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2023.05.25 (木)

「 岸田外交、面子優先で国益損ねるな 」

『週刊新潮』 2023年5月25日号
日本ルネッサンス 第1049回

岸田文雄首相は本誌発売日の5月18日に広島でバイデン米大統領と首脳会談を行い、翌日からは先進7か国首脳会議(G7サミット)を主催する。世界大激変の真っ只中で岸田首相の1年半における外交の成果が問われる。

吉田茂、岸信介、安倍晋三の三首相の外交・安全保障政策の延長線上に自らの安保政策を位置づけて、安倍氏の路線を引き継ぐと語り続けてきた岸田氏だ。安倍氏は自由で開かれたインド太平洋(FOIP)戦略や日米豪印(Quad)の枠組み、環太平洋経済連携協定(TPP)を提唱、もしくはまとめた。

岸田氏の安保・外交戦略はよく見るとその足下から不安材料が顔を出している。国際基督教大学上級准教授の近藤正規氏が5月12日、国家基本問題研究所で警告した。

「たとえば3月1日、20か国・地域(G20)の外相会合です。主催国のインドは南の大国としての存在感を内外に訴える好機ととらえて、50を超える都市で200以上の催しものを企画しました。しかし、インドの意気込みは中露の抵抗で潰され、共同声明を出せなかった。前年のG20で議長国のインドネシアが何とか議長声明をまとめたのとは対照的でした」

このときわが国の外相・林芳正氏はG20外相会合を欠席し、日本でも批判された。インド政府は林氏の欠席を「日本の国会の非常に重大な事情による」と発表したが、林氏が参議院予算委の審議でわずか53秒間発言しただけだったことはすぐに露呈した。

ウクライナ戦争の真っ只中で、中露も参加して開催される国際会議ではウクライナ戦争、中国の対露支援、東・南シナ海問題などが議論される見通しだった。そんな重要な会議にアジアの大国、日本が欠席して責任が果たせるのか、何を考えているのかと質されるのは当然だ。

インド主要紙のヒンドゥスタン・タイムズが「日本の信じられない決定がインドを動揺させている」と報じ、経済紙エコノミック・タイムズは「日印関係に影を落とすかもしれない」と報じた。批判を受けて林氏は急遽、インドに飛んで3日のQuadに参加したが、これは逆にインド側の否定的な反応を招いた。

中国を怖れている

近藤氏の指摘だ。

「インド政府、とりわけジャイシャンカル外相は、日印関係はQuadと対中戦略構築にとどまらないと考えています。彼らは幅広く、深い関係構築を日本側に求めていますが、今回の林氏の対応で、そのようなインドの考えを日本が理解できていないことが曝け出されました」

ウクライナ戦争に関してインドは、中露両国に決して明確な非難はしない。ロシアとは旧ソ連時代から軍事面で深い関係がある。インドがロシアに頼ってきた理由に、中国がインドとの3800キロメートルに及ぶ長い国境係争地を幾千回も侵攻してきたという現実がある。中国は、インドに敵対的なパキスタンを支援してきたが、米国は必ずしもインドとの関係を重視はしなかったという事情もある。

そしていま、インドは、国際紛争など深刻な問題を抱えているにも拘わらず、巨大な中国との関係を後退させることはできないと考え、中国を怖れている。

複雑な事情を抱えるインドとつき合うには注意深い観察が必要で、日本がどれだけ熱心に中国包囲網的な発想を説いても無理なのだ。敢えてインドの外交を単純化すれば、彼らは中露との良好な関係を求めており、同時進行で日本とも良好な関係を求めている。米国などとの良好な関係はその次に求めていると言ってよいだろう。

インドがロシアの安い原油を大量に買うなどしていることから、現在のインドに対する印象は日本でも悪化しつつある。しかし、日本が留意するべき点は、➀インドは民主主義の国である、➁歴史的にわが国とよい関係にある、➂パキスタンとは異なり核の拡散をしてこなかった、などの点だろう。

日印関係はQuadと対中抑止枠だけではないとするインドの考え方は、わが国がインドに対して甘い期待ばかり抱いてはならないということである。同時にインドを日米の陣営に幾分なりとも引き入れることが日米双方の国益であることを意識したい。その意味で林氏の外交は大失敗なのである。

林氏の訪印から2週間半後、今度は岸田首相が訪印した。氏の外遊は、インド訪問よりも直後のウクライナ訪問に光が当てられ、インドの存在感は打ち消される結果となった。

岸田氏の訪印自体が突然の提案だった。政府がインド側との日程調整に入ったと共同通信が報じたのは3月3日である。近藤氏は語る。

「計画が余りにも急だったので、共同声明も出されない異例の首脳会談になりました。日本外務省は最初から共同声明なしで、とインド側に呼びかけたのではないでしょうか」

目隠し作戦だった

泥縄式に整えられた首脳会談だったのだ。それを受けたインド側の対応も冷たかったと近藤氏は指摘する。

「第一に歓迎食事会やレセプションがありませんでした。岸田首相とインドのモディ首相はデリーのブッダ生誕記念公園で、よく庶民が食べるスナックを片手に立ったまま、わずか50分程対話しただけです」

両首脳はガンジーの墓を訪問したが、同行したのは副大臣クラスにとどまった。岸田氏はインド世界問題評議会(ICWA)で講演したが、ここは温家宝氏ら中国の首相も演説した場所だ。他方、安倍氏は2007年8月、「二つの海の交わり」という歴史に残る演説をインド国会で行っている。日印間の交流の歴史を丁寧に辿り、岸信介首相のインド訪問の意義をアジアの団結という大きな枠につなげ、現在と未来における日印関係の発展が両国と世界にとっていかに重要であるかを説く内容だった。同演説を起点に日印関係の強化が進み、FOIP、Quadへのインド参加につながったと考えてよい。

国会と一シンクタンクでの講演同じ首相なのに差がついた原因は、インド側ではなく日本側にある。インド側は、岸田氏の訪印は明らかにウクライナ訪問のための目隠し作戦だったと、受けとめたのだ。首相はG7首脳の中で自分だけがウクライナを訪問しないまま広島サミットに臨みたくないと考えたのであろう。ウクライナ訪問自体はよい。しかしそのためにインドを「利用」した印象を与えたことは外交上の失態と言える。

今後、ますます高まるであろうインドとの連携の重要性、その中長期的・戦略的重要性を過小評価し、ウクライナ訪問で自身の立場を見映えよくすることを優先するかのような外交は安倍路線の継続とは言えない。安倍氏は日本の国益を中長期的に考えた。その心をこそ、岸田氏は受け継ぐべきだ。

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