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2019.09.12 (木)

「 NHK終戦報道は相変わらず問題山積 」

『週刊新潮』 2019年9月12日号
日本ルネッサンス 第866号

毎年8月になるとNHKのいわゆる“歴史もの特集”が放送される。NHKの歴史に関する作品には、たとえば2009年4月の「JAPANデビュー」、17年8月の「731部隊の真実~エリート医学者と人体実験~」のように、偏向、歪曲、捏造が目立つものが少なくない。そのために私はNHKの歴史ものは見たくないと思って過ごしてきた。

だが、今年はどうしても見ておく必要があると考えて視聴した。視聴したのは「かくて“自由”は死せり~ある新聞と戦争への道~」、「昭和天皇は何を語ったのか─初公開・秘録 拝謁記」の2作品である。

前者は8月12日のNHKスペシャルで、戦前に10年間だけ発行されていた「日本新聞」を取り上げている。後者は17日の放送で、初代宮内庁長官、田島道治氏の日記によるものである。両作品共に役者を起用したドラマ仕立てだった。

期待どおりというのは皮肉な表現だが、前者は想定どおりの「NHK歴史もの」らしい仕上がりだった。後者についても多くの疑問を抱いた。

まず「新聞」の方だが、番組は暗い声音のナレーションで説明されていく。日本新聞は大正14(1925)年に司法大臣小川平吉が創刊し、賛同者に平沼騏一郎や東条英機が名を連ねる。彼らは皆「明治憲法に定められた万世一系の天皇を戴く日本という国を絶対視する思想を共有していた」との主旨が紹介される。

明治憲法においても現行憲法においても国柄を表現する基本原理のひとつである「万世一系」の血筋が、まるで非難されるべき価値観であるかのような印象操作だ。

番組のメッセージは、創刊号で天皇中心の国家体制「日本主義」を掲げたのが日本新聞で、その日本主義が日本全体を軍国主義へと走らせたというものだ。

不勉強の極み

だが、番組は説得力を欠く。歴史の表層の一番薄い膜を掬い取ってさまざまな出来事を脈絡もなくつなぎ合わせただけの構成で、どの場面の展開もその因果関係が史料やエビデンスをもって証明されているものはない。飽くまでも印象だけの馬鹿馬鹿しいこの作品を、NHKが国民から強制的に徴収する受信料で制作したかと思うと怒りが倍加する。

日本全国に軍国主義の波を起こし、日本を戦争に駆り立てるほどの影響力を発揮したとされる日本新聞の発行部数はわずか1万6000部程度だった。しかも先述のように昭和10年までの10年間しか発行されていない。NHKの主張するとおり、日本新聞に世論と政治を動かすほどの力があったのなら、言い換えれば、それだけ国民に熱烈に支持されていたのなら、なぜ10年で廃刊に追い込まれたのか。

当時もっと影響力のあった新聞のひとつに朝日新聞がある。朝日は日本新聞よりはるかに早い明治12(1879)年に大阪で創刊、9年後には東京に進出、日本新聞創刊の1年前には堂々100万部を超える大新聞となっている。朝日は満州事変などに関して極右のような報道で軍部を煽り部数を伸ばしたが、なぜNHKは軍国主義を煽ったメディアとして日本新聞にのみ集中したのか。不勉強の極みである。

この日本新聞の番組があり、8月15日をはさんで田島日記、即ち「拝謁記」の方が放送された。二つの作品を対にした構成の背後には、軍国主義の弊害を安倍晋三首相が実現しようとする憲法改正に結びつけ阻止しようとする意図があるのではないかと感じた。なぜなら拝掲記は昭和天皇が再軍備と憲法改正を望んでおられた事実をかつてなく明確にしたからだ。

「拝謁記」の内容にさらに入る前に、NHKは田島道治日記の全容を公開していないことを指摘しておきたい。私たちにはNHKの放送が全体像を正しく反映しているのかどうか、判断できないのだ。

NHKは宮内庁記者クラブで田島日記に関する資料を配布したが、配布されたのは日記全体ではなく、NHKが選んだ部分だけだった。田島氏のご遺族が了承した部分だという説明もあったが、それはNHKが報道した分にすぎない。新聞メディアをはじめ各社がその後報じた内容は、NHK配布の資料が各社の持てるすべての素材であるために、NHKと基本的に同じにならざるを得ず、NHKの視点を拡大することになる。

もう一点、NHKは今回の放送を「初公開」「秘録」と宣伝するが、田島日記は16年前の03年6月号と7月号の「中央公論」と「文藝春秋」で加藤恭子氏が紹介済みだ。加藤氏が伝えたのは昭和天皇が頻りに戦争を反省し、後悔されていたという点で、NHKの番組でもそうした思いを述べるくだりが俳優の重々しい口調で演じられている。

天皇の政治利用

16年前の「文藝春秋」には「朕ノ不徳ナル、深ク天下ニ愧ヅ」として「昭和天皇 国民への謝罪詔書草稿」全文も報じられている。この草稿は吉田茂首相らの反対で、過去への反省の表現などが「当たり障りのない表現に」(加藤氏)変えられたことを、加藤氏は、昭和天皇の思いを実現させるべく懊悩する田島氏の取り組みを通して紹介した。

NHK報道の新しい側面は、この点を昭和天皇と田島氏の対話形式で明らかにしたことだ。

他方、NHK報道で最も印象的なのが先述の憲法改正に関する点だ。これまで御製等を通じて推測可能だった再軍備と憲法改正への思いを、昭和天皇は具体的に語っていらした。

昭和天皇は1952年には度々日本の再軍備や憲法改正に言及され、2月11日には「他の改正ハ一切ふれずに軍備の点だけ公明正大に堂々と改正してやつた方がいゝ」と述べられていた。3月11日には「侵略者のない世の中ニなれば武備ハ入らぬが侵略者が人間社会ニある以上軍隊ハ不得己(やむをえず)必要だ」と指摘され、53年6月1日には米軍基地反対運動に「現実を忘れた理想論ハ困る」と常識的見解を示された。

こうして明らかにされた昭和天皇のお気持を知って、日本国の在り方に責任を持とうとするそのお姿には感銘を受ける。だが、国民も政府も慎重でなければならない。日本は立憲君主国で、君主たる天皇は君臨はするが統治はしない。何人(なんぴと)も天皇の政治利用は慎まなければならないからである。

そもそも側近の日記がこのように、公開されてよいのかと疑問を抱く。これまでも多くの側近が日記やメモを公開してきたが、天皇に仕えて見聞した、いわば職務上知り得た情報の公開には極めて慎重でなければならないはずだ。公開されれば当然、私たちは強い関心を持って読む。しかし、そのようなことは、側近を信頼なさった天皇への裏切りではないか。こんなことで皇室、そして皇室を戴く日本は大丈夫か、国柄はもつのかと問わざるを得ない。皇室に仕える人々のルール作りが必要だ。

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