「 日本再建、新たな連立を目指せ 」
『週刊新潮』 2025年10月16日号
日本ルネッサンス 第1167回
国会での指名を経て、高市早苗氏はわが国初の女性宰相となる。大いなる快挙だ。しかし難関はこれからだ。
高市氏は4割の党員票を得て圧勝、議員らは決選投票で高市支持に回った。氏は力強く勝利したが、眼前の課題は二分された党をまとめることだ。党員支持の熱烈さに較べて議員の支持は見劣りがする。高市総裁を迎える党内の空気はあたたかくも甘くもないと見るのが正しいだろう。
そんな空気を変えて、議員の心を如何にしてひとつにまとめ上げられるか。党運営、野党との連携にとどまらず、外交、内政の全てにおいて高市氏をしっかりと支える体制を築けなければ政権は機能しない。
党内結束には何よりも目配りの利いた人事が欠かせない。氏と競った候補者4人、とりわけ2位につけた小泉進次郎氏と、高市氏同様、保守路線を歩む小林鷹之氏を、重量級の閣僚或いは党幹部として遇することが大事だ。小泉氏はきっと高市政権下でも全力を尽くしてくれるだろう。小林氏は経済安全保障担当大臣経験者ではあっても、省全体を把握し指導する閣僚には就いたことがない。将来日本国を担える政治家に成長できるよう、鍛えるつもりで重要な省を任せるのがよいと思う。
林芳正、茂木敏充両氏は手練れの政治家だ。貴重な政治資産として高市路線遂行の基盤の一部となせれば、見返りは全て高市氏に還ってくる。
今回、高市氏勝利の流れを作った麻生太郎氏は氏の義弟、鈴木俊一氏の幹事長就任を勝ち取った。鈴木氏は悪い人ではなさそうだが、印象は如何にも旧い自民党だ。高市氏が解党的出直しを謳うのであれば、鈴木人事の上書きが必要だ。それには高市氏を支えた有村治子氏や片山さつき氏らを登用するのがよい。
両氏共に働き盛り、活発で弁が立つ。思想信条は真っ当な保守だ。夫婦別姓やLGBT問題で少なからぬ意見交換をしてきたが、両氏共に少数派の人々に十分配慮する一方で伝統を守ることの重要性を認識し、日本の家庭を守らなければならないとの価値観を持っている。彼女らの議論する力、説得する術は、決してその辺の男性議員らに引けを取らない。国内だけでなく国際社会で日本を代表する場面でも、十分に存在感を発揮し、鈴木氏が国民に与える旧い印象をさっと塗りかえてくれるだろう。
公明党に質したい
人事の次は政権の形を変える方向で準備を始めるのがよい。少数与党は連立なしには安定しない。だが、呉々も注意すべきは、連立相手と価値観を共有できるか否かだ。こんなことは当然中の当然だが、現在の自公連立のちぐはぐさを見れば、価値観の共有という基本を念押しせずにはいられない。
公明党代表の斉藤鉄夫氏は3項目の懸念事項を高市氏に伝えた。⓵「政治とカネ」問題、⓶靖国神社と歴史認識問題、⓷外国人との共生問題、である。
⓵は、朝日新聞が高市氏に記者会見で質し、高市氏勝利を伝える紙面でも「裏金議員」との表現で取り上げた。
高市氏は、同問題には司法上の決着がついている、各議員は国会で説明した、自民党が処分を下した、それでも昨年の衆院選で(小泉氏らが)不記載議員を非公認とする追加処分を行った、各議員は非公認で臨んだ選挙で有権者の支持を得て当選した、従って政治とカネの問題は決着済みだ、との説明だ。また不記載議員を登用する場合、高市氏が理由を説明するとも語っている。これで十分だと私は考える。
⓶の首相による靖国神社参拝問題は、1979年春の例大祭以来、毎日、朝日などリベラルメディアが問題視したが中国も韓国も全く気にしなかった。以降6年半、両国はクレームをつけず、わが国首相も閣僚も靖国神社参拝を続けた。85年夏に初めて中国が靖国参拝を問題として取り上げた。日本のリベラルメディアとリベラル政党が靖国参拝を歴史問題として煽り続けた結果である。
公明党は毎日や朝日と歩調を合わせ、靖国問題を政治的に利用して日本を不条理に非難する中国に一方的に同調するのか。一体どんな日本国を創りたいと考えているのか、逆に公明党に質したい。
公明党は⓷の外国人問題については「共生」の思想で臨めという。外国人との共生は無論大事だ。これを否定する気は全くない。だが、わが国における外国人問題は主として中国人問題だ。あり余る中国マネーにわが国の国土、インフラ、戦略的に重要な拠点が買収され続けている問題とも重なる。今や彼らが電力網にまで触手を伸ばしていることは、国家の基本インフラを左右されかねない点で見過ごせない。
外国人との共生は望んでいても、わが国の規律を守ってもらうことを忘れてはならない。無制限に外国人が日本国に移住し続ける現状から問題が生まれているのなら、適正に制限すべきだというのが日本国民の思いであろう。
思いがけない反乱
一連の問題に加えて、中国共産党の国内統治に、私たちは大いに留意せざるを得ない。中国共産党によるウイグル人、チベット人の弾圧、虐殺などの人権侵害に、わが国国会議員が超党派で抗議しようとした。人権、人道を重視する日本国として当然のことだ。しかし、公明党は「中国」と名指しすること、人権侵害と表記することに断固反対した。「平和の党」「人権重視の党」と自称する党の思いがけない反乱だった。
斉藤氏の3つの懸念事項、年来の公明党の振る舞い。どこから見ても自公連立は解消するのが日本国の為になると私は考えている。
高市氏は自公連立が基本だと繰り返し強調するが、わが国には国民民主党も日本維新の会も存在する。国民民主はガソリン税と年収の壁の見直しについての三党(自民、公明、国民)合意が実施されれば、連立及び政策協議に応ずるとの立場だ。国民民主と労働組合の連合がどのような関係を保つのかという点は注視すべきだが、それでも皇室、憲法、自衛隊・安全保障について自民党の政策と大差はないはずだ。
日本維新は高市氏よりも小泉氏に親和性があると言われている。共同代表の藤田文武氏が語った。
「そう言われていますが、我々の政策は高市さんに近いと思います。改革保守勢力として、我々は憲法9条2項の削除を謳っています。皇室は男系男子の長い伝統を尊重し、夫婦別姓問題は旧姓使用の法的整備でだれ一人不自由のないようにします。外国人問題は日本国の秩序を守る為に総量規制をして、日本人も外国人も共生できるようにします」
自民党の連立相手として、国民民主も日本維新も立派に要件を満たしているということだ。公明党との関係を見直す条件が整ってきたのである。高市氏の前にはさまざまな選択肢がある。自民党再生、そしてわが国の再生の為に、高市氏には党内人材を十分に活用し、日本らしい国を創ってほしいと思う。
