「 統一教会問題、報道の責任を問う 」
『週刊新潮』 2022年9月22日号
日本ルネッサンス 第1016回
9月13日、「朝日新聞」は1面で「岸田内閣支持 最低41%」と題し、不支持が47%となり初めて支持・不支持が逆転したと報じた。世論調査から読みとる内閣支持率低下の原因は、➀安倍晋三元首相の国葬、➁旧統一教会をめぐる対応のまずさ、だと朝日は解説した。
岸田文雄首相が国会で行った説明は不十分で、自民党による党所属国会議員と旧統一教会との関係についての調査も「疑念」を晴らすには至らなかったと、朝日は切り捨てた。
私は「モリカケサクラ」についての朝日の狂騒曲のような報道を思い出した。どんなに説明しても「納得がいかない」「不十分だ」と責めるのだ。しかし、朝日をはじめとする報道機関がもう少し公正で客観的な報道さえしていたら、そもそもこんな状況は生まれていないと私は考えている。だからこそ、朝日は岸田氏を批判する前に、自らの過去の紙面を検証して、統一教会の犯罪事実の実態を掘り下げて正しく伝えることだ。
志半ばで暗殺された安倍総理は一番の被害者だ。そのいたましい死を悼むこともせず、朝日は心ない「貶め報道」に走る。他の論者も安倍氏や自民党が統一教会と「ただならぬ関係」(後藤謙次氏、『週刊ダイヤモンド』9月10日号)にあったなどと、具体的根拠も示さずに非難する。
再度強調したい。朝日をはじめとするメディアは統一教会による霊感商法などの違法かつ反社会的犯罪が現在も続いているのか調べ、続いているのならその実態を事実をもって示す責任を果たすことだ。その調査報道は少なくとも、第一次安倍政権に始まり、福田・麻生政権、続く民主党政権、安倍氏が復権した第二次政権発足から安倍氏暗殺の2022年7月8日までを対象とすべきだろう。
だが、巨大メディアはこのような基本的調査をしていない。そこで旧統一教会の犯罪について、報道を辿って調べてみた。対象は朝毎読日経産経と東京・中日の6大全国紙だ。調査期間は先述した期間とした。
統一教会、世界平和統一家庭連合、霊感商法、巨額献金、トラブル、関連イベント等をキーワードに記事を抽出し、霊感商法や売買契約トラブル等の反社会的事案とは直接関係がないと思われる事例を除いて、各紙の各年毎の記事件数を調べた。
全紙でゼロ
それを見ると07年には、統一教会関連会社の社員がパラグアイで身代金目的の誘拐事件に巻き込まれた事案について、各社が数多く報道している。しかしそれがおさまると、09年から10年にかけて教団が印鑑等を売りつける霊感商法事件の記事が突出してふえた。ちなみにこのときの政権は民主党である。
11年以降は霊感商法などを訴えた裁判で教会側に賠償命令の判決が下されたとの内容が報じられているが、各紙の報道件数は激減した。
いま、テレビのワイドショーは統一教会と安倍氏の関係を口角泡を飛ばす勢いで取り沙汰しているが、3年3か月にわたる民主党政権後の12年12月26日に誕生した第二次安倍政権から、22年7月8日の安倍氏死去までの間に出た統一教会関連の記事を見れば驚くだろう。メディアはまるでこの世に統一教会問題など存在しないかのように静かなのだ。
全国紙6紙が12年に報じた統一教会の記事は計4件(産経2件、読売1件、朝日1件)だった。13年は東京・中日が1件のみ。14年は読売、朝日が各々1件ずつ。15年は毎日、朝日が各々1件、16年は産経2、読売2、朝日2だ。17年は朝日、読売、東京・中日が各々1である。
18年、安倍政権の下で消費者契約法が改正され、騙しとられたお金の取り戻し策が強化された。霊感商法も明確な取り締まり対象として法律に盛り込まれた。結果、大きな事件発生はなかったのであろう。統一教会報道は18年、19年の2年間を通じて全紙でゼロだ。20年には産経が1件、21年は読売が1件であとはゼロ。22年は安倍氏死去まで報道はない。
ワイドショーは連日報道を垂れ流し、統一教会と関連団体を邪悪視し、これらの団体と政治家の関係はいかなる形であっても許さないとするかのような姿勢だが、これこそおかしい。そこまで問題の多い団体ならば、なぜメディアはここ何年間も実質的に放置してきたのか。なぜ、事実上全く、報道しなかったのか。
理由は、メディア自身が、統一教会も関連団体も、過去はともかく、今は問題なしと見ていたからではないのか。だからこそいま、統一教会の実態を取材して示す責任がメディアの側にあると思う。
選挙戦術
霊感商法や巨額献金の強要などは決して許されない行為だ。しかしそのような問題行動はすでに法によって罰せられ、反社会的行動はおさまっているのではないのか。メディア報道がなかったのはその結果であろう。ならば政治家、たとえば萩生田光一氏が、日常の政治活動の中で国連が認定しているNGO「世界平和女性連合」と接点を持ったからといって非難するべきことではないだろう。
次に選挙で自民党は統一教会に頼りきりだという指摘もある。教団票は全国で6万から7万票と言われている。今夏の参議院議員選挙で比例代表における自民党の得票数は1825万票余りだった。
6万票が1人の議員を当選させる上乗せ票として必要だったのは確かだろう。かといって自民党が統一教会と「ズブズブ」でその票にふり回されているかのような指摘には疑問符がつく。田原総一朗氏は『サンデー毎日』9月25日・10月2日合併号で安倍氏が「教団票を参院比例区候補の上乗せ票として誰に配分するかの采配をしていた」と論難している。
ベテラン記者、田原氏の指摘、つまり選挙における票の割り振りはどの政党も選挙戦術として行っている。共産党は、立憲民主党と組めば思想信条や長期の国家像について根本的に相容れない点があっても、党員に指示して立憲民主の候補者に票を回す。労働組合「連合」の票に頼る立憲民主党は、どの組合の票をどの候補者に回すのかを、党の幹部らが連合側と相談して決定する。選挙の総責任を負う指導的立場の政治家が票を正確に予測して割り振るのは、どの政党でも当然の戦術である。
安倍氏の国葬儀について、閣議決定だけで法的根拠がないのは憲法違反だと立憲民主党などが反対している。産経新聞編集委員の阿比留瑠比氏が指摘した。
「8月15日の全国戦没者追悼式、東日本大震災十周年追悼式、天皇陛下御在位三十年記念式典、国賓をもてなす晩餐会、沖縄復帰50周年記念式典なども全て、閣議決定だけで別の法的根拠があるわけではありません」(「言論テレビ」9月9日)
立憲民主党の政治家は閣議決定で行われるこれら式典も憲法違反であり欠席すると言うのだろうか。