「 立民・共産一体化の危険を見逃すな 」
『週刊新潮』 2021年10月28日号
日本ルネッサンス 第972回
10月31日の衆議院議員選挙を立憲民主党などは「政権選択選挙」だと言う。自民党幹事長の甘利明氏は「自由民主主義の政権と、共産主義が初めて入る政権のどちらを選ぶのかということだ」と言う。自由民主主義か共産主義かの「体制選択選挙」だというのだ。どう見ても甘利氏の主張が正しいだろう。
日本共産党は立憲民主党の政権が誕生した暁には、部分的とはいえ「閣外協力」で政権に加わる条件で選挙協力を進めている。成功すれば、日本の政治史上初めて、共産党の政権参加が実現する。彼らの言う閣外協力とは何か。10月15日、「言論テレビ」で、自民党政調会長の高市早苗氏が説明した。
「前回選挙の時、共産党は凄い運動量でした。今回立憲民主党は共産党の運動員を無料で貸してもらう、票ももらう。となると、実際に政策を実行する段階では、言い分を聞かないわけにはいかなくなります。段々、一体化していく。閣外協力は内閣の中に大臣を入れないけれども、様々な国会での採決などでは同じ行動を取るということですから、事実上、立法府の中で一体化した勢力になるということです」
立憲と共産党が事実上一体化する今回の選挙協力は、立憲が共産党に呑み込まれる第一歩となるのではないか。それはかつて共産党が社会党に仕掛けた戦術を見れば明らかだ。『日本における人民民主主義の展望』という小冊子で伊藤律が、社会党を乗っ取る「社共合同論」を書いている。また共産党は社会党内に工作員を送り込み社会党を食い荒らしていた(『こんなに怖い日本共産党の野望』梅澤昇平、展転社)。
現在、立憲と共産党は289小選挙区のうち220で候補者を一本化した。共産党は比例区で850万票以上、15%以上の獲得を目標としてきた。今回、それらを横に置いて背水の陣を敷いた。2018年、志位和夫委員長は「本気の共闘、やろうじゃないですか」と語ったが、共産党は今回の選挙に賭けたのだ。
皇室をなくしてしまう
事実上一体化するにしては立憲、共産両党は大事な政策で全く合致していない。たとえば国防政策だ。共産党綱領には、日米安保条約の「廃棄」がはっきり謳われている。「アメリカ軍とその軍事基地を撤退させる。対等平等の立場にもとづく日米友好条約を結ぶ」「いかなる軍事同盟にも参加せず、非同盟諸国会議に参加する」とある。
日米安保条約を廃棄し、軍事的要素のない「友好条約」に日米関係を落とし込むのであるから、当然、日本の安全保障政策は大混乱に陥る。
さらに自衛隊について共産党は「憲法第9条の完全実施に向かっての前進をはかる」と綱領に明記している。
憲法9条第2項は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」というものだ。文字どおりに受けとめれば自衛隊は解消ということになるだろう。9条の完全実施を謳うことで自衛隊はなくすと言っているのだ。
折しも中国が極超音速ミサイルの地球周回に成功し、攻撃目標は外したけれども、南極圏から米国を攻撃する道筋をつけたとの報道が世界を駆け巡った。中国が果てしない軍拡を実施する中で、わが国は憲法9条に縛られたまま、日米同盟に依存し続けざるを得ない。米国との協力があって初めて国土、国民を守り得ているが、共産党は日米同盟を切り捨て、自衛隊をなくして、如何にして日本国民と日本国を守るのか。
日米安保廃棄という極論は、いまは主張しないと共産党は言う。自衛隊の解消もいまは主張しないと共産党は言う。共産党の綱領を立憲民主党に履行せよとは、要求しないとも強調する。しかし、そんな言葉は彼らが綱領を変えない限り信ずることはできない。共産党の本音は共産党が十分力をつけて政権を取ったときには、党綱領の実現に邁進するというものだろう。いまは単にまだその時期ではないということだ。
日本共産党と中国共産党は双子のようだと思う。中国共産党は米国にも日本にも、決して敵対勢力にはならないと言ってきた。「韜光養晦」政策で世界を騙してきた。騙されていることに気づかず、日米をはじめ西側世界は中国を信用し、世界貿易機関(WTO)をはじめ国際社会の枠組みに招き入れた。だが、台頭した中国は正体を現し、今では力による世界の現状変更を試みている。
もう一点、忘れてはならない共産党綱領の恐ろしい定めがある。皇室についてである。共産党は、日本の長い歴史における幾百世代の日本人の気持ちに反することを綱領に明記している。彼らは皇室を天皇制と呼んでこう言うのだ。
「一人の個人が世襲で象徴となるという現制度は、民主主義および人間の平等の原則と両立するものではな」く、天皇制の「存廃は、将来、情勢が熟したときに、国民の総意によって解決されるべき」、と。これは共産党が政権を取ったときには皇室をなくしてしまうということだろう。
破壊活動防止法の調査対象
共産党には「敵の出方論」という考え方がある。前出の尚美学園大学名誉教授である梅澤氏が語った。
「政権を取るには暴力革命を起こすか、議会で政権を獲得するか、その選択は敵の出方次第だという考え方です。戦後ずっと共産党を率いてきた宮本顕治氏は、1958年1月4日のアカハタで『敵の出方論の具体策はレーニンも述べているように文書に書くものでない』と言っています」
共産党は手の内を見せないで活動してきたのだ。しかし、今年、志位委員長は「敵の出方論」を否定しだした。再び梅澤氏が語る。
「であるなら、宮本・不破(哲三)路線は間違いだったと国民に謝罪すべきです。現在、共産党が右翼団体や過激派同様、破壊活動防止法の調査対象になっているのは、共産党が『敵の出方論』を捨てていないという公安調査庁の判断があるからです。共産党はこの壁を崩そうと必死です」
立憲民主党を軸とする共産党との事実上の連立政権が誕生するとき、私たちは共産党の暗い影の部分をよりはっきりと目にするだろう。たとえば共産党は、ジェノサイドについて世界から非難されている中国共産党と絶縁していないと梅澤氏は指摘する。日中の共産党は66年に毛沢東と宮本顕治が激しく争って断絶したが、98年に関係を回復した。あの中国共産党と党としての関係を有する政党は、日本では共産党だけと言える。また、言論の自由を謳いながら、民主集中制の下で事実上、言論の自由を封じている。「敵の出方論」と暴力革命の関係について共産党はどういう立場なのか。疑問は尽きない。共産党の闇は深い。10月31日、一人一人よく考えて投票すべきだと思う。