校舎の窓ガラスを割り、反対する女性を突き倒した映像は全国ネットで報道された。
町長はその後一転して、校舎は保存するが活用せず、旧校舎の隣接地に新校舎を建てると発表。約18億円の新築案を「豊郷小学校等建設委員会」に諮(はか)り、同委員会はこれを了承した。
それにしても、町長の一連の行動は政治家として信じがたい。地裁の仮処分を無視して校舎の解体を命じたことは、法律違反である。町政のトップに立つ人物が司法を無視するなら、町は無法となる。
「裁判所の命令に対しては異議申立てをしておりますから」
町長は電話でこう述べた。だが、町長が異議申立てをしても、裁判所の仮処分命令は変わらないではないかと問うと、「それはねぇ、これからのことなんだから……」と言うばかりだ。
この人物、町長でありながら、裁判所の処分決定の意味も分かっていないのか。なぜ、住民の希望を無視して新校舎建設に走るのかと問うと、町長はざっと以下のように答えた。
「耐震性などの検査結果が怪しいというのは、マスコミが誤って報じたことだ。小さな町で、一方の小学校が安全、利便性、快適さで優っているとき、旧校舎の小学生に不便を感じさせながら通学させるのはいかがなものか」
町長は、マスコミの誤報点について具体的には語らず、新校舎は、子どもたちにとっての利便性、快適さなどから必要だと繰り返すのみだった。
リコール投票が決定したあと、町長は猛然と動き始める。1月26日、町政報告会を開き、新聞報道では750人を集めた。同会は解職阻止の決起大会となり、国会議員らも応援に駆けつけた。そのうちの一人、自民党の小西理(おさむ)議員は、改築反対の住民らを烈しく非難した。同議員演説のテープの反訳によると、小西議員はそうした住民たちに「怒りを感じている」「あたかも民主主義を無視したようなことが言われるのはいかがなものか」「ファッショ、全体主義、どうもそういうにおいがする」「ファッショは正論の顔をしてやって来る」などと発言した。
小西議員は東京大学法学部卒である。ファッショというどぎつい言葉の意味を解する素養はあるだろう。自分たちの学び舎は、補強すればまだ使える、古いものを大切にし、先人の心を今に伝えよう、と問題提起した住民たちを指す言葉としては許しがたい。
小西議員は「ファッショにならないようにとの発言だった。危険な校舎に子どもを置いてよいのか、裁判所の判断はひっくり返るかもしれず、町長権限でやれることはある」と述べた。立法府の一員の、この司法判断無視の言葉は、暴言かつ、天に唾(つば)するものだ。