「 文在寅の強行策、韓国崩壊の危機が現実的に 」
『週刊新潮』 2019年12月26日号
日本ルネッサンス 第882回
今月16日、日韓間の戦略物資の輸出管理をめぐって東京で日韓の局長級による政策対話が持たれた。日本側はこれを日韓の「対話」と位置づけ、韓国側は「協議」だと主張する。
対話と協議では意味は全く異なる。対話は意見交換であり、相互の立場を相手に十分説明することだ。他方、協議は互いの主張を展開して交渉することを意味する。中部大学特任教授の細川昌彦氏が語った。
「そもそも輸出管理は各国の判断で行うもので、相手国との交渉にはなじまないものなのです」
周知のように、韓国側は輸出管理で優遇を受ける「ホワイト国」から外されたことに反発して、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を終了させると通告していた。米国の圧力でGSOMIA継続をのんだが、その点で国内世論の批判を避けるべく、日本にも譲歩させたように繕うために、対話を協議と言いかえているのである。
同じ16日、韓国ではもうひとつ、非常識な動きがあった。朝鮮人戦時労働者問題で補償基金を設立する法案が国会に提出されたのだ。文喜相(ムンヒサン)国会議長主導の同法案は、日韓双方の企業が資金を出し合って労働者に補償することを柱としている。
日韓議員連盟の幹部、河村建夫氏らは文氏の案に前向きだが、愚かなことだ。朝鮮人戦時労働者問題は1965年に決着済みだ。日本側が資金を出すのは日韓の条約にも道理にも合わない。また問題解決にもつながらない。日本が原則に目をつぶって妥協し、失敗を重ねた典型例が慰安婦問題だ。妥協すれば戦時労働者問題は第二の慰安婦問題となって、日韓関係を悪化させるだけである。
対韓政策に影響を及ぼそうと頻りに動いている日韓議連所属の政治家は、文在寅政権の内政や外交が信ずるに値するのか、きちんと見ることだ。文氏は米国の圧力でGSOMIA維持に転換した後、中国の王毅外相を招いた。王氏は12月5日、文氏に以下の要求を突きつけた。
➀米国のTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)を徹底排除せよ、➁米国の新たな中距離ミサイルを配備してはならない、➂米国主導のインド・太平洋戦略に参加してはならない、➃一帯一路に前向きに取り組め、などである。
覇王の要求
まるで宗主国のような王氏の態度に、私はつい、2010年のASEAN地域フォーラム(ARF)外相会議を思い出した。当時の外相、楊潔篪氏が他の国々の外相を「睨みつけながら」言い放ったのだ。
「中国は大国で、他の国々は小国だ。それは厳然たる事実だ」と。
王氏の横柄な対韓圧力も全く同じ、中華思想に基づく覇王の要求である。だが、王氏の前で文氏は自らを卑下してみせた。習近平国家主席の国賓待遇での訪韓を要請したのである。今年8月15日の「光復節」で、日米韓三か国連合から統一朝鮮と中露の三か国連合への移行を示唆した文氏の本質を表わしているではないか。
その2日後、トランプ米大統領が文氏に電話し、30分間話している。信頼もしておらず、頼りにもしていない文氏に、トランプ氏が頼みごと、たとえば北朝鮮との関係の仲介などを頼むはずがない。中国、北朝鮮について、米国がどれ程厳しく構えているかを明確に伝え、文氏を牽制したと考えて間違いないだろう。
両首脳の電話会談について、いつも「平和が訪れた」などと夢見るような言辞を弄する文政権が「最近の朝鮮半島情勢が厳しい状況にあるとの認識で一致した」と発表したこと自体、会談の内容の厳しさを示したとして注目された。米韓関係の現状を産経新聞編集委員の久保田るり子氏が「言論テレビ」で語った。
「11月28日以来、米軍の偵察機が毎日、朝鮮半島上空を飛んでいます。通信傍受、地上監視などを同時展開しています。今月11日にはB-52爆撃機も飛びました。通常は隠密に行っているこれらの軍事活動を、米国は意図的に公開しています。エスパー国防長官は、今月8日、今夜にでも行動を起こし、相手を完全に破壊する準備も整っている、とまで語りました。まさに米軍が臨戦態勢を敷いていることを強調しているわけです」
トランプ氏が文氏に告げたのは対北朝鮮軍事介入の可能性も含めて、あらゆる意味で厳しい内容だったはずだ。過度の対中傾斜に警告を発したと考えてよいだろう。
文氏はしかし、米中双方の圧力を受けながら、自身の思い描く革命遂行に全力を傾けている。日本ではほとんど報道されていないが、文氏は韓国転覆につながる重大事に、ここにきて、具体的に手をかけたのである。選挙制度改革法案を11月27日に、高位公職者犯罪捜査処(公捜処)新設法案を12月13日に国会に上程した。群小野党と手を組んで両法案を実現できれば、文政権は自由と民主主義の大韓民国を根底から変質させ、事実上、消滅させることができる。
北朝鮮との統一
韓国は日本とは異なり、一院制で議席数は300だ。小選挙区が253、比例は47で、現在欠員が3名。総数297の過半数は149議席である。国家基本問題研究所研究員の西岡力氏が言論テレビで解説した。
「文氏は小選挙区を225議席に減らして比例を75に増やし、比例分については群小野党に有利な50%連動型の導入を提案しています」
現在、与党で左翼の「共に民主党」系は129で過半数に20議席足りない。野党第一党で保守の「自由韓国党」は108だ。以下、正しい未来党や正義党など15議席から1議席までの小政党が7党存在する。この内6党は殆んど極左に近い。
再び西岡氏が説明した。
「国会に提案された法案では、第三党以下の弱小群党が非常に有利になります。仕組みは複雑で、有権者の一票の行方がわからなくなるとまで批判されていますが、両法案は迅速処理指定を受けています。つまり、審議なしで、議長権限で採決を強行できるのです」
文氏の狙いはまず選挙制度を変えて左翼勢力が3分の2以上の議席を取れるようにする。その上で憲法を改正し、今は禁じられている連邦制による北朝鮮との統一を憲法上、可能にすることだろう。第二に検察の上に、捜査権と起訴権を持つ大統領直属の第2検察(政治検察)を設置し、文政権の不正を捜査している現在の検察をつぶし、司法を支配下に置くことであろう。
韓国の国会は12月10日に閉会されたが、文氏は法案の議決を急ぐため11日、13日、16日と、国会再開を試みた。保守系の自由韓国党と国民有志が物理的に抵抗して国会再開を阻止した。それでも文氏の革命への動きは止まらない。左翼全体主義に走る文政権に日本の妥協は有害無益だ。文政権と対立する民主勢力への応援こそが日本の国益である。