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2009.05.14 (木)

「 中国の知的財産丸ごと乗っとり策 」

『週刊新潮』 2009年5月7・14日合併号
日本ルネッサンス 第361回

米国議会の政策諮問機関、米中経済安保調査委員会が昨年11月、議会に提出した報告書に興味深いくだりがある。

「中国の知的財産権の侵害は際立っている。中国は関連法を改正し、外国企業の権利の剥奪と、中国企業の保護を一層強めた」

「中国は2008年8月、特許法改正の検討を開始した。重要点は『絶対的新規性』基準の採用である。これによって、すでに公知の知的財産は、中国では特許の対象として認められなくなる」

中国がまだ所有していない技術や仕組みであっても、日米欧などで商品化され公知となっていれば、絶対的新規性はないとされ、中国では特許として認められないという意味だ。他国の技術を、特許料を払わずタダで使える国内法を作ったともいえる。報告書はさらに記述する。

「もうひとつの変化は、中国企業及び個人は、中国国内で達成した発明に関して、(他国の企業や個人に先駆けて)最初に出願する法的義務を免れるという点である」

この点について報告書は、さらなる情報収集が必要としているが、想像されるのは以下の悪夢のような事柄だ。中国以外の企業や個人が新技術や新案を発明したと仮定する。中国人がそうした知的財産を“不法”に入手して、中国に持ち帰ったとしよう。当然、そのような新技術や新案は中国の特許事務所には出願も登録もされていないはずだ。それでも、中国側は、それは、出願・登録されていないだけで、中国の企業、もしくは個人として、すでに中国にもあるのだと主張する。そのような主張の余地を作ったのが、昨年の特許法改正だと思われるのだ。

責任者は親中派大臣

報告書には、如何なる手段を用いても、欲するものは取るという中国的手法が詳述されているが、事例を乗用車に関する報告から拾ってみる。

2006年、米欧カナダが車の部品の輸入関税に関して、中国をWTO(世界貿易機関)に提訴、08年7月に中国は敗訴した。すると、中国は9月に、省エネと環境対策を理由に燃費が悪いとされる車に新たな税金をかけた。対象車は輸入車が大半を占めた。結果、方法は異なるが、外国車の輸入規制について、高関税実施と同じ効果をあげたと、報告書は非難している。

世界の知的財産権の侵害の8割は中国による。中国は他人の技術や案を盗む。中国は、音楽も映画も、文学も小説も、その価値を認めたにも拘らず、それを生み出した元々の個人、組織、国家に著作権料などを支払う考えはないのだ。知的財産権の侵害は、過去何十年にもわたる中国の常套手段だ。その侵害の凄まじさは、個々の企業体の存続の危機を越えて国家の運命をも脅やかす。

一例が、先日明らかになった中国政府による強制認証制度だ。これはITセキュリティ製品について、中国政府が審査、認証したものに限って、国内への輸入・出荷・販売を認める制度である。07年8月に導入方針を明らかにしたときは、日米欧が強く反対し、中国政府は一旦、導入を延期したがいま、再び同じ要求を突きつけてきたのだ。

中国政府は、詳細は5月1日に発表するとしており、現段階では全容は明らかではない。だが、従来の主張から中国政府がICカードやコンピューターウイルスの侵入を防ぐソフトなどの設計図「ソースコード」の強制開示を狙っているのは容易に想像出来る。

「ソースコード」とは、プログラミング言語で書いたソフトウエアの設計図のことで、知的財産の最も重要な部分だ。これを中国側に握られることは、知的財産の素である頭脳を乗っとられるようなものだ。中国はいとも簡単に、日本商品のコピーを作り始めるだろう。

厚顔無恥のこの種の要求を、しかし、日本が拒否した場合、家電製品をはじめとするさまざまな製品の対中出荷停止も予想される。影響は1兆円規模に及ぶとも見られている。金融危機以降の不況下、日本企業のみならず世界の企業は、中国市場への輸出に頼らざるを得ない状況がある。その点を見越しての狡猾な要求に対して、企業が個別に対処出来ることは少ない。中国の国家戦略に対抗するには、こちらも国家の総力をあげて臨まなくてはならない。だが、果たして、日本政府はまともに中国政府とわたり合えるか。日本政府の直接の責任者は経済産業大臣、二階俊博氏だ。東シナ海ガス田開発に関して、日本の国益を守ることもしなかった親中派議員の筆頭である。

“支払う側から支払わせる側へ”

それにしても、中国政府は、見事に“支払う側から、支払わせる側へ”の変身を遂げようとしている。

周知のように、知的財産権を世界で一番侵害してきた中国は、国際社会から世界で一番多く、訴えられてきた。評判を落とし、賠償金を請求され続けることに嫌気のさした中国は、知的財産の研究を開始、2001年には、首相直属の「国家標準化管理委員会」を設置した。あらゆる知的財産を、まず、中国独自の国家標準として登録し、それを、国家ぐるみで国際標準に格上げしてきた。

それでも中国は追いつけない。そこで、今回は、新たな国内法を作り、それに基づいて強制認証制度を設け、国内法に見合う形で、“合法的”に世界の最先端技術を奪おうとしている様子が窺える。

WTOは、国際標準に沿った内容であれば、各国に強制規格の新設や改訂の権利を認めている。今回のIT情報強制開示の要求が、WTOの規定に合致すると見做されるかどうかはわからない。しかし、日本や欧米諸国がWTOに提訴すれば、中国政府は全力をあげて闘い、早期の決着は困難だろう。

裁判が長引き、対中輸出がとどこおって困るのは、中国に輸出したい企業であり、不況から脱却したい各国政府だと、中国政府は読み、勝算ありと考えているのであろう。

国際情勢を鳥瞰してみると、国家の形は一世代、二世代を経て創られることを痛感する。毛沢東らによる建国からちょうど60年、国家の基本は軍事力にありとし、軍事力が十分強くなれば政治力が備わる、軍事力と政治力が強大化すれば自ずと経済力はついてくると考えたその戦略が、まさに中国に果実をもたらしている。

4月23日の中国人民解放軍海軍の初の国際観艦式には、最新鋭の軍艦25隻が姿を見せた。胡錦涛国家主席は、中国の軍事力は「平和」のためであると述べたが、それは、中国の意向を世界に受け入れさせる圧力としての軍事力に他ならない。

戦後、軍事力を蔑ろにし、経済だけを考えてきた結果、すべての面で衰退しつつある日本。明らかにわが国には根本的な方向転換が求められている。

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トラックバック: 3件

  1. 北京~上海高速鉄道が着工したが・・・

     日独仏加の技術のいいとこ取りをした高速鉄道が着工した。次はこの「なんちゃって国産技術」で中国内の主要都市を結ぶのだろうが、これはあくまで仕方がない。この膨大な鉄道網を…

    トラックバック by スカイ・ラウンジ「有視界飛行」 — 2009年05月14日  21:55

  2. パクリ大国「中国」について。

    先日、こんな記事
    (←ポチっとしてね)
    を書いたのだけど、尊敬する桜井よしこさんが、
    大変わかりやすくブログに
    アップしてくれていたので、トラバします。

    知れば知るほど腹…

    トラックバック by 2009年もがんばります。 — 2009年05月15日  11:12

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櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 中国の知的財産丸ごと乗っとり策 」

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