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2021.05.27 (木)

「 五輪中止論、背景に政局の蠢き 」

『週刊新潮』 2021年5月27日号
日本ルネッサンス 第951回

5月17日、「朝日新聞」は朝刊一面左肩で「菅内閣支持急落33%」と報じた。小見出しは「『安全安心な五輪』納得できぬ73%」だ。

朝日新聞は紙面、社説やコラムなどで菅義偉首相の武漢ウイルス対策、緊急事態宣言、蔓延防止等重点措置の適用、ワクチン入手に至るまで、批判してきた。17日の記事は支持率急落や五輪開催反対論の増加を喜んでいるかのようだった。

日本共産党の志位和夫委員長が東京五輪中止を言いだし、立憲民主党代表の枝野幸男氏が賛同し、朝日や毎日が支持するかのような構図が出来上がっている。沢木耕太郎氏の「悲しき五輪」を載せた週刊文春を筆頭に雑誌も五輪開催反対を強く打ち出している。開幕まで2か月のいま、中止圧力は高まる一方だが、五輪開催で武漢ウイルスが広がるという証拠はあるのだろうか。

東京大会の観客をどこまで絞るのか、無観客にするのかなどは、もうすぐ判明するだろう。一方、選手の受け入れは以下の「バブル方式」が決定済みだ。入国時から帰国時まで選手たちを泡で包み込むようにする。つまり、入国後は宿泊施設にとどまり、外出を控えてもらい、練習会場や試合会場への移動は専用車輌に限定する。開幕後、競技で敗退した選手は、順次帰国してもらう方式だ。

5月14日、菅首相は東京五輪、パラリンピックで入国する外国人の行動を制限するとして、こう語った。

「(取り決めに)反すれば強制退去を命じることも検討中です。一般国民とは違う動線で行動し相互接触のないよう、対応を整えています」

菅首相はまた大会の医療体制は地域医療に支障をきたさないように調整中だとも語っている。

ファイザー社は選手や大会関係者へのワクチン無償提供を決定し、国立感染症研究所は同社のワクチン接種から14日以降に感染事例の報告が6割減少したとの分析を発表した。日本の事例では、4月11日までに接種した医療従事者110万人中、発症したのは281人だった。本欄執筆中の5月17日現在、ワクチン接種の速度は上がっており、効果は期待できる。

首相の座を狙い始めた

だが、共産党の田村智子氏は、16日のNHK「日曜討論」で「政府がもう(開催)できないという決断をするしかない」と主張した。菅政権打倒であくまでも反対を貫こうとする。大坂なおみ選手も錦織圭選手も開催について心配している。そんな中で、私は、パラリンピック競泳のエース、木村敬一氏が2月24日に語った言葉に最も共感する。

「開催するための努力は、自分たちの社会を取り戻す努力につながる。ウイルスを封じ込めていく努力と、ほぼイコールだと思う。『どんな犠牲も出さないようにして開催するんだ』という努力、僕らがやろうとする努力は、社会を良い方向へ向けていく努力であるはずなんです」

共産党や立憲民主党の主張と歩調を合わせた開催反対は、政局の動きと連動していると思われる。14日、「言論テレビ」で政治ジャーナリストの石橋文登氏が指摘した。

「感染者増加と内閣支持率下落は正比例しています。それを見て志位さんが五輪反対を言いだしたのですが、共産党も立憲民主党も、所詮外野です。気になるのが小池百合子都知事のおかしな動きです」

連休明けの5月9日、都民ファーストの会、つまり小池氏の手兵にあたる人間が、水際対策の強化を総理大臣に求めるオンライン署名を始めたというのだ。

「政府の対策では開催都市としてコロナ封じ込めの自信がないから返上する、と言うための署名集めかと疑います。そんな中、5月11日に、小池さんはまたもや二階俊博幹事長を訪ねた。ワクチン接種や休業要請などで資金が逼迫、国の支援を要請したいためだと説明されました。でも、僕は違うと思う。彼女、非常に勘がいい。二階さんの顔色を見て解散が近いかどうかを探りに行ったと思います」

小池氏は常に政府との対立構図を作り求心力を高めてきた。だが、彼女が要求した通勤電車の減便は非常に評判が悪く、JRは連休中に増便に踏み切った。首都圏三県の知事を桃太郎のように引き連れて官邸に押しかけていたが、黒岩祐治神奈川県知事が小池氏の「嘘」を暴露した。これまでの手法が見透かされてうまくいかなくなった。知事として立ち枯れるより、国政復帰と首相の座を狙い始めたのではないか、と言うのだ。

「もし総理を狙っているとしたら、起死回生の機会は五輪中止だと考えておかしくない。政府の水際対策が不安で開催できないと言って、政府に責任転嫁する。全ての批判は何も悪くない菅さんにいく。菅さんは退陣を迫られるかもしれない」

徳を欠いている

まさかと思う展開だが、一体誰がついていくのか。石橋氏は、支持率の低さに喘ぐ政党や政治家は少しでも話題になって当選する確率の高い勢力に従うと断言する。そうした政党の計算、議員の心理を知悉しているのが小池氏だというのだ。

「小池さんと小沢一郎さんは本質において非常に似ています。第一に権力掌握に対する嗅覚の鋭さです。自民党を打ちのめして政権を取ったのは小沢さんの力ですよ。そしていま立憲民主と共産党のパイプを握っているのは小沢さんです。その小沢さんの傍らで小池さんは弟子のような形で政界の権力闘争を見てきた」

石橋氏は両氏に共通のもうひとつの点は、権力を取った後に何をしたいかが見えてこないことだと喝破した。納得である。

小池氏は日本初の女性総理になれずに都知事選に出た。同僚議員の支持が全くと言ってよいほどなかった小池氏自身が、自民党にいる限り、総裁にも総理にもなれないと見極めたからではないか。だが、国政でもう一花咲かせたいのであれば五輪の利用も考えるだろう。その布石のひとつが石橋氏の指摘する先述のオンラインの署名集めだとすれば、とんでもないことだ。五輪開催を要望した主催都市の、彼女は知事である。それを国政復帰のために中止するなど、あってはならないだろう。こんな疑惑を招くのは、小池氏が政治家としての徳を欠いているからだ。もっと真に都民のため、日本のために汗をかく姿を見たいものだ。

武漢ウイルスとの戦いは容易ではないが、ワクチン接種も増えている。手洗いと「密」回避は、日本人にはできている。ウイルスを抑制できると私は考える。そこでもう一度、開催の努力は自分たちの社会を取り戻す努力であり、ウイルスを封じ込め、社会を良い方向へ向けていく努力だという木村氏の言葉を噛みしめたい。

五輪を政局に利用するのではなく、五輪を無事に完了させる惜しみない努力を期待するものだ。

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「 五輪中止論、背景に政局の蠢き 」

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