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2021.10.14 (木)

「 岸田氏の課題、「宏池会体質」の転換 」

『週刊新潮』 2021年10月14日号
日本ルネッサンス 第970回

「これからが本当の意味でのスタートだ。強い思いで、強い覚悟を持って臨んでいきたい」

10月4日、岸田文雄新首相はこう語った。大変結構だ。今、日本を取り巻く情勢はおよそ全ての分野で厳しい。問題に呑み込まれることなく、ひとつひとつ解決して乗り越えていくには、揺るぎない強さが必要だ。

そこで氏は早速、衆院選を10月31日に行うと決定した。解散、総選挙の日程は首相の専権事項だ。思ったとおりにやればよい。だが、そこから先の岸田氏の「思い」が、見えにくい。党や閣僚人事を見ても、「これをやりたい!」という氏の明確な意思が伝わってくるわけではない。

政権はスタートした。岸田氏は自民党を掌握して内外の問題に対処する強い体制をつくれるだろうか。政治ジャーナリストの石橋文登氏が10月1日、「言論テレビ」で語った。

「安倍晋三元総理がなぜ『一強』と言われる強い政権基盤を持つに至ったか。二つ要素があります。まず安倍・麻生両氏が組んで自民党内の中道保守勢力をきっちりおさえた。他方、菅氏がはねっ返りの河野太郎、小泉進次郎ら若手をおさえた。こうして自民党の9割を常にコントロールしている状態を作れたから、安倍一強だったわけです。岸田さんの人事を見る限り、それが崩れましたね。危ういと思います」

石橋氏は幹事長人事について語っているのだ。

「幹事長に甘利明氏を据えました。甘利氏は菅降ろしの先鋒だった。菅では選挙は戦えないと、重鎮クラスで言ったのは、甘利氏が最初でした。菅氏はそのことを決して忘れないでしょうね。甘利氏をいち早く幹事長にした岸田氏は、菅氏をいわば野に放ったことになる。安倍・麻生・菅の一致した支持を受ける体制作りの見通しは暗い。岸田氏がそこに気付かなければ、政権は危ういと思います」

『正論』11月号で森喜朗元総理が面白いことを語っている。岸田氏が出馬の挨拶に来たとき、幹事長は誰にするのかと問うたそうだ。岸田氏は「え~」と口ごもって未定だと答えた。森氏はさらに尋ねた。

「それはそうだな。どこの派閥がどうするかまだわからないから言えないでしょう。官房長官くらいは決めているんでしょ」

だが、官房長官人事についても意中の人はいなかったというのである。内閣の要が官房長官、党の要が幹事長。この二つの役職が政権の屋台骨となる。各々を誰に任せるかで、政権の命運は決まる。にも拘わらず、最重要の人事構想を岸田氏は決めきれていなかったというのだ。そして甘利氏を幹事長に据えた。この人事は岸田氏が党内の人間関係の機微を読みとれないでいることの証左とみられた。

同時に、岸田政権は岸田氏ではなく、多分に甘利氏にコントロールされていると、指摘され始めた。よろしくない兆候である。

保守の姿勢

だが、否定的なことばかりではない。総裁選で善戦した高市早苗氏が、非常に強い権限が集中する政調会長に任じられた。

言論テレビで『正論』発行人の有元隆志氏が解説した。

「宏池会(岸田派)には、高市さんを閣僚にして、彼女に靖国神社参拝などされたら困るという考えがあり、その結果、彼女を党四役の一角に据えたという事情があります。しかし、これがひょっとして、保守層の支持基盤をきちっと固めてくれるかもしれません」

その理由は、政調会長に与えられている強い権限だという。

自民党は活発な部会活動で知られる。早朝から勉強会を開催し、侃々諤々、政策を議論する。自民党議員は部会での論争を通じて鍛えられていく。政調会長はそれら部会の長から調査会長までを決定する立場にある。部会を誰が仕切るかで、政策立案の流れも影響されるために、高市氏は自民党内にかなりの勢力を持っているリベラル派の政策をおさえて、党全体を保守の方向に持っていくことができるというのだ。

高市氏はまた、近く行われる衆院選の公約作成にも最終的に責任を持つ立場だ。氏が「イエス」と言わなければどんな政策も党の公約にはならないという意味だ。自民党を二分する勢いで議論されている夫婦別姓やLGBT法案の問題を見れば、高市氏が政調会長として君臨することに、自民党の支持基盤である保守勢力は安心するだろう。岸田氏が宏池会伝統のリベラル路線に傾くのではないかという懸念があるとき、高市氏の保守の姿勢は大きな意味を持つ。

聞き上手を脱して…

日本周辺の国際情勢が厳しいのは周知のとおりだ。中国はわが国の尖閣の海に侵入し続ける。台湾海峡には連日数十機の戦闘機群を飛行させる。この中国の脅威から目を逸らさず、中国に対して十分な抑止力を築かなければならない。それには一にも二にも自衛隊の強化であり日米同盟のさらなる緊密化である。岸田氏にそれができるか。できるようになるためには、岸田氏は宏池会の軍事忌避の伝統を否定しなければならない。

宏池会の歴史を少し振り返ってみる。その源流といえる吉田茂元首相は、自分に仕えた軍事顧問の辰巳榮一氏が幾度も再軍備と憲法改正を進言したにも拘わらず、助言を退け続けた。しかし、昭和39年11月、引退後の吉田氏は辰巳氏に、助言に耳を貸さなかったことを「深く反省している」と頭を下げたのだ。

後に続く宏池会出身の首相は池田勇人氏だ。池田氏は軍事力を否定する日本を「宦官」にたとえて、日本が軍隊を持てないでいることを悔やんだ。だが、吉田氏も池田氏も軍事力保持の国家的必要性を認識しながら、その国際社会の普遍的原理を国政に反映させることなく終わった。二重基準なのである。日本国民に対する無責任さだとも言える。

さらにもう一人の宏池会出身の首相、鈴木善幸氏は昭和56年5月、レーガン大統領との会談後に発表された共同声明の中の「同盟」という言葉について、「軍事的意味合いはない」と言う始末だった。

日本に日米安全保障がないとき、また日米同盟に軍事的意味合いがないとき、日本の安全は一体、どうなるのか。現実を見ないで虚構の平和に縋るのが宏池会の伝統だ。

その派閥の代表ではあるが、それでも岸田氏は総裁選挙の中で、憲法改正を公約した。自衛隊の強化の必要性も明言した。日本を標的とした弾道ミサイルを相手国領域で阻止する敵基地攻撃能力についても、「抑止力として用意しておくことは考えられる」と語った。

政治家として発した言葉は重い。実行しなければならない。聞き上手を脱して決断・実行の人になるべきなのだ。宏池会の軍事忌避の打破こそが公約実現の基盤である。

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