「 狂牛病の感染経路不明のまま安全宣言狙う農水省の欺瞞 」
『週刊ダイヤモンド』 2001年10月20日号
オピニオン縦横無尽 第417回
日本の狂牛病はいったいどこからやってきたのか。
9月10日に明らかになった千葉県白井市の狂牛病の乳牛は、北海道佐呂間町の農場から出荷されていた。が、双方の畜産農家は、牛には肉骨粉を与えてはいないと説明している。特に千葉県の酪農家は、自分のところでは感染源とされている肉骨粉は使用していないと強調したうえで、なぜ、自分の牛が狂牛病に罹(かか)ったのか、納得できないから、是非、徹底した調査で感染経路を明らかにしてほしいと悲痛な訴えを政府に対して行なっている。
感染経路を知りたいのはこの酪農家だけではない。それは全国民の関心事であり、国民の健康に直結することだが、「日本初」の狂牛病発見からひと月がすぎても、感染経路は不明のままだ。にもかかわらず、政府は感染経路を曖昧にしたままで、安全宣言を出そうとしている。行政官僚の責任回避と問題隠蔽(いんぺい)という、過去の悪夢の構図がこの件でも見えてくる。
狂牛病は英国で最も多く発生しており、これまでに18万頭の牛が感染し、99人の人間も感染した。英国では1996年に入って人間に狂牛病が感染し、死亡した事例が次々に報告された。このような状況を受けるかたちで、日本政府は96年に輸入した肉骨粉を牛に飼料として与えてはならないとの通達を出した。
だが、通達には法的拘束力はない。酪農家のなかには通達が出ていたことさえ知らなかったケースも目立つ。そして知っていた酪農家も豚や鶏や魚の餌としては制限なく使っていたのが実態だ。通達にもかかわらず、96年以降も少なくとも8,000頭の牛に肉骨粉が与えられていたと報告されている。
このような日本の現状に対してEUの執行機関、欧州委員会が6月に、「日本でも狂牛病が発症する客観的可能性がある」との見解をまとめた。発生の危険度を4段階に分け、日本は2番目に高い「3」の分類にされていた。これは日本の肉骨粉輸入実績などを基礎にして導き出した結論だった。
これに異議を唱えたのが農林水産省である。日本政府の異議によって、欧州委員会の報告は、日本に関する部分を除外して発表された。政府側は、不正確な評価をもとに危険性を強調されると、必要以上に危険をあおることになると説明するが、国民の食生活に関する重要情報を隠しただけのことである。そのあいだに農水省は、日本の狂牛病牛の検体を英国獣医研究所に送り、検査を依頼していたが、この牛は確かに狂牛病であるとの回答を得たのが9月22日である。
つまり日本の狂牛病の原因である異常プリオンが、英国狂牛病の原因とまったく同じだったということだ。日本の牛が英国由来の肉骨粉を与えられて狂牛病に罹ったことを示す有力な証拠だが、酪農家は双方ともに、そのような飼料は与えていないという。では、異常プリオンはどのようにして日本の牛の脳に入り込んだのか。
民主党の鮫島議員が推測した。
「仔牛が生まれると初乳を与えます。初乳には免疫を呼び起こす成分などが含まれており、健全な成育には欠かせません。しかし、母乳は商品価値があるために、最初は与えても次からは売ってしまい、仔牛には安い脱脂粉乳で作ったものを与えます。ここにビタミンやカルシウムを添加するために肉骨粉を混ぜるのが一般的なのです」
が、このような事情が判明すれば、農水省や農協などの責任問題にもなる。そこで当局は感染経路不明のまま安全宣言を出そうとしているのだ。また、すでに露見した千葉の狂牛病の牛の検体は筑波の動物衛生研究所で検査させ、この牛を突然変異体として結着させるという企(たくら)みがあると鮫島議員は指摘する。国民への背信をここまでやるのか。