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2020.08.20 (木)

「 対中価値観の闘い、日本も覚悟を 」

『週刊新潮』 2020年8月13・20日号
日本ルネッサンス 第913号

8月3日、産経新聞朝刊一面トップの記事は「中国、尖閣に漁船団予告」「16日の休漁明けにも」だった。

孫子の国の中国が侵略を前もって予告するとは思えない。孫子の教えの基本は相手を巧みに騙すことにある。事実、彼らの成功体験の数々は中国らしい「汚い」やり方ゆえに可能だった。

現在の中国の行動が、彼らの手法を示して余りある。第一に、彼らは相手の隙を突く。国際社会が武漢ウイルスで大混乱を来たし、対応に注意と力をとられている間に、中国は香港を陥(お)とした。歴代主席の誰も成し遂げられなかった香港共産化を、習近平氏は、予定より27年も早く成し遂げようとしている。

わが国の尖閣諸島でいえば、中国公船4隻は8月2日まで連続111日間、侵入を続けた。その間領海侵犯を重ね、一昼夜を超えて39時間以上領海内に居座ったこともある。

米中対立激化と武漢ウイルス問題で国際社会で孤立を深めた中国は日本に接近した。日中関係はかつてない程良好だと日本側に言わせようと友好的に振る舞う一方で、尖閣略奪の準備を怠らない。鄧小平副総理が日中平和条約締結のために来日した1978年、突如尖閣に武装漁船100隻以上が押し寄せ、わが国政府を当惑させたように、中国の友好は常に脅しとセットでやってくる。

産経が報じた大挙侵入の「事前予告」は菅義偉官房長官も「そんなことはなかったんじゃないでしょうか」と否定したが、そのような記事が出稿される状況は存在する。東海大学海洋学部教授の山田吉彦氏が7月24日、「言論テレビ」で語った。

「尖閣諸島の危機は確実に新たな局面に突入しています。情報衛星の写真で、浙江省から福建省にかけての沿岸部には港に入りきれない漁船が無数に係留されているのが確認できます。その数は1万を超すでしょう。8月のどこかで中国政府は禁漁期間を解除し、漁船団に向かうべき海域を指示するはずです。隙だらけの日本の尖閣に千隻単位の船が押し寄せる可能性は十分にあります」

巨大な市場の引力

事実、日本は隙だらけだ。第一に国防態勢が整っていない。第二に政財界中心に心構えが殆どできていない。わが国は中国から見れば狙い易い鴨にすぎないだろう。

第一の点について小野寺五典元防衛大臣が語った。

「陸上配備型イージス・システム(イージスアショア)が現在、頓挫しています。これが整備されれば、二基のイージスアショアでわが国は北朝鮮の核ミサイル攻撃に対処できます。わが国の有する7隻のイージス艦を沖縄・尖閣防護のために南西諸島海域に展開して、中国の脅威に備えることもできます。しかし、イージスアショアなしには、イージス艦を対北朝鮮で日本海に配備しなければならず、南西諸島の守りが空白状態になります」

安全保障上、弱点を補強できず、空白を埋められなければ他国の侵略を招く。これは世界の常識である。

南シナ海で、ミスチーフ島を巡って中国とフィリピンが対立したときのことを想い出そう。同島はフィリピンが領有していたが、中国が領有権を主張して軍艦を入れた。フィリピンは第二次世界大戦後に米国から払い下げてもらった唯一の旧式艦を展開させたが、そこに台風がやってきた。オバマ米大統領が両国に軍艦を退去させるようにと仲介し、フィリピンは従ったが中国は居残った。以来、中国が同島を奪い、今日に至る。隙が生じれば、水のようにさーっと侵入するのが中国だ。戦う意思のない国は徹底的に奪われるしかない。

中国が日本を鴨と見做すもうひとつの理由は、わが国指導者の対中宥和姿勢にある。経団連を中心に、経済界は中国の巨大な市場の引力に抗い得ていない。日本貿易振興機構(ジェトロ)の報告によると、今年1~5月における日本企業の対中直接投資額は約59億ドル(約6200億円)と前年並みのペースだ。日本を代表するトヨタ自動車は中国5社と燃料電池システム開発で合弁会社設立を、ホンダも中国車載用電池大手との資本提携を決めた。

安倍晋三首相は7月30日、未来投資会議でサプライチェーンを日本に戻すと発表した。日本政府はそのために当座2435億円の予算を用意した。それでもわが国企業の日本回帰、或いは中国から他の国々への移転は加速していない。

いま米国は本気で中国に闘いを挑んでいる。価値観の闘いだ。中国の狙いは国土拡大や島々と海の略奪にとどまらない。地球社会全体に中国式価値観を浸透させ、中国のルールで治めようとしているのである。中国経済の利潤に浴するとは、中国の価値観を受け入れる、或いは否応なく、中国共産党色に染められるということだ。そのことを米国が明確に警告し始めた。私たちはいまこそ自身に問わなければならない。人間として生まれ、如何に生きたいのか、と。日本人として生まれ、日本民族としての生き方を如何に守り続けられるのか、それを支える価値観を守り通せるか、と。

社内に中国共産党の細胞

ポンペオ米国務長官が7月23日、こう警告した。

「北大西洋条約機構(NATO)同盟国にも、中国市場への参入制限を恐れ、香港問題で立ち上がっていない国がある。こうした弱さが歴史上の過ちにつながった。それを繰り返してはならない」

日本人も、どの国の人々も、中国式のやり方は受け入れられないはずだ。受け入れたが最後、私たちの人生の基盤を成している人間としての自由も、国是である民主主義も法治も、中国共産党に消し去られるからだ。中国支配の受容とは、香港の人たちが否応なく沈黙を強いられているように、私たちも共産党の教義で縛られ支配されるということだ。

中国共産党に縛られてどんな生き方をせよというのだろうか。財界の人々、経営者や投資家の中に巨大な中国市場は無視できないと言う人は少なくない。だが、いま中国で活動する企業は、社内に中国共産党の支部、細胞を置いているではないか。経済活動全てが中国共産党に監視される。経営者も社員も習近平氏と共産党の思想を敬い、指導に従うよう強要される。企業の有する最先端技術は、例外なく中国側に奪われる。細胞はきっちり監視し、その絶対的枠組みから企業は逃れられない。そんなことでよいのか。

大事なことは中国との経済交流を日本生存に影響のないレベルにとどめ、日本の発展と生存を支える重要技術を渡さないことだ。中国共産党の情報工作に騙されないことだ。

中国人の傑出した能力を侮らず、よい関係を築くためにも、日本人が確固たる国家観を持ち、国力を強めることが必要だ。夏の暑さの中で、とことん考えてみたい。

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