「 国益追求型の国際社会にどう加わるかが日本の課題 」
『 週刊ダイヤモンド 』 2003年1月18日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 477回
国益の乱舞する時代が21世紀である。国際社会の対立軸は、イデオロギーに取って代わって、ドライに主張される国益となる。
国家観や民族意識の極端に希薄な日本は、拉致問題の真実が明らかになるにつれて、久しく忘れていた国家や民族について考え始めた。その日本が緊急に取り組むべき課題は、米国のイラク攻撃にどうかかわっていくかである。イラク攻撃後に、中東および世界に生じる変化を予想すれば、イラク戦争への取組みが、その後の日本の国益を大きく左右するのは目に見えている。
ブッシュ政権の米国がフセイン後のイラクに、親米政権樹立に向けて動くのは当然予想される。イラクの親米政権誕生で、米国は世界の油田地域に強力な足場を築く。イラクはなんといっても、サウジアラビアに次ぐ世界第2位の原油埋蔵量を有する国だ。
現在、イラク原油の開発・輸出は、湾岸戦争以来の国連による経済制裁によって大幅に制限されている。イラク原油は「石油・食糧交換」プログラムに沿って、食糧や医薬品などの購入に必要なぶんの輸出が許されているだけだ。密輸されている原油もあるが、イラクにとって重要な意味を持つのが、露・仏両国を主たる相手とした油田開発計画である。契約済み、あるいは交渉中の油田開発計画の約半分をロシアが占めている。フランスも強力に食い込んでおり、中国も非常に積極的だ。
これらの国々、とりわけ露・仏両国とイラクの関係は石油にとどまらず、武器輸出をも通して密接な関係を保ってきた。両国は大いに武器輸出し、現在未回収債権は、それぞれ90億ドルと45億ドルに上るとみられている。
ところが、その露・仏両国、そして中国までも、昨年11月、米国が国連安全保障理事会に提案した、イラクに対する大量破壊兵器放棄の決議案を支持した。3国は、ポストフセイン政権の性格を読み取り、中東の勢力地図の塗替えを予想し、自国の利益を計って行動しているのだ。
イラク戦争後、米国の中東における力はさらに強大になると考えなければならない。親米的になったイラクに加え、米国はイスラエルおよびカルザイのアフガニスタンに強力な足場を持つ。強い米国の側に立つことによって得る利益は、反対の立場で得る利益よりも大きいと、プーチン、シラク両大統領らは考えているのだ。イラクへの攻撃が始まれば、おそらく各国は冷徹な計算に基づいて米国との協調体制に入るだろう。日本はどうか。
日本は昨年、インド洋への補給艦を出し、暮れにはイージス艦も派遣した。「憲法で禁じている」と一部に批判があるなかで派遣し、国内では自衛隊の組織改編を行なうことも決定した。
この組織改編は現在、背広組の局長や防衛課長が制服組の上に位置して、予算や人事などの軍政だけでなく、軍令(部隊の運営)をも担当している異常事態を改めるものだ。各国に例のない背広組の制服組への優位を改め、両者を同格にするための変革である。徐々にではあるが、現実的な安全保障政策を実行する下地ができ始めたのだ。
イラク戦争とイラクに、日本がどれだけ自らの意志と責任で参加できるかが、次の段階、北朝鮮への対処につながっていく。
私たちは、5人の被害者は取り戻した。しかし、まだ多くの被害者が残されている。日本国民を守るための試練と、あらゆる意味での戦いはこれから始まるのである。その戦いは、国家のみがやり遂げることのできるものだ。日本が、国家たりえたとき初めて、同盟国米国をはじめ周辺諸国は、日本の主張に耳を傾けるようになる。
自らの足で立ち、冷静に国益を追求する国際社会のルールに、日本も入っていくべき時だ。