「 加計学園報道は反安倍倒閣運動だ 」
『週刊新潮』 2017年7月27日号
日本ルネッサンス 第763回
愛媛県今治市に加計(かけ)学園の獣医学部を新設する問題で7月10日、国会閉会中審査が衆参両院で行われた。
この日の審査について「朝日新聞」や「毎日新聞」は、今や彼らの習い性となったかのような徹底した偏向報道を行った。
両紙は、官邸の圧力で行政が歪められたと繰り返す前川喜平前文部科学事務次官の証言を主に伝え、氏とは反対の立場から、安倍晋三首相主導の国家戦略特区が歪められた行政を正したのだと主張した加戸守行前愛媛県知事の証言は、ほとんど報じなかった。こうして両紙は一方的に安倍首相を悪者に仕立てた。
大半のテレビ局の報道も同様に偏向しており、報道は今や、反安倍政権・倒閣運動の様相さえ帯びている。
閉会中審査で証言したにも拘らず、殆ど報じてもらえなかったもう一人の参考人、内閣府・国家戦略特区ワーキンググループ(WG)委員の原英史氏が憤る。7月14日、インターネット配信の「言論テレビ」で開口一番、こう語った。
「加計学園についての真の問題は、獣医学部新設禁止の異様さです。数多ある岩盤規制の中でも、獣医学部新設の規制はとりわけ異様です。まず、文部科学省の獣医学部新設禁止自体が異様です。通常の学部の場合、新設認可の申請を受けて文科省が審査しますが、獣医学部に関しては新規参入計画は最初から審査に入らない。どれだけすばらしい提案でも、新規参入は全て排除する。こんな規制、他にはありません」
公務員制度改革も手掛けた原氏は忿懣(ふんまん)やる方ないといった趣きだ。
「異様の意味はもうひとつあります。既得権益の塊のようなこの岩盤規制が、法律ではなく文科省の告示で決められていることです。国会での審議も閣議決定もなしに、文科省が勝手に決めた告示です」
獣医の絶対的不足
文科省の独断の表向きの理由は、獣医の需給調整、即ち獣医が増えすぎるのを防ぐためと説明されている。だが実際は、競争相手がふえて既得権益が脅かされることへの日本獣医師会側の警戒心があると見られている。大学も同様だと、原氏が語る。
「獣医系学部・学科があるのは現在16大学です。志望者は多く、入試倍率は平均で15倍、学生はどんどんきます。定員は全国で930人ですが、実際の入学者は1200から1300人と、水増ししています」
定員の50%増で学生を受け入れる程ニーズがあるのに新設させない理屈は何か。獣医師会側はあくまで、獣医は余っている、これ以上養成する必要はないと主張する。
加戸氏は、知事として愛媛県の畜産農家の実情を見詰めてきた。その体験から、獣医師は絶対的に不足していると強調する。
「私の知事時代、鳥インフルエンザが発生しました。感染拡大を防ぐために獣医という獣医に集合してもらいました。県庁職員の産業動物獣医には、獣医の絶対的不足の中、定年を延長して働いてもらっています。70代の獣医さんをかき集めても、それでも足りない。獣医学部新設を許さない鉄のような岩盤規制をどれだけ恨めしく思ったかしれません」
「現場はおよそどこでも獣医不足です。現場を見ることなしに発言してほしくないと思います」と原氏。
実際に何が起きていたのか。原氏が異様だと非難した実態は如何にして生れたのか。こうした問いの答えにつながる情報を、7月17日の「産経新聞」がスクープした。その中で日本獣医師会と石破茂氏の会話が報じられている。
2年前の9月9日、地方創生担当大臣だった石破氏を、「日本獣医師政治連盟」委員長の北村直人氏らが訪ね、石破氏がこう語ったという。
「今回の成長戦略における大学学部の新設の条件については、大変苦慮したが、練りに練って誰がどのような形でも現実的に参入は困難という文言にした」
絶対に獣医学部新設を阻むべく、規制を強めたと言っていることがうかがえる。具体的にはそれは「石破4条件」を指すとされ、獣医学部新設のハードルを上げて極めて困難にしたと報じられた。
石破氏に連絡がつかず、この点について直接確認できなかったが、産経の取材に、氏は右の発言も含めて全面的に否定した。ただ右の言葉は日本獣医師会のホームページに石破氏との対話として公開されている。
こうした中で、加計学園に獣医学部の新設が認められたのはなぜか。原氏が説明した。
「獣医学部新設は、平成26(2014)年からWGで議論していました。当時議論していたのは、新設の提案があった新潟のケースです。しかし、肝心の大学(新潟食料農業大学、2018年開学予定)がついてこず、具体化しませんでした。他方、今治の提案は平成27年末に受け入れられました」
天下りの土壌
加戸氏が語る。
「私は知事になって2000年頃からずっと、今治市と協力して地元の熱意と夢を担って、獣医学部新設を働きかけてきました。私たちの特区申請は何回も門前払いを食らい、口惜しかった。一番強く反対したのが日本獣医師会でした」
加戸氏は特区申請を認めてもらえるように教授陣を充実させ、ライフサイエンス分野で新しい研究を進めること、感染症対策にも積極的に取り組むことなどを盛り込み、提案を練り上げた。
「四国4県のどこにも獣医学部はありません。今治市だけでなく四国全体の夢として準備を重ねましたから、今治が最適だという自負があります。安倍首相と加計さんが友人であることは全く無関係です」(加戸氏)
原氏が加えた。
「獣医学部新設の提案は、新潟市、今治市と京都の綾部市からありました。綾部市は京都産業大学を念頭に置いていたのですが、7月14日に京産大が正式に提案を撤回しました。新潟は申請自体が具体化していません。結局、充実した案を示したのが今治市と加計学園のチームだった。熟度が全く違いますから、彼らが選ばれるのは当然です。安倍首相の思いや友人関係など個人的条件が入り込む余地など全くありません」
先述のように、加戸氏は国家戦略特区で今治市と加計学園が認められたことで、歪められた行政が正されたと語り、官邸が行政を歪めたという前川氏の主張を真正面から否定した。行政を歪めた張本人は、前川氏の言う官邸ではなく加戸氏が指摘したように獣医師会と文科省ではないのか。
その動機に天下りがあるのではないか。強い規制は天下りの土壌を生む。大学は文科官僚の絶好の再就職先だ。大事にしなければならない。加計学園問題は今や事の本質から離れ、文科省、前川氏、朝日新聞などの思惑が渦巻いて反安倍政権と倒閣の暗い熱情で結ばれているのではないか。