「 大敗の責任は石破氏自身にある 」
『週刊新潮』 2024年11月7日号
日本ルネッサンス 第1121回
自民党を刷新して党勢立て直しをはかるはずだった石破茂総裁の下、自民党は逆に歴史的敗北を喫した。にも拘らず、石破氏の反応は鈍く、的外れだ。氏は大敗の原因は自分ではなく、他者にあると見做してやまない。
10月28日午後2時からの記者会見で、石破氏は大敗北のおよそ全ての原因を「政治とカネ」問題に帰した。必要以上に丁寧な言葉遣いで氏は語る。それをよく聞くと、石破氏が本質的に「巧言令色鮮(すくな)し仁」の人だと思えてくる。会見では以下のように繰り返した。
「自民党は心から反省しなければならない」「国民の皆様方から極めて厳しいご審判を戴いた」「自民党は反省が足りないと、そのようなご叱責を賜った」。だから「政治とカネについてはさらに抜本的な改革を行う」として、「政策活動費の廃止」「旧文通費(調査研究広報滞在費)の使途公開」、監視機関としての「第三者機関の早期設置」に言及した。
政治とカネについてもっと反省することが大事だと主張した石破氏に、朝日新聞の岡村記者が、与党過半数割れの要因のひとつは間違いなく2000万円問題だと指摘し、党総裁として責任を取るという考えは全く思い浮かばなかったのかと問うた。
私は今回東京24区に複数回入って状況を見ていたが、2000万円問題で情勢が一気に悪化したのを現場で実感した。朝日の記者の問いはもっともだと思う。だが、石破氏は強い口調で言い訳し、自分たち執行部の責任は認めようとしなかった。
「これ(2000万円)は政党支部に対して支出したもので、選挙に使ってはならない資金だ。(政党支部には)自民党の政策を広報する役割があり、そのための支出で、何ら法的には問題がない。ただ、支援の仕方については強く反省するところがある」と石破氏。
無能力者集団の決定
これは説明になっていない。今回、政治とカネの問題で大敗したのだと、不記載議員を責めておきながら、選挙戦の真っ只中に2000万円を、非公認とした不記載議員の支部に振り込むなど、正気の沙汰ではない。世情も庶民の心も全く理解していない現実離れの無能力者集団の決定であろう。結局石破氏ら党中枢が不透明な政治資金の流れをダメ押しで作り出したのだ。だが、石破氏は自分の過ちや責任は一切認めないどころか、責任を問われると、先述したように強い口調で反論するのである。
別の記者が自民党は来年の参院選挙も石破氏の下で闘うのかと尋ねた。面白い質問ではないか。つまり、石破政権は短期政権で、たとえば予算案を通したあと、来年の3月にも辞任し、7月の参院選挙は別の人物、たとえば高市早苗氏や小林鷹之氏ら若手の人材に託すつもりはないのかという問いだ。惨敗総裁の石破氏に参院選挙の顔になる資格はあるのかと問うてもいる。
回答がふるっていた。「真摯に誠実に」「謙虚に誠実に」「国民の皆様方がどのように受け止められているのか」「国民の皆様方のお気持ちに沿って」「国民の悲しみとか怒りとか」「そういうご理解なくして選挙ができるとは思っておりませんので、ご理解を得るべく最大の努力をしていくということに尽きます」というのだ。
回りくどいことこの上ない。丁寧な言葉を羅列して、結局石破氏は、来年7月の選挙も自分が仕切ると言っているのだ。だがそれで了承する自民党議員はいるのか。再び石破氏の下で選挙をしようと思う議員がいるとは、私には思えない。
会見での石破氏の発言は、自民党総裁として歴史的敗北の責任を取るつもりは全くないと言っているに等しい。だが、これは大きな自己矛盾だ。2007年、自民党が参院選で大敗したとき、安倍晋三総理(当時)は続投を表明した。そこに石破氏が立ち塞がった。「選挙に負けたのに続投するのは理屈が通らない」として、辞任を求めた。
当時の状況が『安倍晋三回顧録』(中央公論新社)に記されている。
「政権選択の選挙は衆院選ですから、参院選で首相が交代していたのでは、政治が安定しないと思ったのです。野党からではなく、仲間から、しかも多くの議員の面前で辞めるように言われたのは精神的に苦しかった。ですが、この局面ではやり続けなければいけないと考えていました」
今回自民党は衆議院で56議席を失って191議席に激減した。公明党と合わせても215、過半数の233には届かず、野党の合計の方が多い。まさに政権選択の選挙に敗れたのだ。石破総裁の辞任は当然だ。小泉進次郎選挙対策委員長の辞任で済む話ではない。
自民党の賞味期限切れ
にも拘らず、石破氏は会見で、賃上げなどこれから実現する政策について延々と語り続けた。続投の意思表示だ。来年の参院選挙も自分の手で行うつもりなのだ。これを厚顔無恥という。古来、恥を知る日本人は決して石破氏のような振舞いはしない。安倍総理に退陣を迫ったのであるから、石破氏は誰に言われずとも退陣するのが正しいのである。
今回の大敗についてフェアな視点で見れば、岸田前首相と石破氏が野党の土俵に上がって政治とカネの問題を増幅したことに加えて、2つの大きな原因がある。第一は自民党の賞味期限切れが近づいていることだ。これには岸田前首相に大きな責任がある。第二は石破氏が発散する古カビにまみれたような政治観だ。
まず自民党の賞味期限問題だ。岸田氏は安倍氏に扶(たす)けられて総裁となり、安倍路線を継承すると誓った。当初は高い支持率に恵まれ、選挙をしなくても済む黄金の3年間を歩み始めた。順調な滑り出しの中で現在の日本にとって最重要の憲法改正、皇位継承安定化のための法整備を忘れてしまったのか。岸田氏は黄金の3年間を活用せず無為に過ごした。
そこに突如、政治資金不記載問題が発生。明確に処理する機会は複数回あったが、ズルズルと引き延ばして逆に傷口を広げた。岸田氏の問題対処能力の欠如が明らかになった。
日本の国柄を大事にし、自立国家として甦らせることを目指した安倍総理の気持ちをつないでいく姿勢を見せない岸田氏から保守層が離れていったのは自然な流れだった。保守層の気持ちをきちんと掬い上げなければ、自民党は本当に賞味期限の切れた政党になり果てるだろう。これがポスト・石破政権の重要な課題となる。
大敗のもうひとつの原因は石破氏本人にある。氏のだらしない佇まい。総裁選の時はもとより、首相になってからも聞く者をウンザリさせるその時々で変わる発言。批判されるや即反応して世論に従う信念のなさ。こんなことでトランプ、プーチン、習近平各氏らと渡り合えるとは到底、思えない。リーダーが最も忌避しなければならない資質ばかりが目立つのが石破氏だ。私は氏は出来るだけ早く辞任し、高市氏や小林氏らに道を譲るべきだと考える。