「 中国擁護の公明党、自民への悪影響 」
『週刊新潮』 2022年1月27日号
日本ルネッサンス 第984回
1月15日、都内で「ウイグルジェノサイドに日本がどう向き合うべきか」という集会が開催された。主催は非営利団体(NPO)の日本ウイグル協会である。会場にはウイグルの人達も含めて数百人が集った。1時間余りにわたって6人の在日ウイグル人の皆さんが自身と家族の置かれている状況を語った。どの人も親や兄弟姉妹、家族の誰かが行方不明になっている。殺害を疑わざるを得ない事例もある。情報が徹底して遮断されているために、肉親の生死の確認さえ容易ではない。
習近平政権が2期目に入った2017年以降、ウイグル人であるという理由だけで弾圧、殺害する政策が強化されている。
会の冒頭、自民党衆議院議員で「人権外交を超党派で考える議員連盟」共同会長の齋藤健氏が挨拶し、1月17日開会の通常国会冒頭で中国政府に対する非難決議の採択を目指すと語った。私たち日本人がウイグル人問題にどう向き合うかは、中国共産党による人権侵害の本質をどうとらえるかということでもある。
習主席は、人類の持つ最新技術を駆使して全人民個々人への監視網を築き上げた。街の至るところに設置されている監視カメラは中国全土で2億台、間違いなく世界トップだ。だがウイグル人などに対する情報収集はカメラによる24時間の監視だけではない。調査報道ジャーナリストのジェフリー・ケイン氏が上梓した『AI監獄ウイグル』(新潮社)には、ウイグル人の家族全員が地元警察によって「健康検査」を強要され、採血からDNAサンプルまでありとあらゆる身体検査で、考えられる限りの個人データをとられる様子が描かれている。個人データは全て中国政府に管理され、行動監視、反政府活動取り締まり、臓器調達などに活用される。国民を徹底的に監視し、コントロールし、中国共産党及び習氏による独裁体制の安定を図るのである。この徹底した一党独裁、専制政治体制を、国内のみならず世界規模で実現するのが習氏の意図だと見て間違いないだろう。
ウイグル人問題はそれにとどまらないということだ。チベット人、モンゴル人問題であり、香港、台湾、沖縄、日本問題なのだ。
埋め難い価値観の相違
習氏は17年10月の中国共産党第19回全国人民代表大会で、建国100年までに中華民族は世界諸民族の中に聳え立つ、人類運命共同体を築き全民族の幸福をはかると語った。
14年には世界インターネット大会を中国主導で開催した。インターネットこそ人民を監視し、取り締まる最強の武器だと見抜き、監視網の構築を急ぐ狡猾さが見てとれる。
20年9月8日には王毅外相が、「グローバルデータ安全イニシアチブ」を提起し、中国政府が地球上のデジタルデータのガバナンスを主導すると発表した。
その1年後、習氏は中国で開催された世界インターネット大会への祝辞で、「中国はデジタル文明によって人類運命共同体の構築を推進する」と表明した。人間、企業、全ての組織、民族、諸国全てに対して、より正確により厳しく監視・管理の網を張るというのだ。全人類が中国共産党の考え方、その秩序の実践を迫られるということであろう。
私たちは香港の民主主義があっという間に消されたのを目撃した。チベット人、モンゴル人が厳しい弾圧を受け、国を奪われ、言語、文化、宗教のみならず、多くの人々が拷問で死に、民族自体が消されつつあることも目撃している。ウイグル人も同じ暴圧の真っ只中だ。中国共産党の暴虐をいま止めなければ、日本を含む周辺国は彼らの考える「人類運命共同体」の下で支配されかねない。
米国も欧州各国も、中国共産党とのこの埋め難い価値観の相違に危機感を抱き、本気で批判の矢を放ち始めた。ウイグル人弾圧をジェノサイド(大量虐殺)と認定したのも、そのひとつである。
日本の国会も中国政府に抗議する段階にきたというのが、冒頭で紹介した齋藤氏の挨拶だった。しかし、状況をつぶさに見ると、わが国の動きは恥ずかしい限りだ。国会は、中国にウイグル人などへの人権侵害に関して抗議し非難するはずだったが、それが実現せずに流れたのが昨年までの動きだ。
この非難決議案が公明党によって徹底的に骨抜きにされた。各党が合意した元々の原案そのものが「新疆ウイグル、チベット、南モンゴル、香港、ミャンマー等」での「人権侵害」を「非難」するとなっており、非難される国として明記されたのはミャンマーだけで、中国は記載されなかったのだ。このこと自体が理解し難いが、公明党はこれでも足りずに、中国に気兼ねした恥ずかしいばかりの文章を出してきた。
百十数種の名誉称号
自民党政務調査会長代行の古屋圭司氏は、昨年12月半ば、公明党の竹内譲氏が修正を入れた縦書きの紙一枚を出してきたと語る。それを私は別のところから入手した。噴飯物である。公明党は「人権」と「平和」の党だと自称しているが、国民を欺いている。
まず、決議文のタイトルを公明党がどのように修正したか。元々のタイトルは「新疆ウイグル等における深刻な人権侵害に対する非難決議案」だったが、公明党は「人権侵害」を「人権状況」に変えた。「非難決議」から非難の二文字を削除してただの「決議」に修正した。
本文で「深刻な人権侵害が発生している」と断定した部分は「深刻な人権状況への懸念が生まれている」と柔らかい表現に直された。
「弾圧を受けている人々からは」支援を求める声が上がっているという件りは、「弾圧を受けていると訴える人々」と変えられた。弾圧を受けていると訴えているけれども、その訴えが本当かどうかはわからないという意味にうすめられたのだ。
原案には以下のように、衆議院としての決意も書きこまれていた。「(人権侵害や力による現状変更を)強く非難するとともに、深刻な人権侵害行為を国際法に基づき、国際社会が納得するような形で直ちに中止するよう」強く求める。「立法府の責任において、深刻な人権侵害を防止し、救済するために必要な法整備の検討に速やかに取り掛かる決意である」。
この二つの文章が全て削除された。公明党は中国の手先かとさえ思う。なぜこんなにしてまで、ジェノサイドと断罪されている中国政府の犯罪行為をボカさなければならないのか。池田大作氏は中国政府や中国の大学などから百十数種もの名誉称号を受けている。日本国民への裏切りはそうした称号と引き換えなのか。
自民党はこんな情けない政党に引きずられている。まるで内容のないこんな決議を国際社会に発表することこそ日本の恥だろう。日本は道徳を重んじ、人道主義を大事にするもっと立派な国だったはずだ。自民党よ、そんな日本を取り戻すために、いま死に物狂いになれ。