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2025.09.04 (木)

「 日韓首脳会談を評価できない訳 」

『週刊新潮』 2025年9月4日号
日本ルネッサンス 第1161回

8月23日、東京で日韓首脳会談が行われた。新聞、テレビはおおむね好意的に評価した。これまで度々わが国を「敵国、敵性国家」と非難してきた「共に民主党」前代表の李在明氏ではあるが、大統領となって初の外遊先に日本を選んだり、歴史問題で烈しく日本を非難してきたのに今回は歴史に全く触れなかった点などが、氏が未来志向に変化したことを示すと判断したようだ。

17年ぶりに発表された日韓首脳会談のまとめの文書は歴史問題を取り上げていない。首脳会談で石破茂首相は歴史問題に関して「歴代内閣の立場を全体として引き継ぐ」と語り、過去の首相らの謝罪とともに、安倍晋三総理による、謝罪は自分たちの世代で終わったとの主張を引き継ぐ立場を表明し、韓国側が期待していた石破氏による新たな「謝罪」はしなかった。

朝鮮半島問題専門家の西岡力氏によれば、李氏訪日の前、韓国世論の論調はあくまでも歴史に対する日本側の謝罪を求めるものだったというのだ。西岡氏が語る。
「韓国で主流の意見は、歴史問題で日本からカネを取ろうとは思わない、しかし気持ちの問題は残っているというものです。従って李在明政権は石破首相に謝罪してほしい、と考えています。その点については、彼を支える左翼勢力はきわめて強硬です」

それでも李氏は石破氏が謝罪しなかったことを咎めなかった。

終わってみれば日韓双方が無難な選択をしたことになる。なぜ、それが可能だったか。石破、李両首脳が外交を不得手とすること、両氏ともに目的はあくまでも保身、つまり己れの政権を守ることであり、そのためには如何なる妥協も厭わなかったからであろう。
 
李氏は国内の極左勢力を政治基盤とする、殆ど海外に行ったことのない韓国土着タイプの政治家だ。元産経新聞ソウル特派員で朝鮮半島問題専門家の久保田るり子氏は、李氏は米国訪問も恐らく今回が初めてで、外交を理解できていないため、およそ全て外交官に頼り切りだと指摘する。

真実の姿

その言葉どおり、主要ポストの多くに外交官が就いた。国家安全保障室長は元駐ロシア大使の魏聖洛氏、外相は外交官出身の趙顕氏、駐米大使も駐日大使も同様だ。韓国の外交官らは李氏の左翼ぶりが欧米諸国で厳しく見られていることを恐らく実感しているだろう。ここでまた、歴史問題で日本と揉めることは避けたい、日韓基本条約まで否定しかねない李氏の主張は控える方が韓国の国益だと、外交官らは分かっており、その考えを李氏が容れたということではないか。

他方、石破氏も自らの党内基盤が脆弱極まることを自覚している。その状況下では石破氏自身の主張を貫くよりは官僚たちの敷いた路線を歩む方が安全だということも知っているだろう。それでも石破氏は15日に戦争を反省すると語った。が、それ以上に踏み込むことはなく「謝罪」は口にしなかった。

日韓両首脳は主義主張や信念よりも、自己の地位の安泰を重視していること、外交能力を欠いているために周囲の意見や空気に従ったことが、歴史問題を表面化させなかった要因だと、私は思う。

このような結果を見て、「読売新聞」他主要紙は24日付けで「日韓『未来志向で発展』」というような見出しで報じた。李氏が日本側の危惧していた歴史問題を持ち出さず、石破首相もこれまた危惧されていた「謝罪」を口にしなかったことを受けての評価だ。

しかし、このような評価は安易に過ぎる。李氏の真実の姿を知るには氏の歩みを辿る必要がある。氏はソウル近郊の城南市の市長から政治のキャリアを始めた。久保田氏は、城南市は親北朝鮮勢力の拠点のひとつであり、ここで李氏は金日成氏の主体思想を奉じる極左の政党の支持を得て市長選を勝ち抜いたと指摘する。ちなみに彼らは後に統合進歩党を結成するも、朴槿恵政権によって解散させられている。このような極左勢力に支えられて李氏は力をつけ、京畿道知事を経て中央政界に昇り詰めた。

久保田氏が今回の日韓首脳会談は論評に値しないとしてさらに語った。

「8月15日、李氏は曹国と尹美香の2人を恩赦で解放しました。元法相の曹国は文在寅左派政権を支えた左翼学者で運動家です。彼は昨年12月、子供の不正入学をめぐり懲役2年の刑で刑務所に収監された。尹美香は慰安婦のおばあさん達のお金を騙し取って8件の詐欺横領で有罪になった女性で、事実上北朝鮮の代弁者です。李氏はこの2人を特別赦免にして、過去の前科もすべて消してやったのです」

久保田氏の指摘は続く。

「いま世界中で李在明氏を喜んで相手にしてくれるのは石破さんくらいなもので、他の国々は殆ど相手にしません」

指導者の資格を欠く人物

李氏は訪日後、米国に向かった。米国との関係については、韓国民の多くが国の命運を左右する最重要基盤だと認識しており、李氏も米国を大切にしなければならないこと、その延長線上で日本との関係もおろそかにできないという認識は持っていると、久保田氏は指摘する。

米国で氏を待ち受けるのはトランプ政権による冷たい対応であろう。大きな問題は、⓵関税・投資、⓶韓国駐留米軍である。⓶に関して今、韓国と米国の間には思惑の相違がある。日本および台湾の安全保障に大きな影響を与える同件で鍵になるのが、戦略的柔軟性という考え方だ。

台湾有事のとき、中露北朝鮮は必ず連携する。昨年7月25日、中露の爆撃機4機がアラスカの防空識別圏(ADIZ)に侵入して、米国とカナダの戦闘機が排除した。同件に見られるように中露は北極圏における連携を始めているのだ。

元陸上幕僚長の岩田清文氏が説明した。米本土から数百機の戦闘機を台湾海峡に飛ばすとしたら、最短航路はアラスカ上空、ベーリング海峡を通る道だ。しかしここにロシアが制空権を確立しようとしており、中露の合同訓練はベーリング海上空をおさえるのが目的だと考えられる。

台湾有事の場合、日米台は緊密に協力し最大限の軍事力で中露を阻止しなければならない。ベーリング海峡を彼らにおさえられてしまえば、米軍の本土からの展開は阻止されかねない。その際、台湾海峡に向かうのは在日米軍プラス在韓米軍になる。

在韓米軍2万8000人の一部を台湾防衛に振り向けることが必要になるが、韓国はこれまで在韓米軍はすべて韓国防衛の為だとしてきた。米国は戦略的柔軟性が必要だとして韓国駐留軍の一部、数千人を台湾有事に振り向ける必要性を強調する。

米韓協議は直接わが国の安全に関わる事案であり、目が離せない。こんな危機の局面で日韓両国は揃いも揃って指導者の資格を欠く人物をトップに据えているのだ。

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