「 前向きな報じ方が多かった韓国大統領演説 私の印象はむしろ底意地の悪い日本非難だ 」
『週刊ダイヤモンド』 2019年3月16日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1271
文在寅韓国大統領の「3・1運動記念式」での演説を前向きに報じたメディアが多かった。
「時事通信」は「日本批判を控えた」とし、「毎日新聞」は「文大統領『協力の未来』強調、対日批判避ける」の見出しで「直接の対日批判を控え、『朝鮮半島の平和のため、日本との協力も強化する』と日韓協調を呼びかける内容」だと伝え、「朝日新聞」は「外交摩擦を避ける姿勢を示した」と報じた。
私の印象は異なる。文演説を貫く思想と論理に「対日批判を控えた」などの論評は当たらない。むしろ、まつわりつく底意地の悪い日本非難だったと感ずる。
氏はざっと次のように語っている。
「日帝(大日本帝国)は独立軍を『匪賊』、独立運動家を『思想犯』と見做し弾圧した。このときに『アカ』という言葉もできた。これは民族主義者からアナキストまで、全ての独立運動家にレッテルを貼る言葉で、日帝が民族を引き裂くために用いた手段だった」
日本の敗戦で朝鮮は独立した。彼らはそれを「解放」と呼ぶが、文氏は「解放された祖国で『日帝警察の出身者』が『独立運動家をアカとして追及し、拷問』した」と演説している。
日本が「民族を引き裂く手段」を朝鮮社会に埋め込み、それが独立後も生き続けたと主張したのだ。「多くの人々が『アカ』と規定され」「家族と遺族は反社会的の烙印を押された中で不幸な人生」を送り、現在もその呪いが続いているというのが文氏の非難だ。
「今も、攻撃する道具としてアカという言葉が使われており、変形した『イデオロギー論』が猛威をふるっている。一日も早く清算すべきは、このような代表的な親日残滓です」
どう読んでもこれは、「対日批判を控え」「日韓協調を呼びかける内容」ではないだろう。文氏の批判は反日にとどまらず反米にも通ずる。朝鮮半島を巡る国際政治の力学を、従来の「日米韓vs中北」から「日米vs中北韓」の構図に変える意図が読み取れる。
3月1日のインターネットの「言論テレビ」で朝鮮問題の専門家、西岡力氏が解説した。
「文演説に先立つ2月27日に、韓国の第一野党である自由韓国党の代表選挙が行われました。3人の候補者は、文政権は安全保障で北への武装解除を進め、経済では社会主義政策を取る亡国政権だ、これでは韓国も自由民主主義体制も滅びると、激しく非難しました。彼らは文政権の思想的基盤は共産主義に近いと疑っています。そのような中で展開される『アカ』批判は日帝そのものだという反撃が、先の文氏の3・1演説なのです」
文氏が訴えたのは、日本統治が終わっても憎むべき親日派は清算されずに韓国に残り、反共勢力、親米勢力に化けて(朴正煕元大統領のような)軍事政権を作った。自分がその勢力を一掃するのだという決意に他ならない。
それに対して、保守派は文氏の動きの背後には結局、北朝鮮、「アカ」がいると突きつける。さらにそれに対して、その表現こそ日帝の影響を受けた親日派の証拠だというのが、文演説の真意だ。文氏は決して日本に配慮しているのではない。西岡氏の指摘だ。
「文氏は一方で、大きな嘘もついています。1919(大正8)年の3・1独立運動の参加人数を202万人、死者は7500人だったと演説しました。実は韓国の国立機関、国史編纂委員会が2月20日に最新の研究成果として、デモ参加者は103万人、死者は934人と発表しました。文氏は国立機関の調査結果を無視して、それに倍、または8倍の大きな数字を言ったわけです。対日歴史戦はまだまだ続ける執念深さがあるのです」
ちなみに朝日新聞も専門家で構成する国史編纂委員会報告を無視して文氏同様、死者7500人と報じた。こちらは間違いか、大嘘か。教えてほしい。