「 「台湾有事」への備えを急げ 」
『週刊新潮』 2021年11月25日号
日本ルネッサンス 第976回
「私が総理なら合同訓練も含めて、ガッツリ受けてやりますね。台湾有事が起きたら、明らかに日本の安全にも関わります。台湾にお住まいの邦人保護をどうするのか。放置してよい課題ではありません」
高市早苗自民党政調会長が11月12日の「言論テレビ」で語った。これは米国務長官のブリンケン氏が11月10日、中国が台湾の現状を力によって変更しようとする場合、米国は同盟国と共に対処すると語った件で、日本はどう応えるのかと問うたのに答えたものだ。
インド・太平洋において台湾のもつ戦略的重要性は比類なく高い。米国の台湾を守る決意も固い。ただ、米国は単独で中国と対峙するのでなく、同盟国と共に、と言っている。米国の考えるその筆頭が日本だ。高市氏はそれに対して、自分が総理なら「ガッツリ受ける」と歯切れよく語った。氏はこうも言う。
「岸田総理の口から敵基地攻撃能力という言葉が出た時には本当にびっくりしました。本気で国を守らなきゃいけない、友好国と連携しなきゃいけないと考えて下さっている」
首相の本気度は、自衛隊の力を大幅に強化する為に必要な国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を早い段階で見直す構えであることからも見てとれると、高市氏は強調し、蔡英文政権を「日本がアメリカと一緒に支え守っていくことがもの凄く大事だ」と言う。
ここまでスッキリ回答できるのは、自民党内のおよそ全ての幹部に目を通してもらってまとめた党公約があるからだろう。氏は言論テレビのスタジオに岸田文雄首相の写真が大きく印刷された自民党公約集を持ち込んで、文言を読みながら説明した。
「我々は公約で、『〈自由で開かれたインド太平洋〉の一層の推進に向け、日米同盟を基軸に、豪、印、ASEAN、欧州、台湾など』との連携を強化すると公約しています。台湾の環太平洋経済連携協定(TPP)加盟申請及び世界保健機関(WHO)総会へのオブザーバー参加も応援すると公約しました」
こうしたことを念頭に、「一刻も早く、一日も早く、ひとつでも実行したい。各部会にもフル回転していただいて、官邸に申し入れたい」と高市氏は言う。
「政治狂人」
蔡英文民進党政権を日米が共同で支え、現状維持を目指すことは、台湾の実態としての独立維持を支えることだ。自民党政調会長としての高市氏の発言は重く、また、世界の常識と重なる。
中国側はかねてより高市氏の靖国神社参拝の公約などに関連して「政治狂人」などと非難してきた。台湾に関する発言にも「台湾独立派」を支える許し難い言辞だとして反発するが、氏が日米両政権は蔡英文政権を支持すべきだと強調するのにはもっともな理由がある。中国共産党は「愛国統一力量」、即ち台湾内部の北京支持勢力を増やして、台湾人自らが大陸との統一を願い、統一を実現するような政治の流れを作ることに、凄まじいエネルギーを費やしてきたからだ。共産党は14億人のナショナリズムを利用する。世界第二の軍事・経済力を背景に、2300万人を圧迫する。彼らは手段を選ばず、日夜、工作を仕掛け続ける。
中国共産党の支配が完全に浸透した香港では、民主的な言辞も行動もあっという間に消されていった。台湾が第二の香港にされれば、台北は共産党の圧政に沈んで国防動員法や国家情報法の拠点になってしまう。そんな事態は日本にとっても受け入れ難い。日本への影響は考えるだに忌まわしい。蔡政権を後押しするとの高市氏の決意は、他ならぬ日本のためでもある。
11月9日には米議員団が、それに先立つ3日にはEU議員団も台北を訪問した。台湾は政治的には独りではない。多くの友人がいる。しかし、中国に力による現状変更を思いとどまらせる最終手段は軍事力である。日米台vs.中国で、軍事力のバランスをできるだけこちら側有利に保たなければならない。それには日本単独でも米国単独でも不十分だ。中国に対峙するには日米双方の必死の協力が決定的に必要だ。
10月初旬、台湾海峡上空に中国軍機が実戦を想定したと思われる編制で侵入した。中国政府は5日間で150機もの軍機を飛行させた。かつてない大飛行団の襲来は人々の不安を掻き立てるが、こちら側も日米英仏独加蘭やニュージーランドがさまざまな形で共同訓練を実行している。中国の示威活動を恐れる必要はないのだ。
加えて、自民党の佐藤正久参院議員は、中国はまだ台湾侵攻を実行して成功させるだけの軍事力は整えていないと見る。
「中国による台湾侵攻、即ち台湾有事は二つに分けて考えることが大事です。台湾の領有する島々への侵略が第一。たとえば南沙諸島や東沙諸島の台湾領有の島、或いは金門島や馬祖島などです。第二が台湾本島への侵攻です。習近平氏が来年任期を延長するとして、3期目で小さな離島は取れるようになると思われます。しかし本島への侵攻はまだ無理だと考えます」
有事は必ずやってくる
習近平国家主席は来年秋、任期を延長できるか否か、大きな山を乗り越えなければならない。2期で後継者に政権を渡してきた慣例を破って異例の3期目に入るからには、毛沢東もできなかった台湾統一を実現しなければならず、従って台湾侵攻はあり得るという見方がある。
だが佐藤氏の指摘のように、中国は軍事的にまだ十分な力を構築していないという見方がある。異例の任期延長に加えて党主席制度を復活させるとの情報もあるが、このような重大な制度変更を成功させるには、国内政治において非常に注意深い策を巡らし、間違いなくやり遂げなければならない。台湾略奪の暴挙に出る余裕はないとの見方も成り立つ。
であれば、私たちは全力で日本の国防力を強化し、あらゆる対策を講じる時間を持てるのではないか。佐藤氏が語る。
「台湾有事が予測されれば台湾を助けるのは勿論ですが、いち早く、台湾在住の日本国民を救出しなければなりません。台湾有事は日本有事ですから、日本国内の与那国、竹富、石垣、宮古などの住民を保護し、避難させる手段も確保しなければなりません。万単位の住民の避難には、現時点でインフラが不足です。港は小さく空港の滑走路は短いなど、対応できていません」
有事の際、中国は間違いなく沖縄諸島を攻撃するだろう。中国が狙う第一列島線の支配を阻止するためにも、いま沖縄にこそ手厚く自衛隊を配備し、軍事施設を充実させることが大事だ。中国の台湾侵攻の時期は特定出来ないが、有事は必ずやってくると心得て現実を見つめ、準備して初めて中国を阻止できるのだ。