「 人口学から見て非常に脆弱な中国 日本の真の国難も同様だ 」
『週刊ダイヤモンド』 2018年8月4日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1242
シンクタンク「国家基本問題研究所」は今年5月、創立10周年国際セミナーにフランスの歴史人口学者で家族人類学者のエマニュエル・トッド氏を招いた。氏は国家や国際関係を経済や軍事を軸とした戦略論ではなく、人口や家族形態の変化を軸に論ずることで知られる。
たとえば博士号を取得した若き研究者の時代、旧ソ連の乳幼児の死亡率の高さから、同国の崩壊を予測した。歴史の展開を言い当てた氏は25歳にして国際的な評価を確立した。
人口学から見た場合、少子高齢化の日本は脆弱国家そのものだ。トッド氏はわが国に鋭い警告を発し続けるが、もうひとつ、氏が非常に脆弱な大国とするのが中国だ。彼らの危機は人口動態にとどまらず、教育、国民の流出にあるという。
トッド氏の描く中国の危機の大構図を理解するには、近藤大介氏の『未来の中国年表 超高齢大国でこれから起こること』(講談社現代新書)を読むのがよい。近藤氏は毎年数回中国を訪れ、人々や社会の様子を定点観測してきた。
1982年から2015年まで、30年余の「一人っ子政策」の結果、現在30代以下の中国人は基本的に皆一人っ子である。彼らは「小皇帝」「小公主(皇帝の小さな姫君)」などと呼ばれ、「四二一家庭(四人の祖父母と二人の親が一人の子供に集中して甘やかす)」の中で育つ。彼らの一番の問題が「肥満」だそうだ。我が儘一杯の肥満児の大軍がひしめく社会はどこから見ても不健全だ。
中国政府は少子高齢化に陥った日本の轍を踏むまいと、3年前に正式に二人っ子政策に転換した。だが、多くの中国の若い世代はもはや二人の子供など持ちたくないと考える。理由のひとつが年老いた両親と子供を同時に養う事態に直面することだそうだ。保育園、幼稚園、小児科病院など施設が整っていないというのも理由である。一人っ子には一人っ子の概念が定着しており、その他のケースを想像しにくい心理の壁もあるという。
一人っ子政策は中国の労働市場や高齢化の加速に深刻な問題を生じさせただけでなく、近隣諸国や世界に大変な犠牲を強いつつある。
一人しか子供を持てないなら、男児優先だという伝統的価値観ゆえに、生まれてくる子供の数の男女差が異常に大きい。人間の子供はどの国でも男の赤ちゃんの数が女の赤ちゃんよりも多い。比率は大体、女児を100とすると男児が102から107の間を正常値と見る。ところが中国では120を超えた年が近年で三度もあり、3000万人もの結婚適齢期の男性が結婚相手を見つけられないでいる。
彼らはどうするのか。近藤氏は(1)国際結婚、(2)同性愛、(3)空巣青年の道があるという。
(1)は、中国農村部ではアフリカの女性たちとの結婚がすでに大流行だそうだ。彼女らが中国に流入する事例もあるが、逆に中国人労働者がアフリカで結婚するケースも多い。結果、漢民族がアフリカ諸国を席巻するのである。
これとは別に、私は中国の少数民族、ウイグル人女性が適齢期になると故郷から遠く離れた沿海部に連れて行かれ、安い賃金で働かされ、最終的に漢人男性との結婚を強いられる実例を多く聞いてきた。その結果、ウイグル人男性は結婚相手を奪われ、子供を持てず民族浄化が進行中だ。
(2)は彼らの文明、選択である。
(3)の空巣青年とは親のスネをかじって引きこもり、恋も旅もスマホ体験で満足する人々だ。彼らはずっと一人でいる可能性が高い。社会福祉制度の整っていない段階で習近平政権はこれらの問題に対処できるとは思えない。
だが、日本も危うい。安倍晋三首相の言うように、少子化こそは日本の真の国難であることを知り対処したい。