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2025.07.03 (木)

「 米軍の攻撃は核不拡散につながるか 」

『週刊新潮』 2025年7月3日号
日本ルネッサンス 第1152回

6月22日の日曜日、週末の全世界に衝撃が走った。日本時間の午前11時、トランプ米大統領がホワイトハウスで短い演説をした。

「少し前にわが軍はイランのフォルドゥ、ナタンズ、イスファハンの3主要核施設に大規模攻撃を行った」「主要3施設は完全かつ全面的に消滅した」

ヴァンス副大統領、ルビオ国務長官、ヘグセス国防長官を従えた演説の場はかつてオバマ大統領がオサマ・ビン・ラディン殺害を発表したのと同じイースト・ルームだ。トランプ氏は米軍の攻撃は完璧で他のどの国にもできない作戦に成功したと、誇った。

同日夜9時、ヘグセス氏とケイン統合参謀本部議長が会見した。両氏の説明を要約すると、7機のB-2スピリット爆撃機が各々14トンのバンカーバスター(地中貫通弾)2発を抱き、18時間余り大西洋上を飛んでイランの3施設上空に到達した。攻撃は日本時間で日曜朝の7時40分(イラン時間の午前2時10分)に始まった。7機は20分で地中貫通弾を次々と正確に目標に落とし、作戦は8時に完了した。8時半には全機がイラン領空外に出た。

別のB-2爆撃機8機が囮となって太平洋側に飛行する一方、攻撃任務を担った7機はイラン領空に到達前も、領空で攻撃中も、地対空ミサイルの攻撃は全く受けなかった、イラン側は米軍に全く気づかなかった。イランは自国の制空権を完全に失っているのだ。

米空軍のB-2は14トンもの地中貫通弾を複数運べる唯一の爆撃機で世界最強とされる。現在稼働中のB-2は全部で19機、その内15機を今回の作戦に投入したことになる。また米国は10種類の地中貫通弾を有するが、最大のものが今回使用された14トン弾だ。米国はこれを20発保有しており今回その内14発が使用された。米軍が最大の力を今次作戦に注ぎ込んでいたことがわかる。

「全人類のために汚れ役」

トランプ氏は冒頭の演説で攻撃の目的は⓵イランの核能力を食い止めること、⓶核兵器をテロ国家に作らせ続けないことだとして、「平和を選ぶのか、悲劇を選ぶのか」、「すぐに平和が訪れなければ、米軍が攻撃する標的はまだ多数残っている」と、イランに迫った。以降の展開はイラン次第だと恫喝しつつ交渉の用意があるとの姿勢を示したことになる。

イランの軍事力がかなり弱体化しているのは明らかだ。昨年イスラエルがイランの防空網を攻撃し、これまでにミサイル発射装置の半分以上を破壊したといわれる。イスラエルはまたイランの大型トラックを集中して潰してきた。ミサイル発射装置を破壊されたイランが、無事に残ったミサイルを別の場所の発射装置まで運ぼうとしても運べないようにするためだ。

このような状況下でイランは米軍の攻撃によってさらに力を失った。アラグチ外相は米軍急襲直後にロシアに向かいプーチン氏と会談するが、ロシアも自らが仕掛けたウクライナ侵略戦争でかなり弱体化している。

たとえば昨年のイスラエルによる攻撃でイランが防空網を破壊されたとき、国際社会はロシアが急遽救援に入り、イラン防空網を改修するだろうと予測した。しかしロシアにはその余力がなく、イラン防空網は機能不全のままだ。今回もロシアにできることは限られているだろう。

イランが支援してきた多くのテロ勢力、たとえばレバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ、イラクの反政府勢力、バーレーンのアル・アシュタルなどもイスラエルの攻撃を受けて弱体化しており、イランのために代理戦争を実践する力は弱まっている。

イラン支援の力を残し持っているのは中国だけと見てよいだろう。中国の究極の目標は米国を弱体化させて、世界一の座にとって替わることだ。中国はなるべく動かずに、事態の推移をじっと見詰めていくことだろう。

米国のイラン攻撃に対する欧州諸国の反応には二つの共通点がある。イランの核開発は許さない、今後は交渉の席につけ、の2点だ。しかし米軍の攻撃作戦を明確に支持するという声はどの国からも上がらなかったのが興味深い。

イスラエルがイランの核施設を攻撃した時、メルツ独首相は「全人類のために汚れ役をしてくれた」と感謝した。そのメルツ氏も今回は他の欧州諸国同様の反応にとどまった。一方、独国防大臣のピストリウス氏は「主要な脅威が取り除かれた。これは中東だけでなく、欧州にとってもよいニュースだ」と語った。欧州諸国はまさに息をひそめている。

彼らはロシアのプーチン氏の飽くなき侵略欲と戦っている最中だ。プーチン氏は6月20日にも「ロシア人とウクライナ人はひとつの民族だ。その意味でウクライナ全体は我々のものだ」と語っている。このような侵略者と戦い続けている今、新たな戦争を起こしてほしくないと考えるのは理解できないわけではない。

わが国にしかできないこと

翻ってわが国である。わが国と欧州では脅威情勢は異なる。石破茂首相はイランの核施設を攻撃したイスラエルについては、到底許容できない、強く非難するなどと論難した。しかし今回、米国の攻撃をどう考えるかと記者団に質された石破氏は「事態の早期沈静化が重要」「イランの核兵器開発は阻止されなければならない」と、欧州諸国同様の内容を述べた。

中国に最も近く、中国に最も狙われているわが国が欧州と同じ対応であってよいはずがない。

わが国が米国とイラン、そして世界に発信すべき点は3点である。まず米国に対して、イラン攻撃の成功をトランプ氏の平和の創造者としてのレガシー確立につなげようと、呼びかけることだ。トランプ氏の考えを忠実に実行して、米国はイランの核兵器開発阻止の一点を目指し、そこでしっかりとどまる。その立場を日本は支持すると明確にし、イスラエルが望むイランの体制転覆には踏み込まないこと、むしろ長い歴史と文化を有するイランへの敬意を失わないように交渉すべきだと忠告するのだ。

次にイランには、日本国に続けと説くことだ。民生用の原子力エネルギーの必要性を見据え、日本に見習ってIAEA(国際原子力機関)の査察をきちんと受け、ウラン濃縮に関しては100%の透明性を確立して疑念を招かないようにと忠告する。これはわが国にしかできないことだ。

最後に米中両国に対して、わが国は憲法を改正し、防衛費を現在の目標のGDP比2%からさらに多くを上積みすると宣言し、他国同様、国防のためにあらゆる分野で積極姿勢に転ずる、アジアを始め、世界のために責任と誇りある自主独立の国家として再生すると明言するのだ。

こうして初めて、わが国は米国と共に核不拡散の精神を貫き、実行し、中国の脅威に立ち向かうことができる。

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