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2021.01.28 (木)

「 米新政権、中国に圧倒される懸念 」

『週刊新潮』 2021年1月28日号
日本ルネッサンス 第935回

本稿が皆さんのお目にとまる頃、米国ではバイデン氏が大統領に就任し、民主党政権の政策が矢継ぎ早に発表されているだろう。それでも共和党政権のポンペオ国務長官をはじめロス商務長官らは、残りわずかな時間の中で厳しい対中政策を打ち出し続けている。

先週報じたように、ポンペオ国務長官は1月9日、長年米国の対中政策の基本であり続けた「中国はひとつ」の原則に基づき米台間の人的交流を制限する自主規制を全て撤廃した。11日には米国務次官補のクーパー氏が、米国駐在の台湾代表・蕭美琴氏と会見した。

13日からはクラフト米国連大使が台湾を訪問し、蔡英文総統をはじめとする台湾政府要人と会談する予定だった。クラフト訪台は、しかし前日の12日になって、米国務省がポンペオ国務長官以下週内に予定されていた外遊計画全ての中止を発表し、実現はしなかった。

外遊中止の背景は説明されていないが、トランプ大統領の支持者らによる米議会議事堂への乱入事件が影響したと解説された。クラフト大使の訪台中止も恐らくそれ以上の理由ではないと思われる。翌13日にビデオ会談で、クラフト氏と蔡英文氏が極めて友好的に対話していることからも明らかだ。

クラフト氏は、米国は常に台湾の側に立ち、友人、パートナーとして、手を取り合って民主主義の柱となり支え合う、と最上級の賛辞を贈り、中国政府の妨害で台湾がWHO(世界保健機関)に入れないのは不当であると、蔡氏と台湾を元気づけた。蔡氏は米国の心強い支えに深い感謝を伝えた。

18日までには、米商務省が中国の第五世代通信大手の華為(ファーウェイ)に部品を提供している企業4社に対して、部材提供の免許取り消しを通知した。4社の中に米国のインテル及び日本のキオクシア(旧東芝メモリ)も含まれている。商務省がファーウェイ向け輸出ライセンス申請の多くを拒否する意向であることも報じられた。

「10大リスク」のトップ

最後まで対中警戒を強め続ける共和党政権への中国側の攻撃は、まるで行儀の悪い子供のように乱暴な言葉の羅列でしかない。ポンペオ氏らに関しては「台湾海峡地域で彼らを水に落ちた犬として打たねばならない」「現在はむしろ中国大陸が台湾問題でやるべきことをやる絶好のチャンスだ」「台湾海峡は危機を迎え、さらに嵐に見舞われた方がよい」(『環球時報』1月11日社説)などと書いた。ポンペオ氏と台湾の動き次第によっては「戦争だ!」と煽った彼らは、最終的に軍事力で台湾を奪うぞという恐喝のつもりなのであろう。

強い言葉で恫喝し、場合によっては強大な軍事力を行使しかねない構えを見せる中国にどう対峙するのかが、いまや世界共通の課題である。最大の脅威が中国という構図は親中派といわれるバイデン政権にも当てはまる。氏がどこまで中国の意図を読みとりきちんと向き合えるかが、これからの世界情勢を決定する。

私たちは果たしてバイデン政権に期待できるのか。21世紀は「Gゼロ」の時代となり、リーダー国不在の世界が来ると予測したのが、米国の国際政治学者、イアン・ブレマー氏だった。氏が主導する研究所「ユーラシア・グループ」は、今年世界が直面する「10大リスク」のトップに「バイデン大統領」を挙げた。バイデン氏の下でも米国社会の分断は埋まらずに、米国は強力なリーダーシップを発揮できない。従ってリーダー不在の国際情勢は不安定なまま続いていくというのである。

不安定な国際情勢は不安定な米中関係に置き換えられる。バイデン氏は国際社会のリーダーとして「アメリカは戻ってきた」と宣言し、同盟国を重視するとも強調した。にもかかわらず諸国は安心もできず、氏自身が10大リスクのトップに置かれるのは、米政権に大戦略が見えてこないからだ。

しかし、米国に戦略がないはずがない。現に12日に公開されたトランプ政権のインド太平洋戦略に関する機密文書とオブライエン大統領補佐官の声明を読めば、共和党政権下で国防総省や国務省が如何に堅固な戦略を考えていたかがよくわかる。同文書は国家安全保障局の機密文書に分類され、本来なら30年間は非公開だったのを、政権交替を前に急遽ホワイトハウスが公開した。民主党政権の対中宥和策への牽制とも読める。

A4で10頁、中国の脅威に対する米国の危機感の深さが伝わってくる。日豪印さらに韓国や台湾を視野に入れた大戦略が書かれている。問題はこうした危機感や分析をバイデン政権が受け入れるのかである。

交渉を前面に立てる

日米欧州諸国とは異なる中国の価値観によって侵食され傷ついた国際秩序の立て直しは、中国の脅威の実態から目を逸らすのでは不可能だ。トランプ政権は稚拙な手法ではあったが、少なくとも中国の脅威を認識して対峙しようとした。

米国一人に中国問題を解いてほしいと期待する時代がすぎたことは、日本を含む欧州のいわゆる中級国(ミドルパワー)と呼ばれる国々は皆自覚している。米国に求められているのはその道筋を示すことだ。それがバイデン氏にできるか疑わしいと思う理由のひとつが、バイデン政権の人事である。

たとえば気候変動問題大統領特使のジョン・ケリー氏である。一度は強力な大統領候補となったケリー氏には今回特別の地位が与えられる。氏はバイデン政権の閣僚会議にも国家安全保障会議(NSC)にも出席する資格を与えられ、軍用機で外遊する権利も認められた。氏は、気候変動問題こそ、中国の経済侵略や軍事的膨張への警戒よりもなお重要で全てに優先すべき課題だと考えていると言われる。しかも中国との協調なしには米国も世界も気候変動問題を解決できないとも考えているというのだ。であれば、ケリー氏は必ず、中国と深く交流し、交渉によって問題を解決しようとするだろう。

中国は気候変動や地球環境問題を常に経済、軍事、覇権問題に搦めてくる。交渉を前面に立てるケリー氏はそこで落とし穴に落ちかねない。「中国製造2025」の目標を掲げ、目的達成に巨額の投資をつぎ込んだ中国は経済と軍事を明確に一体化し、中国の国家安全を図ると宣言した。

国家安全を政権安全に置き換え、自身の終身皇帝制度の安全を達成するのが習近平氏の意図だ。人類愛でも民族愛でもなく自己愛ゆえに、中・長期的に国際社会を、経済・軍事の両面で中国共産党の影響下に置くことを目論む習氏の政権に対しては、如何なる交渉も厳しすぎる程の検証を伴わなければ騙される。そんな危険をバイデン政権は認識し回避できるか。疑問である。

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