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2018.10.18 (木)

「 中国と対峙する米政権を日本は支えよ 」

『週刊新潮』 2018年10月18日号
日本ルネッサンス 第823回

マイク・ペンス米副大統領が10月4日、アメリカの有力シンクタンクのハドソン研究所で行った演説は凄まじかった。トランプ政権が中国の脅威をどれ程深刻にとらえているか、また中国に対してどれ程厳しい戦いを展開しようとしているかを世界に周知させた演説だった。米中はまさに「新たなる冷戦」(米クレアモント・マッケンナ大学ケック国際戦略研究所所長、ミンシン・ペイ氏)の中で鎬を削っていることを示すもので、日本は政府も民間も、このアメリカの決意を十分に理解し日本の国益につなげなければならない。

ペンス氏は演説の冒頭、ハドソン研究所中国戦略センター所長のマイケル・ピルズベリー博士の名前を口にして、研究所に招かれたことに謝意を表明している。

ピルズベリー氏は3年前に、『China2049』を世に問うた。日本語にも訳された同書はワシントンに一大旋風を巻き起こした。著書の中で氏は、自身が米政府の一員として長年中国と関わり、一貫して手厚い保護と援助を中国に与えるようアメリカ政府の政策を立案してきた体験を詳述している。

豊かになれば中国はアメリカのように自由で民主的な国になりたいと望むに違いないと信じて援助してきたが、中国はアメリカの考え方や価値観には反対の立場であり、中国がアメリカのようになりたいと考えることなど期待できないとの結論を下している。自身も含めてアメリカは中国に騙されていたという痛恨の思いを、援助と裏切りの生々しい具体例を挙げつつ、氏はこれでもかこれでもかとばかり書き連ねたのだ。

ピルズベリー氏の個人名を敢えて演説冒頭で口にしたペンス氏は、明らかにピルズベリー氏の中国体験に学んでいると考えてよいだろう。

余談だが、ピルズベリー氏を最初に日本に招いたのは、私の主宰するシンクタンク、「国家基本問題研究所」である。2010年の国際セミナー、「インド洋の覇権争い・21世紀の大戦略と日米同盟」で日米中印の国際会議を開催し、副理事長・田久保忠衛氏の長年の友人である中国専門家のピルズベリー氏に声をかけたのだ。

トランプ氏の本心

ペンス氏はトランプ大統領と習近平国家主席は過去2年足らずの間に「強い個人的絆」を築いたと語る一方で、「今日、私は米国民が知るべきことを語りに来た」として、「北京は国ぐるみであらゆる政治的、経済的、軍事的手段を使い、さらに宣伝戦を通して米国内で影響力を強め中国の国益につなげようとしている」と、約1時間にわたって強烈な非難の言葉を連ねた。

現在のアメリカの対中政策はトランプ大統領が昨年12月に発表した「国家安全保障戦略」で明らかなように、それ以前の政権の対中政策とは異なると、ペンス氏は強調する。

右の戦略を現場の戦術に置き換えて説明した「国家防衛戦略」は、中国とロシアの脅威を、「略奪的経済政策」「周辺諸国を恫喝し続ける」などの強い表現で非難し、アメリカの敵は、「テロではなく、中露両国」だと位置づけ、とりわけ中国に対する警戒心を強く打ち出す内容だった。

ここで、多くの人は疑問を抱くに違いない。この戦略報告の前には、トランプ氏は習氏をカリフォルニアの自身の別荘、マララーゴに招き(昨年4月6日)、その後の11月8日にはトランプ氏が北京を訪れ、歯の浮くような賞賛の言葉を習氏に贈った。また、戦略報告の後、今年に入ってからは中国に制裁的関税をかける一方で、北朝鮮の非核化を巡って中国の助力を期待し、またもや習氏を度々ほめ上げた。トランプ氏の本心はどこにあるのか、と迷うのは当然だ。

トランプ氏の言葉と行動が往々にして一致しないために、アメリカの対中政策の真実が何処にあるのかを測りにくいのは確かだが、この2年間の「実績」を辿っていくと、トランプ政権はいま、本気で中国と対峙しようとしていると見てよいだろう。

ペンス氏は、アメリカも賛成して中国を世界貿易機関(WTO)に参加させたのが2001年であり、これまでの17年間にアメリカは中国に巨額の投資を行い、その結果中国のGDPは9倍に成長したと説明する。

他方、中国共産党は、自由で公正な競争というアメリカが大切にする価値観とは相容れない関税、割当、自国産業への不公正な補助金、為替操作、企業への強制的技術移転の要求、知的財産の窃盗などの不公正な手段で応じてきたとし、いま、「中国製造2025」というスローガンを掲げて、25年までに世界の最先端産業の90%を中国がコントロールしようとしていると論難する。

ロボット、バイオ、人工知能

ペンス氏は具体的にロボット、バイオ、人工知能の分野を挙げて、中国がアメリカに対して優位に立ち、支配を確立するために、如何なる手段を講じてもアメリカの技術や知的財産を盗み取ろうとしていると、強く反発した。

軍事的にも、中国はかつてない程大胆な挑戦を続けているとして、日本が施政権をもつ尖閣諸島の事例にまっ先に触れた。南シナ海でアメリカのイージス駆逐艦「ディケーター」が「航行の自由」作戦を行っていると、中国海軍の駆逐艦が40メートルの近さにまで異常接近した事例にも言及し、アメリカはこんなことには屈しないと息巻いた。

中国の言論弾圧、宗教弾圧にも具体的に触れ、国民全員を監視する中国は、社会をジョージ・オーウェルの世界にしようとしているのだと喝破した。

貧しい発展途上の国々を借金漬けにして、港や鉄道などのインフラを取り上げてしまう債務の罠についても豊富な具体例を列挙して中国の手法を非難した。

また、アメリカに対しては、アメリカ国民に影響を与え、トランプ氏以外の大統領を選ばせようと情報工作をしており、中国政府が「米国社会分断のために、正確かつ注意深い打撃を加えるよう」指示を出していると語っている。そのために、自由の国アメリカに、中国はラジオ局を30局以上設立し、中国のテレビ放送は7500万人の視聴者を獲得している、その影響は大きいと警告する。

中国の許容し難い点をおよそすべて列挙して、トランプ政権はアメリカの国益を中国の略奪的行動から守る決意だと、ペンス氏は強調した。どう考えても、アメリカの価値観と中国のそれは合致しない。突き詰めれば突き詰める程、相違は大きくなる。米中の冷戦は長期化するとの前提に立って、アメリカと歩調を合わせる局面である。それが日本の国益につながる。トランプ氏の言葉に惑わされず、アメリカ政府の政策をじっと見るべきときだ。

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