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2024.11.14 (木)

「 米中台、全方位で極まる石破戦略の愚 」

『週刊新潮』 2024年11月14日号
日本ルネッサンス 第1122回

11月4日、国家基本問題研究所の会員の集いで日米新政権の課題を論じた。そこで経済アナリストのジョセフ・クラフト氏が石破茂首相の急所をついた。余りの馬鹿々々しさに日本国内では重視されなかったが、米国を強く刺激した石破氏の論文「日本の外交政策の将来」についてである。これは9月27日、自民党総裁となった氏がその直前に米国のシンクタンク、ハドソン研究所に送った主張だ。クラフト氏が指摘した。

「同論文は米国ではとても重視されています。その内容に驚き、このような考えの人をまともに相手にしてよいのかと皆が疑っています」

石破氏は誰が大統領になろうと早めの首脳会談を希望しているが、米国側は石破氏に会うことに価値があるのかと疑っているわけだ。石破政権の寿命にも当然、強い関心を寄せているはずだ。国内では予算成立の来年3月末までは石破氏に政権を担当させるしかないが、その後は新しいリーダーを選ぶべきだという声は少なくない。仮に6か月の短命内閣に終わるのであれば、米国側が首脳会談に応じない可能性もあるだろう。

クラフト氏が語る。

「日本のトップリーダーとなった石破氏の外交政策論文は米国の安保外交政策の批判から始まっていました。ウクライナがNATO加盟国でないから、米国は助けない。今日のウクライナは明日のアジアだ。中国抑止には、アジア版NATOが必要だ、との石破氏の論理は非常に短絡的です」

石破論文にはこう書かれている。

〈国連憲章51条により、「被攻撃国から救援要請があった場合に国連安保理の決定がなされるまでの間、集団的自衛権を行使することができる」というのは、すべての国の権利である。それはウクライナがNATO加盟国ではないからと否定されるものでないのであるが、米国はそのような行動はとらなかった〉

このように米国をなじった上で、〈中国を西側同盟国が抑止するためにはアジア版NATOの創設が不可欠〉だと断じた。

米国の役割を否定

次は世界情勢についての指摘だ。

〈最近では、ロシアと北朝鮮は軍事同盟を結び、ロシアから北朝鮮への核技術の移転が進んでいる。北朝鮮は核・ミサイル能力を強化し、これに中国の戦略核が加われば米国の当該地域への拡大抑止は機能しなくなっている〉

それを補うために日米同盟をハブ(中核)として、アジア版NATOに発展させよと提言したが、中国への表立った敵対姿勢は今、最大限に避けるべきものだ。また米国の力だけでは抑止できないと断ずるのも、それをアジアの集団安保で補うというのも、米国の役割を否定するものだ。米中双方を不要に怒らせるのが石破案である。

自民党は石破戦略を政務調査会に預けて事実上凍結した。当然だ。中国抑止の集団安保の枠組みを提唱しても、肝心のときに自衛隊は憲法上戦えない。他方、中国を敵・脅威と位置づけるアジア版NATOに加盟しようというアジア諸国もいない。中国を恐れ、摩擦を回避したいのがアジア全体の空気だ。

石破氏は余りに知らない。防衛問題に強いと自負するが、氏の知識や理解は、石破構想の馬鹿々々しさをすぐに見てとった一般国民よりも浅かったということだ。

政権中枢から離れていた10年ほどの間、氏は何を勉強していたのか。その長い年月、ただ国民の税を食(は)み、無為にすごしたのか。そんな政治家は要らないのである。

日本が全叡智を結集して考えるべき安全保障政策は中国の脅威への向き合い方である。石破氏のように真正面から中国を敵と位置づけて多国間の枠組みを作る発想ではなく、まず第一歩は外交において条約や国際法の枠内できちんと対処することだ。

日本人学校児童殺害事件、日本人の不当拘束事件、水産物輸入停止、領海領空侵犯などについて、日本政府は日本国としての憤りを十分に伝えていない。一連の事案に関してもっと怒り、言葉だけでなく行動で示すことだ。

たとえば日本人を不当に拘束する中国に、現在のわが国には打つ手がない。中国が日本人をスパイ容疑で逮捕し、不透明な裁判で有罪に陥れる現実は許し難いが、わが国は、日本国民を救い出せないでいる。であれば、日本で跋扈する中国人スパイを拘束し、法によって裁けるように、国際社会では当たり前のスパイ防止法を作ることだ。スパイ防止法がないことがおかしい。中国人スパイを法に則って摘発し、彼らの身柄を取って、日本人を取り戻す一助にすることも考えるべきだろう。このように表の動きは法治国家として国際法や条約に従って対抗する。同時に水面下では現実的な手を打つのである。

中国が台湾を封鎖

中国が狙う最大の標的、台湾を見てみよう。併合を狙って中国が台湾を封鎖したと仮定する。原発全廃政策の台湾の最大の弱みはエネルギーだ。LNGの備蓄は11日分。尽きれば電力不足に陥る。電力なしには国全体が機能停止に陥る。

日本側からこれを見れば台湾の対日輸出が全面的に止まるということだ。筆頭は半導体であろう。これで、日本のみならず、およそ全世界の製造業が停止しかねない。

だからこそ日本は全力で台湾との協力を強化して生き残る道を探らなければならない。それはいくらでも水面下で可能なことだ。台湾への投資をふやす。日台の安全保障協力体制を強化する。台湾との交流を拡大して、中国の対台湾情報戦で、たとえば有事のとき台湾は孤立無援となる、といったことを打ち消し、台湾人の心が折れないようにする。こうしたことを水面下でもっとやるべきだ。

アジア全体で見れば、実はわが国は一定の役割を果たしている。本年7月の日米の「2+2」で、日米は豪、韓、比、ASEAN、太平洋島嶼国、NATOといった国や国際機構との多国間協力を深化・拡大するための中核となることに合意した。

16年に安倍総理が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FОIP)」の影響は大きく、豪、印、英、仏からは陸軍・海軍・空軍のすべての部隊(戦闘機、艦艇、陸軍部隊)が日本に来ている。独伊からは海軍、空軍の部隊が来て自衛隊と二国間での継続的な訓練・演習が行われている。自衛隊とASEAN各国軍、さらに太平洋島嶼国との連携も進んでいる(『国防の禁句』岩田清文、島田和久、武居智久 産経セレクト)。

すでに日本は数年前から、ハブとしての役割を相当程度、実質的に担っているのである。こうした実態を知らない石破氏はアジア版NATOなどと花火を打ち上げる。しかもそれを8月の訪台時、頼清徳総統に持ちかけた。中国の怒りを買い、中国に侵略の口実を与えるようなことを台湾総統に提案した。愚かさは対米、対台、対中、全方位でここに極まる。クラフト氏の、この人をまともに相手にしてよいのかとの疑問は尤もだ。

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