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2024.07.11 (木)

「 ウ戦争、敗北の危機にあるのは我々か 」

『週刊新潮』 2024年7月11日号
日本ルネッサンス 第1105回

安倍晋三総理が暗殺されて2年が過ぎようとしている。1人の政治家がいなくなっただけで、こんなに世の中が不安定になるのか。この1~2年の日本社会の、否、国際社会全体の混乱振りが安倍氏の存在の大きさを痛感させる。

世界戦略と安全保障の視点から、安倍氏が常に警戒していたのが中露の結びつきだった。右の両国が緊密な関係を築くとき、日本も世界も最大の危機を迎える。だから安倍総理はなるべくロシアをこちら側に引き寄せようとした。中露が接近する時期を遅らせ、その間に日本は憲法改正を実現し、自衛隊を国軍とし、力をつけたいと考えていた。

だが、中露関係は想像以上に緊密化し、中国のロシア支援は全面的かつ徹底したものとなり果てた。結果として、私たちはウクライナ侵略戦争で敗北か、という瀬戸際に立たされている。悪夢だ。なぜならそれは力による現状変更が定着することを意味するからだ。国際法は踏みにじられ、歴史は書きかえられ、人命は軽んじられ、中国の台湾侵攻の危険性が高まり、日本も台湾も中国の強い脅威に晒されるということだ。

シンクタンク「国家基本問題研究所」の総合安全保障研究会はそのような状況が迫っていることを明らかにしてきた。同研究会の共同座長、元陸上幕僚長の岩田清文氏が語る。

「私たちは中露接近に加えてこの両国と北朝鮮、イランの新『悪の枢軸』の脅威に真剣に向き合わなければなりません。彼らは実質的な同盟関係を構築し、一致団結して我々に挑戦してきます」

4か国の脅威に、米国単独では対処できない。欧州と日本は米国に頼るのではなく、米国と助け合い、共に対処するのだ。岸田文雄首相が4月11日、米上下両院合同会議で語ったように、日本は米国と肩を並べて応分の働きをすべきだ。米国、欧州そして日本が直面する脅威を岩田氏が具体的に語ってみせた。

「まず攻撃に使われる自爆ドローンです。戦略国際問題研究所(CSIS)の調査では去年の4月から6月の3か月間にロシアが使用した自爆ドローンの58%、数にして約4600機がイラン提供のシャヘド136でした。同じくCSISの調査で北朝鮮はロシアに100万~230万発の榴弾砲、弾道ミサイル約50発も供給しています」

露朝は6月19日に「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、ロシアが技術、食料、エネルギーを供給、見返りに北朝鮮が改善改良した弾薬、ミサイルを供給することになると見られる。北朝鮮はロシアのための武器装備生産拠点になるわけだ。

朝鮮問題の専門家、西岡力氏は5月段階で北朝鮮が約1000人の工兵部隊を私服姿でロシアに派遣済みで、これを1万人にまでふやす予定だと指摘する。訪朝を渋っていたプーチン氏が6月19日に重い腰を上げて平壌に行ったのは、プーチン氏の求めていた派兵に金正恩氏が踏み切ったからだと見られている。

新「悪の枢軸」諸国

だが、北朝鮮やイランよりはるかに強力な支援を実行しているのが中国だ。中国の助力があって初めてロシアはウクライナ軍の反転攻勢を阻止できていると言ってよい。ロシア軍はまず、ウクライナ軍の前進を阻むためにコンクリート製の対戦車障害物をばらまき、次に塹壕を掘り、その上に何十万個もの地雷を敷設した。岩田氏の説明だ。

「中国のロシアへの塹壕掘削機輸出が2022年9月から前年比で4倍以上に急増しています。この時期はロシアが塹壕掘りを急ピッチで進めていた時期と重なります。凄まじい速度でやり遂げましたが、中国の機材提供を受けて初めて可能でした。ロシア軍が敷設した地雷数十万個は我々の考える地雷敷設密度の10倍を軽く超えています。これではウクライナの反転攻勢は困難です」

火薬やロケット弾の推進剤となるニトロセルロース、ターボジェットエンジン、集積回路、ボールベアリング、工作機械などの軍民両用部品を中国がロシアへ大量に提供していることも判明済みだ。

財政面でも中国はロシア支援を実に巧妙な形で継続中だ。以下はかねてより指摘してきた点だが、ロシア産原油の価格は西側の制裁を受けて国際相場よりも安くなっており、インドはロシアの足下を見てさらに安く買い叩いている。他方中国は相場より高い価格で買い続けている。

国基研企画委員の田村秀男氏によると、22年3月から24年5月までの累計で、中国は国際相場比で18%も高く買っている。18%分は204億ドル(約3兆600億円)に相当し、ロシアのウクライナ戦費の40%以上を占める計算になる。中国はロシアへの援助はしていないと主張するが、戦費の40%以上を事実上肩替わりしているのであるから、中国の説明は完全な偽りだ。

このようにしてロシアは必要な資材、武器弾薬、装備、資金を新「悪の枢軸」諸国から入手し続ける。

中国が最も恐れている手

もう一点、西側諸国はロシアの物的能力が侮り難いことを忘れてはならない。ウクライナはロシア軍の兵力の90%近くを壊滅させたが、ロシアは損失を補い、軍需産業を約3倍に拡大させた。戦車乗りだった岩田氏が説明する。

「ウクライナ侵攻前、彼らは2927両の戦車を持っていました。今回の戦争で失った戦車は約3000両に上りますが、軍需産業の規模拡大によって現在1750両を保有しています。彼らは生産態勢の大幅拡大で年に200~300両を作り、古い戦車の修理でも年に300両程調達できます。我々は追いつけません」

砲弾の生産でロシアが年産210万発、北朝鮮が230万発で計440万発。対して米国は40万発、欧州が140万発、チェコなどが50万発で計230万発。440万対230万で西側はその差を埋めきれない。

兵についても、ロシアは日々、1000人ずつ失っている。死者は1年で36万人にも達する。このような犠牲に西側は耐えられないが、プーチン氏は全くひるまない。

こうしたとんでもない状況の下で西側の私たちは敗北するかもしれないのだ。この事実を岸田首相以下全ての政治家が世界の事実として認識せよ。国民に世界の実情を知らせ、対策を考え出せ。

問題の元凶は中国だ。中国を牽制するには彼らが最も恐れている手を打てばよい。それは軍民共用の物資、石油などの対露貿易決済に携わる中国の大手商業銀行に対し、ドル取引を打ち切ることだ。田村氏のこの指摘こそ正しいと私は思う。

バイデン米大統領はその影響の大きさに尻込みするだろうが、岸田氏は強く進言するのがよい。日米欧が協力して軍事関連産業を拡大強化していく国際的枠組みも必要だ。だが、こうした提言をするには、わが国が憲法改正をやり遂げ、一人前の国であることを証明しなければならないのは自明の理であろう。

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