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2018.09.27 (木)

「 山は動くか、日露平和条約への誘い 」

『週刊新潮』 2018年9月27日号
日本ルネッサンス 第820回

「年内に無条件で日露平和条約を締結しよう」

極東のウラジオストクで開催された東方経済フォーラムで、プーチン露大統領が安倍晋三首相に、突然、呼びかけた。これまで、日露間で幾度も話し合われたが、領土問題は少しも解決に近づかず、平和条約締結も前進しなかった。それがいま、今年中の平和条約締結をというのだ。その精神は1956年の日ソ共同宣言にあることを、プーチン氏は示唆している。発言の真意と狙いは何か。

年来、いつ返還されるかは別にして、北方四島は元々日本に帰属するとロシア側が認めることが、平和条約締結の大前提だと、日本は主張してきた。従って前提条件なしの平和条約締結に対しては、北方領土問題の棚上げもしくは切り捨てにつながるという、警戒感が強い。

日本外交の敗北につながりかねないこのような提案が、突然なされたのは何故か。外形上の動きだけを追えば以下のようになる。東方経済フォーラムの全体会合で、安倍首相が次のように発言した。

「(2016年12月の日露首脳会談で)今までのアプローチを変えていくべきだと我々は決意した。両国民が領土問題を解決し平和条約を締結する意義を理解できるように、努力を積み重ねることから始めようということだった」

プーチン氏が直ちに応えた。

「シンゾウはアプローチを変えようと言った。今、この案を思いついた。事前条件なしで年末までに平和条約を締結しよう。その後、意見の隔たりのある問題の解決を続けよう」

プーチン発言を、安倍首相は苦笑いととれる表情で聞きつつも、反論はしなかった。各紙は概して厳しい論調を掲げた。とりわけ「朝日」と「産経」は各々、「前のめり外交の危うさ」、「領土棚上げ断固拒否せよ」などの見出しを掲げて批判した。

千載一遇のチャンス

朝日は安倍嫌いゆえか、感情的で非難がましい筆致ばかりが目立った。産経は徹底的な批判に終始したが、論理的で整合性がとれていた。興味深いのは「読売」が事実上、音無しの構えを見せていることであり、プーチン発言に対する首相の受けとめ方と共に注目に値する。安倍氏は日本記者クラブ主催の自民党総裁選挙の討論会で、こう語っている。

「領土問題を解決して締結するとの日本の立場を、(プーチン氏の)発言の前も後も、ちゃんと(自分は)述べているし、プーチン氏からの反応もある」「(プーチン氏の)言葉からサインを受けとらなければならない。『平和条約をきちんとやろう』と言ったことは事実だ」

そのうえで安倍氏は11月、12月に予定されているプーチン氏との会談を「重要な首脳会談になっていく」と位置づけた。プーチン発言から果実が生み出される可能性を示唆したと見るのは、拙速にすぎるだろうか。

日本外交を誰よりも深く理解し、戦略的に進めてきた安倍氏が、プーチン氏と22回も会談した末に、プーチン発言を前向きに受けとめている。表面には出てこない水面下の話し合いの中で、どんな解決策が探られてきたのか。安倍氏との関係が近い産経新聞政治部長の石橋文登氏が9月14日の「言論テレビ」で語った。

「本当に大きく山が動く可能性がある。プーチン氏は日ソ共同宣言に非常にこだわりを持っている。ということは、平和条約締結のあと、無条件で2島が返ってくるということです。後は交渉次第です。向こうからボールを投げてきたのは、非常に意義が大きいと見ています」

北方領土に関して日ソ共同宣言は次のようになっている。「ソヴィエト社会主義共和国連邦は、日本国の要望にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞群島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし、これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」

4島ではない。日本への帰属の確認が先だとは明記されていない。しかし、平和条約の締結後に2島を引き渡すとなっている。

「元島民の平均年齢は80歳近くです。10年、20年したら、元島民がいなくなり、島に戻りたいという人も少なくなる。こうした中で、新しい局面を切り開きたいと考えているのではないでしょうか」と石橋氏。

領土という国民感情に強く訴える問題は、強力な指導者間のトップダウンでなければ決して決まらない。プーチン氏は今年春、選挙に勝って任期を6年間延ばした。安倍氏は9月20日の総裁選に圧勝してもう3年の任期を勝ち取る。千載一遇のチャンスだと、プーチン氏は見たのではないか。

2島の返還

「向こう側が年末までと期限を切ってボールを投げてきた。もしかしたらクズ山かもしれない。けれど、これを受けとめなければ二度とチャンスは巡ってこないというのも事実ではないでしょうか」と石橋氏。

山は動く可能性あり、と見ているのは元駐日ロシア大使のアレクサンドル・パノフ氏も同様だ。氏は「年内の平和条約締結」案はプーチン大統領が「今思いついた」ものでもなく「新しいものでもない」と、9月14日付朝日で語っている。

「プーチン氏が2000年に最初に大統領に就任した当時からあった。当時は二つの条約を想定した。最初の条約で平和と友好、協力を定め、その条約を基礎に後で国境に関する二つ目の条約を結ぶというものだ」

パノフ氏は、プーチン氏が今回語ったのは一つ目の条約のことで、もしそれが実現すれば、北方四島での共同経済活動は二つ目の条約に入れることができるという。

氏は、ロシア側は準備が整っているが、安倍政権はプーチン発言に対応できない可能性も見てとっている。

日露交渉の歴史には日ソ共同宣言、東京宣言、クラスノヤルスク合意、川奈提案、イルクーツク声明など、4島返還の要求を貫く幾多の苦労の痕跡が刻まれている。そうした苦労の歴史を一気に飛び越え、或いは捨てる形で、小さな2島の返還にとどまるであろう日ソ共同宣言に立ちかえることだけを安倍首相が考えているわけではないだろう。22回に上るプーチン氏との、時には本音を見せ合うこともあったであろう首脳会談の中身を知る術はないが、安倍氏ならば国益を損ねることはしないと思う。

それにしても日本の立場は容易ではない。わが国は日米安保条約で守られているのであり、自力でロシアとわたり合うには限りがある。その限界の中で、北方領土も拉致も、解決しなければならない。そうした限界を痛感するたび、いつも思う、一日も早い憲法改正が必要だ、と。

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