「 保守大同団結を目指し、萩生田頑張れ 」
『週刊新潮』 2025年1月23日号
日本ルネッサンス 第1131回
今年、日本の命運は保守勢力の大同団結が成るか否かに依る。一連の動きで恐らく最も注目される政治家の一人が自民党元政調会長の萩生田光一氏であろう。「言論テレビ」は1月10日、氏をゲストに迎えた。
石破茂首相は24日に通常国会を開く。決定的に国家観を欠落させた石破氏について警戒すべきことは、少数与党の弱みゆえに、立憲民主党代表の野田佳彦氏に政策面で譲歩することだ。最大の懸案が選択的夫婦別姓である。野田氏は昨年10月の衆院選での自民党大敗を機に法務委員会委員長ポストを奪いとった。同ポストの獲得を氏は先の選挙の最大の収穫と誇り夫婦別姓制度の法制化実現を公言した。萩生田氏ら保守勢力はまず、立憲民主のこの法案を阻止しなければならない。
立憲をはじめ野党は、数の上では別姓賛成派が反対派を上回るとするが、それは事実でもなく、単に現時点での見方にすぎない。同法案の成立で日本の家庭にどんな変化が生じ、子供にどんな影響が及ぶのかを国民が理解したとき、賛否は大きく変化するだろう。保守派は立憲案がもたらす影響を国民に向かって具体的に語ることだ。
たとえば、夫婦、子供が別々の苗字で二代三代四代と続いたとき、家族は祖父母、父母、子供、孫たち、実に多くの苗字が混在する集団となる。それで家族の一体性を保てるのか。同じ兄弟姉妹で苗字が異なるとき、学校で苛められはしないか、ある程度子供が成長したとき、自分は生まれながらに父、或いは母の苗字にされたが、自分の意思はそこにはない、いやだから変えてほしいと言われたとき、どうするのか。親が離婚したときはどうなるのか。
この他にも多くの問題が発生する。加えて、家族の一体性も薄れていく。お墓も「〇〇家之墓」は成立しなくなり、全国総墓じまいになりかねない。戸籍も意味を失って消滅するだろう。法整備ではそうした個々の問題まで想定し、国民に、このような方向になりますが、それでよいですか、と問わなければならない。
立憲民主と同類
だが立憲は具体論は展開しない。家族のあり方が大きく変わる可能性についても語らない。大事なことがはっきり分かるように説明することもなく法案を提出するのは国民への背信行為だ。
肝心の自民党総裁であり首相の石破氏は立憲民主と同類だ。氏は夫婦同姓の現行制度ゆえに「ものすごくつらくて悲しい思いを持っておられる方々が大勢いる」と語っている。
萩生田氏が問うた。
「苗字の問題で本当に困っている人がいれば、寄り添ってきちんと助けていきたいと思います。どういう分野のどういう人たちが、旧姓を使えないことで不利益を被っているのかを明らかにしてもらえば、その人たちを救済するのが政治の責任です。しかし、制度そのものを全て法律で変える必要はないと思います」
選択的であろうがなかろうが、夫婦別姓を奨励することに疑問を呈し、自民党は慎重であるべきだと萩生田氏は強調する。旧姓が使えないために困る人がいるのであれば、きちんとその穴を埋めていくことが大事だと繰り返したうえで、「今ある問題を解決することと、将来に問題を生むかもしれない原因を作ることで、どっちが事が大きくなるのか、冷静に考えなければいけない」として、この問題の背景に斬り込んだ。
「イデオロギー的にこの制度を変えたい人たちが、困っている人たちの声を代弁する形をとって今この法案を前に進めようとしているのではないか。ここは堂々と慎重に議論していきたいと思っています」
立憲民主は、夫婦同姓は明治31(1898)年に初めて法整備された制度で高々120年余の歴史しかなく日本人の伝統的な生き方ではないと言う。これは明確な間違いだ。
早稲田大学教授を務めていた洞富雄氏や大阪観光大学観光学研究所研究員の濱田浩一郎氏らが貴重な研究をしている。両氏は各々別個の研究でわが国の農民や庶民が姓や苗字を持っていなかったという通説が間違いだったことを証明した。1199年の中世の資料から「貴族か武士かとさえ思う」立派な姓を庶民が持っていたこと、さらにそれら庶民は夫婦同姓だったことも判明した。
明治維新を経た同9(1876)年、明治政府は当時の上流階級、武家の慣習だった夫婦別姓を国全体に広げるべく、「婦女は嫁(か)しても所生(生家)の氏を用いるべし」と定めようとした。すると、全国津々浦々から反対論が巻き起こった。余りに強い反対で明治政府はこのあと22年間も結論を先送りしなければならなかったほどだ。明治31年、ようやく国民大多数の声、即ち中世以降の伝統に基づく日本人の結婚のあり方、即ち夫婦同姓の民法で決着させたのだ。
この件りは実は2号前の当欄で紹介済みだ。不勉強な立憲民主に日本国の土台を崩させてはならないと考え、再び紹介する次第である。
「自民党は崩壊です」
わが国はずっと国民大多数が夫婦同姓だった。結婚した女性を一族に入れない女性差別と言うべき制度を有する韓国や中国とは違うのだ。私たちは嫁してきた女性を家族の一員とする日本社会の伝統に心からの誇りをもってよいのである。
だが、立憲民主も石破氏もそうは考えない。彼らが今、変えようとしているのは民法の根幹、戸籍制度の根幹である。その重要さと影響の大きさから考えて、夫婦別姓は本来は内閣の総意を以て提出する閣法であるべきだ。しかし立憲は狡猾だ。議員立法での成立を目指している。議員立法で提出される法案はまともな審議もせずにほぼ一瞬で成立する。だからこそ、提出前に阻止する態勢を整えておかなければならない。
要注意のタイミングは予算案が衆議院を通過する2月下旬であろう。予算委員長は立憲の安住淳氏、立憲と石破自民党執行部が予算通過を巡って水面下で手を握る可能性は否定できない。握った瞬間、立憲は法案を出してくる。自民保守派がそれを阻止できなければ、自民党の支持者は今度こそ、決定的に自民党を見捨てる。
「そのようなことになれば、自民党は崩壊です」と萩生田氏は語った。では、どのように阻止するのか。
氏は、「ここで言うと、手の内を全部知らしめることになります」と笑い、「志を同じくする仲間としっかり行動したいと思います」と語った。
安倍晋三氏亡きあとの自民党は見るも無残、まとまりも戦略もない。だからこそ、と萩生田氏は強調する。
「党の人材の力を結集することが大事です。前回の総裁選で元々の仲間、共に行動していた人たちが分かれて立候補した。それでは総理を目指せない。結節点をきちんと作らなければならない。その接点に私がなれるのであればなっていきたい」
次の指導者を自分たちが力を合わせて誕生させるという決意表明だ。心から応援したい。